第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述104

地域理学療法9

Sun. Jun 7, 2015 12:00 PM - 1:00 PM 第8会場 (ガラス棟 G402)

座長:久富ひろみ(多摩市役所 健康福祉部障害福祉課)

[O-0773] 地域在住高齢者における体幹加速度から得られる歩行指標

―大規模集団からの年代別検討―

土井剛彦1,2,3, 島田裕之1, 牧迫飛雄馬1, 堤本広大1, 中窪翔1, 鈴木隆雄3 (1.国立長寿医療研究センター老年学・社会科学研究センター生活機能賦活研究部, 2.日本学術振興会, 3.国立長寿医療研究センター研究所)

Keywords:高齢者, 歩行, 加速度

【はじめに,目的】
高齢者の歩行能力を評価することは,移動能力評価だけでなく転倒や虚弱などのリスク評価に有益で,歩行速度だけでなく歩行の質を客観的指標により評価することが重要である。設地型機器に比べ測定環境の自由度が高く,安価である事から,高齢者を対象に小型加速度センサを用いて歩行解析を行った研究が散見される。しかし,その多くは実験的研究によるもので大規模データに基づいた検討はなされておらず,高齢者の歩行を解釈する上で重要な年齢との関係性について未だ整理がなされていない。さらに,解析方法による違いが指標特性に反映されているかについても明らかにされていない。そこで,本研究の目的は地域在住高齢者の大規模集団を対象に,歩行時の体幹加速度をもとに歩行指標を算出し,年代別における変化を各指標について検討する事とする。
【方法】
対象は,日常生活が自立している65歳以上の高齢者で,脳卒中,パーキンソン病,認知症の診断または既往歴を有さない者とした。認知機能障害の影響を除くためMini-Mental State Examinationが20点未満の者を解析から除外し,解析が可能であった989名を対象とした。歩行路は11mとし,小型3軸加速度センサ(MVP-RF8)を第3腰椎レベルに装着し,通常歩行にて測定を行った。得られた加速度信号は,演算ソフト(MATLAB,2012b)を用いて解析を行った。中央5mにおける歩行速度と中央5ストライドを加速度により同定の上,ケイデンス,ストライド時間のばらつき(stride-to-stride time variability:STV)を算出した。加速度からは数値解析を用い,歩行時における体幹運動の定常性(autocorrelation coefficient:AC)と体幹運動の円滑性(harmonic ratio:HR)を各方向(vertical:VT,mediolateral:ML,anteroposterior:AP)において算出した。得られた歩行指標と年齢との関係性を見るために,年齢との単相関に加え,年代別の差異について一元配置分散分析を行いpost hoc解析として多重比較の検討を行った。年代は,年齢にもとづき65歳以上70歳未満(65s),70歳以上75歳未満(70s),75歳以上80歳未満(75s),80歳以上(80s)に分類した。バリマックス法を用いた主成分分析により各歩行指標における特性の違いを検討した。全ての解析は,5%未満を統計学的有意とした。
【結果】
各歩行指標と年齢との相関関係は全て有意であった(歩行速度:r=-0.37,ケイデンス:r=-0.34,STV:r=0.12,AC-VT:r=-0.22,AC-ML:r=-0.20,AC-AP:r=-0.22,HR-VT:r=-0.18,HR-ML:r=-0.16,HR-AP:r=-0.18,all p<0.0001)。各歩行指標ともに年代が上がるにつれてSTVは高値,それ以外の指標は低値をとる傾向にあった(p<0.01)。歩行速度は75sから年代を経るごとに低下がみられ,ケイデンスは各年代ごとに低下がみられ,STVにおいては60sもしくは70sと80sとの間にのみ低下がみられた(p<0.05)。ACは3方向と80sだけが他の年代にくらべ低値をとり,HR-VTならびにHR-APも同様に80sが低値をとっていた(p<0.05)。HR-MLでは75sから低下がみられた(p<0.05)。主成分分析の結果,得られた歩行指標は,歩行速度とケイデンス,各方向のACとSTV,各方向のHRの3種類に分類された。
【考察】
本研究結果より,歩行速度やケイデンスは年齢に応じた低下がみられる一方で,AC,HRともに年齢とは弱い相関関係にあり,80代以上の層に特異的に低下がみられた。ACとSTVとの関連性については高齢者を対象にした実験的研究により報告され,本研究からもACが歩行のばらつきの評価の一種であることが支持された。さらに,本研究は,歩行時の体幹加速度指標における年代別変化について,初めて大規模データに基づいた検討を行い,非常に有益な情報を提示できたと考えられる。これにより,歩行時の体幹加速度の解釈において不明瞭であった部分が明らかになり,高齢者の歩行に対し,体幹加速度から得られる指標が歩行速度とは異なる側面から評価できる可能性が示唆された。今後の課題として,どのような対象者のどのような特性を評価するのに適しているかについて本研究の結果をもとに幅広く検討していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
高齢者に対する理学療法を行う場面で,歩行評価を行う際に機器を用いた客観的評価が積極的に行われるようになりつつある。歩行時の体幹加速度における年代別変化が大規模データより提示できたことで,評価後の解釈やフィードバックの一助となると考えられ,これらをもとに今後の理学療法学研究が飛躍的に推進されると考えられる。