[O-0772] 末梢電気刺激が随意運動によって生じる皮質脊髄路の興奮性変化に及ぼす影響
等尺性収縮による検討
Keywords:末梢電気刺激, 随意運動, 運動誘発電位
【目的】
随意運動と末梢電気刺激とを組み合わせた併用治療は脳卒中により損傷した脳機能を再構築し,それにより失われた運動機能を再建することが報告されている。しかし,健常者を対象とした先行研究では,末梢電気刺激を等尺性収縮と求心性収縮に組み合わせたときに,その効果が異なることが明らかになっており,臨床場面においても組み合わせる収縮形態に応じた刺激方法の選択が求められている。
一方,等尺性収縮には外力に抗して一定の関節角度を保持する場合と一定の角度を保持した状態で自ら筋力を調整する場合の2条件があることが知られている。しかしながら,末梢電気刺激が2つの異なる等尺性収縮に及ぼす影響は十分に検討されていない。
本研究では,経頭蓋磁気刺激法(TMS)を用いて,末梢電気刺激が異なる等尺性収縮に伴う皮質脊髄路の興奮性に及ぼす影響を検討することを目的としている。
【方法】
対象は健常成人6名(男性5名,女性1名,年齢22.5±2.3歳)とした。末梢電気刺激は周波数10 Hz,パルス幅1 msecにて手根部で尺骨神経を刺激した。電気刺激強度は運動閾値上(運動閾値の1.1倍)と感覚閾値上(感覚閾値の1.1倍)の2条件とした。運動閾値は筋収縮が出現する強度とし,感覚閾値は刺激を知覚しはじめる強度とした。
随意運動は母指と示指を用いて等尺性のピンチ動作を5秒間実施するものとし,その強度は最大随意筋力の20%(20%MVC)とした。ピンチ動作は,力制御課題と角度制御課題の2条件とした。力制御課題はモニター上に筋電図波形を提示した状態で行うピンチ動作とし,角度制御課題は示指MP関節に働く外的な伸展作用に対し,示指が母指に接触した状態で屈曲位を保持するものとした。課題は,①随意運動+末梢電気刺激(運動閾値上),②随意運動+末梢電気刺激(感覚閾値上),③随意運動のみ,④末梢電気刺激(運動閾値上)のみ,⑤末梢電気刺激(感覚閾値上)のみの5条件とした。随意運動は力制御課題と角度制御課題の2条件とし,それぞれランダムに実施した。
皮質脊髄路の興奮性の評価は,TMSにて第1背側骨間筋(FDI)の運動誘発電位(MEP)を課題前後に記録した。MEPの誘発はピンチ動作開始後5秒に行い,TMS後にピンチ動作を終了するようにした。TMS強度について,随意運動課題では運動時閾値の1.2倍とし,末梢電気刺激課題では安静時閾値の1.2倍とした。運動時閾値はFDIが5%MVCの強度で収縮しているときに,200 μVの運動誘発電位が50%の確率で誘発される強度とし,安静時閾値は50 μVの運動誘発電位が50%の確率で誘発される強度とした。なお,各課題で15回のMEPを計測した。
データ解析として,随意運動+末梢電気刺激課題および随意運動単独課題では,それぞれの課題で平均MEPを算出し,課題前のMEPに対する比を求めた。末梢電気刺激課題では平均MEP振幅を算出した。統計解析として,反復測定分散分析を行った後に,有意差が見られた場合にはpost-hocとしてTukey検定を行った。有意水準は5%とした。
【結果】
力制御課題においてMEP増加比は,随意運動+末梢電気刺激(運動閾値上)で1.32±0.49,随意運動+末梢電気刺激(感覚閾値上)で1.05±0.34,随意運動で0.92±0.33であり,随意運動+末梢電気刺激(運動閾値上)のときに他の課題と比較して,MEPが有意に増大した(p<0.05)。一方,角度制御課題では,随意運動+末梢電気刺激(運動閾値上)で0.84±0.30,随意運動+末梢電気刺激(感覚閾値上)で0.95±0.36,随意運動で0.90±0.15であり,MEPに有意な変化は認められなかった。末梢電気刺激課題におけるMEP振幅値は,運動閾値上刺激で0.79±0.3mV,感覚閾値上刺激で0.95±0.48mVであり,安静時MEP(0.51±0.17mV)と比較し,増大する傾向は認められたが有意差はなかった。
【考察】
本研究では,末梢電気刺激は力制御課題に伴う皮質脊髄路の興奮性を増大するが,角度制御課題には影響を及ぼさないことが明らかとなった。本研究の結果から,同じ等尺性収縮であっても制御する対象が異なることで,末梢電気刺激が及ぼす影響が異なることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,随意運動による介入効果を引き出す末梢電気刺激の刺激パラメータを明らかにしており,臨床場面でこの併用治療を用いる上での重要な基礎的知見を与えると考えられる。
随意運動と末梢電気刺激とを組み合わせた併用治療は脳卒中により損傷した脳機能を再構築し,それにより失われた運動機能を再建することが報告されている。しかし,健常者を対象とした先行研究では,末梢電気刺激を等尺性収縮と求心性収縮に組み合わせたときに,その効果が異なることが明らかになっており,臨床場面においても組み合わせる収縮形態に応じた刺激方法の選択が求められている。
一方,等尺性収縮には外力に抗して一定の関節角度を保持する場合と一定の角度を保持した状態で自ら筋力を調整する場合の2条件があることが知られている。しかしながら,末梢電気刺激が2つの異なる等尺性収縮に及ぼす影響は十分に検討されていない。
本研究では,経頭蓋磁気刺激法(TMS)を用いて,末梢電気刺激が異なる等尺性収縮に伴う皮質脊髄路の興奮性に及ぼす影響を検討することを目的としている。
【方法】
対象は健常成人6名(男性5名,女性1名,年齢22.5±2.3歳)とした。末梢電気刺激は周波数10 Hz,パルス幅1 msecにて手根部で尺骨神経を刺激した。電気刺激強度は運動閾値上(運動閾値の1.1倍)と感覚閾値上(感覚閾値の1.1倍)の2条件とした。運動閾値は筋収縮が出現する強度とし,感覚閾値は刺激を知覚しはじめる強度とした。
随意運動は母指と示指を用いて等尺性のピンチ動作を5秒間実施するものとし,その強度は最大随意筋力の20%(20%MVC)とした。ピンチ動作は,力制御課題と角度制御課題の2条件とした。力制御課題はモニター上に筋電図波形を提示した状態で行うピンチ動作とし,角度制御課題は示指MP関節に働く外的な伸展作用に対し,示指が母指に接触した状態で屈曲位を保持するものとした。課題は,①随意運動+末梢電気刺激(運動閾値上),②随意運動+末梢電気刺激(感覚閾値上),③随意運動のみ,④末梢電気刺激(運動閾値上)のみ,⑤末梢電気刺激(感覚閾値上)のみの5条件とした。随意運動は力制御課題と角度制御課題の2条件とし,それぞれランダムに実施した。
皮質脊髄路の興奮性の評価は,TMSにて第1背側骨間筋(FDI)の運動誘発電位(MEP)を課題前後に記録した。MEPの誘発はピンチ動作開始後5秒に行い,TMS後にピンチ動作を終了するようにした。TMS強度について,随意運動課題では運動時閾値の1.2倍とし,末梢電気刺激課題では安静時閾値の1.2倍とした。運動時閾値はFDIが5%MVCの強度で収縮しているときに,200 μVの運動誘発電位が50%の確率で誘発される強度とし,安静時閾値は50 μVの運動誘発電位が50%の確率で誘発される強度とした。なお,各課題で15回のMEPを計測した。
データ解析として,随意運動+末梢電気刺激課題および随意運動単独課題では,それぞれの課題で平均MEPを算出し,課題前のMEPに対する比を求めた。末梢電気刺激課題では平均MEP振幅を算出した。統計解析として,反復測定分散分析を行った後に,有意差が見られた場合にはpost-hocとしてTukey検定を行った。有意水準は5%とした。
【結果】
力制御課題においてMEP増加比は,随意運動+末梢電気刺激(運動閾値上)で1.32±0.49,随意運動+末梢電気刺激(感覚閾値上)で1.05±0.34,随意運動で0.92±0.33であり,随意運動+末梢電気刺激(運動閾値上)のときに他の課題と比較して,MEPが有意に増大した(p<0.05)。一方,角度制御課題では,随意運動+末梢電気刺激(運動閾値上)で0.84±0.30,随意運動+末梢電気刺激(感覚閾値上)で0.95±0.36,随意運動で0.90±0.15であり,MEPに有意な変化は認められなかった。末梢電気刺激課題におけるMEP振幅値は,運動閾値上刺激で0.79±0.3mV,感覚閾値上刺激で0.95±0.48mVであり,安静時MEP(0.51±0.17mV)と比較し,増大する傾向は認められたが有意差はなかった。
【考察】
本研究では,末梢電気刺激は力制御課題に伴う皮質脊髄路の興奮性を増大するが,角度制御課題には影響を及ぼさないことが明らかとなった。本研究の結果から,同じ等尺性収縮であっても制御する対象が異なることで,末梢電気刺激が及ぼす影響が異なることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,随意運動による介入効果を引き出す末梢電気刺激の刺激パラメータを明らかにしており,臨床場面でこの併用治療を用いる上での重要な基礎的知見を与えると考えられる。