[O-0778] 地域在住高齢女性の脊柱アライメントと身体的機能低下の関連
キーワード:姿勢評価, 高齢女性, 脊柱アライメント
【はじめに,目的】骨粗鬆症に罹患した高齢者の脊柱後弯は,歩行速度の低下に代表される機能低下との関連が報告されている。さらには,消化器疾患や心肺機能低下などを誘発することが知られており,虚弱高齢者における姿勢変化の評価は総合的な臨床指標といえる。一方,健常高齢者の姿勢変化が加齢の影響以外に何を顕在化させるのかは,検討を重ねる必要がある。そこで本研究は,地域在住の健常高齢女性を対象に,矢状面脊柱アライメントと身体的機能との関連を明らかにすることとした。
【方法】対象者は,広報で募集した研究参加ボランティアのうち,ADLがすべて自立する65歳以上の女性90名(平均73.5歳)を分析対象者とした。矢状面脊柱アライメントは,Spinal Mouse(Index社製)を用いて計測・算出される胸椎後弯角,腰椎前弯角,姿勢前傾角(第一胸椎と第一仙椎を結ぶ線と垂線のなす角)を姿勢パラメータとした。なお,測定値は3回計測したうちの中央値を採用した。身体的機能には以下の項目を評価した。歩行・バランス能力はタンデム立位時間,5m最速歩行時間,Timed up & go test(以下TUG)を測定した。筋力は膝伸展・屈曲筋力をBIODEX(Biodex社製),底屈筋力および腹筋群,背筋群はミュータス(アニマ社製)にて全て等尺性筋力を測定した。骨量評価には踵骨部を定量的超音波骨量測定法で測定し,%若年成人平均値(young adult mean:YAM)をパラメータとした。さらに,ケガを伴う転倒歴の有無と年齢,BMIの情報を得た。矢状面脊柱アライメントと身体的機能との関連を分析するために,まず各姿勢パラメータを四分位により,低角度群(25%タイル以下),分析集団における標準:以下標準群(25-75%タイル群),高角度群(75%タイル以上)へ3群化した。連続変数は分散分析,転倒歴はχ二乗検定を行なった後,有意であった項目それぞれについて,年齢を共変量としたロジスティック回帰分析を行なった。モデル式の従属変数には,標準群を参照とする低角度群,高角度群をそれぞれ用いた。統計学的有意水準は5%未満とした。
【結果】胸椎後弯角の低角度群(平均後弯角25.4°),標準群(41.3°),高角度群(55.0°)は,すべての測定項目との間に有意な関連を認めなかった。腰椎前弯角における低角度群(平均前弯角1.0°),標準群(22.0°),高角度群(35.5°)間の比較では,低角度群ほど,つまり腰椎後弯に伴い,高齢傾向,BMI増加,腹筋群・背筋群と底屈筋力の有意な低下を認めた。姿勢前傾角における低角度群(平均前傾角-1.5°),標準群(2.9°),高角度群(9.6°)の比較では,姿勢が前傾するほど高齢で,タンデム立位時間とTUGの成績が低下し,背筋群と底屈筋力の低下を認めた(p<0.05)。しかし最速歩行は姿勢前傾に伴い,速い結果を示した。転倒歴を有する割合は,姿勢が前傾するほど増加した(4.3%,17.0%,27.8%)。続いて,腰椎前弯角と姿勢前傾角を従属変数としたロジスティック回帰分析を行なった。腰椎前弯角の高角度群は(標準群に比して),年齢に関係なく有意に腹筋群の筋力が高く(オッズ比1.3),BMIが低値であった(オッズ比0.8)。姿勢前傾角における高角度群の特徴は,年齢に関係なくタンデム立位時間の成績が有意に低下し(オッズ比0.8),背筋群と底屈筋の有意な筋力低下を認めた(オッズ比0.8,0.9)。しかしながら,最速歩行は年齢に関係なく有意に速かった(オッズ比0.8)。なお,腰椎前弯角と姿勢前傾角ともに低角度群を従属変数とした分析では,有意な変数を認めなかった。
【考察】本研究結果から,地域在住高齢女性においても脊柱アライメントが身体的機能と関連することが示された。ただ,いわゆる円背を示す胸椎後弯角は年齢を含むいづれの変数とも関連しなかった。一方,腰椎が後弯傾向になるほど低機能となり,特に腹筋群が年齢に関係なく関与することが示唆された。今回用いた姿勢パラメータのうち,姿勢前傾角が最も多くの身体的機能との関連を示した。姿勢前傾角が平均約10°であった高角度群は,年齢に関係なくバランスや筋力低下を認めたにも関わらず,最速歩行が速いという相反する結果を示した。前傾姿勢から推進力を得ていることが推察されるが,バランス能力や体幹・下肢筋力は低下しているためそのコントロール性は疑われる。これにより単変量解析で有意差を認めた「ケガを伴う転倒歴」との関連背景が類推された。
【理学療法学研究としての意義】健常高齢女性においても,身体的機能低下の予兆が静的姿勢評価で把握できる可能性を示し,姿勢評価の重要性を改めて確認した。
【方法】対象者は,広報で募集した研究参加ボランティアのうち,ADLがすべて自立する65歳以上の女性90名(平均73.5歳)を分析対象者とした。矢状面脊柱アライメントは,Spinal Mouse(Index社製)を用いて計測・算出される胸椎後弯角,腰椎前弯角,姿勢前傾角(第一胸椎と第一仙椎を結ぶ線と垂線のなす角)を姿勢パラメータとした。なお,測定値は3回計測したうちの中央値を採用した。身体的機能には以下の項目を評価した。歩行・バランス能力はタンデム立位時間,5m最速歩行時間,Timed up & go test(以下TUG)を測定した。筋力は膝伸展・屈曲筋力をBIODEX(Biodex社製),底屈筋力および腹筋群,背筋群はミュータス(アニマ社製)にて全て等尺性筋力を測定した。骨量評価には踵骨部を定量的超音波骨量測定法で測定し,%若年成人平均値(young adult mean:YAM)をパラメータとした。さらに,ケガを伴う転倒歴の有無と年齢,BMIの情報を得た。矢状面脊柱アライメントと身体的機能との関連を分析するために,まず各姿勢パラメータを四分位により,低角度群(25%タイル以下),分析集団における標準:以下標準群(25-75%タイル群),高角度群(75%タイル以上)へ3群化した。連続変数は分散分析,転倒歴はχ二乗検定を行なった後,有意であった項目それぞれについて,年齢を共変量としたロジスティック回帰分析を行なった。モデル式の従属変数には,標準群を参照とする低角度群,高角度群をそれぞれ用いた。統計学的有意水準は5%未満とした。
【結果】胸椎後弯角の低角度群(平均後弯角25.4°),標準群(41.3°),高角度群(55.0°)は,すべての測定項目との間に有意な関連を認めなかった。腰椎前弯角における低角度群(平均前弯角1.0°),標準群(22.0°),高角度群(35.5°)間の比較では,低角度群ほど,つまり腰椎後弯に伴い,高齢傾向,BMI増加,腹筋群・背筋群と底屈筋力の有意な低下を認めた。姿勢前傾角における低角度群(平均前傾角-1.5°),標準群(2.9°),高角度群(9.6°)の比較では,姿勢が前傾するほど高齢で,タンデム立位時間とTUGの成績が低下し,背筋群と底屈筋力の低下を認めた(p<0.05)。しかし最速歩行は姿勢前傾に伴い,速い結果を示した。転倒歴を有する割合は,姿勢が前傾するほど増加した(4.3%,17.0%,27.8%)。続いて,腰椎前弯角と姿勢前傾角を従属変数としたロジスティック回帰分析を行なった。腰椎前弯角の高角度群は(標準群に比して),年齢に関係なく有意に腹筋群の筋力が高く(オッズ比1.3),BMIが低値であった(オッズ比0.8)。姿勢前傾角における高角度群の特徴は,年齢に関係なくタンデム立位時間の成績が有意に低下し(オッズ比0.8),背筋群と底屈筋の有意な筋力低下を認めた(オッズ比0.8,0.9)。しかしながら,最速歩行は年齢に関係なく有意に速かった(オッズ比0.8)。なお,腰椎前弯角と姿勢前傾角ともに低角度群を従属変数とした分析では,有意な変数を認めなかった。
【考察】本研究結果から,地域在住高齢女性においても脊柱アライメントが身体的機能と関連することが示された。ただ,いわゆる円背を示す胸椎後弯角は年齢を含むいづれの変数とも関連しなかった。一方,腰椎が後弯傾向になるほど低機能となり,特に腹筋群が年齢に関係なく関与することが示唆された。今回用いた姿勢パラメータのうち,姿勢前傾角が最も多くの身体的機能との関連を示した。姿勢前傾角が平均約10°であった高角度群は,年齢に関係なくバランスや筋力低下を認めたにも関わらず,最速歩行が速いという相反する結果を示した。前傾姿勢から推進力を得ていることが推察されるが,バランス能力や体幹・下肢筋力は低下しているためそのコントロール性は疑われる。これにより単変量解析で有意差を認めた「ケガを伴う転倒歴」との関連背景が類推された。
【理学療法学研究としての意義】健常高齢女性においても,身体的機能低下の予兆が静的姿勢評価で把握できる可能性を示し,姿勢評価の重要性を改めて確認した。