第50回日本理学療法学術大会

Presentation information

口述

口述105

循環3

Sun. Jun 7, 2015 12:00 PM - 1:00 PM 第9会場 (ガラス棟 G409)

座長:藤田博曉(埼玉医科大学 保健医療学部理学療法学科), 近藤和夫(北光記念病院 心臓リハビリテーション室)

[O-0781] 当院におけるHFpEFの臨床的特徴と理学療法の必要性

緒方光1, 日髙淳1, 岡田大輔1, 兒玉和久2, 中尾浩一2 (1.済生会熊本病院リハビリテーション部, 2.済生会熊本病院循環器内科)

Keywords:HFpEF, 臨床的特徴, 転帰

【はじめに,目的】心不全の治療・理学療法に関するエビデンスは,主に左室収縮能が低下している心不全(Heart failure with reduced ejection fraction:HFrEF)を対象とした研究を基に論じられてきたが,近年,左室収縮能が保たれている心不全(Heart failure with preserved ejection fraction:HFpEF)の臨床的特徴や有効な治療,予後に関する報告もなされている。しかし,入院期のHFpEFに対するリハビリテーション(以下,リハビリ)の経過や転帰に関する報告は少ない。そこで,当院におけるHFpEFの臨床的特徴と経過および転帰を後方視的に調査した。
【方法】2013年10月1日から2014年9月30日までの期間に入院し,理学療法を実施した心不全患者のうち,入院日から3日以内に心臓超音波検査にて左室駆出率(LVEF)を未測定であるもの,入院前の居所が自宅以外であるものおよび入院前より歩行困難であったものを除外した連続228例(年齢75.5±12.4歳,男性131例,女性97例)を対象とした。入院時のLVEFにより,LVEF<40%をHFpEF群(119例)に,LVEF≧40%をHFrEF群(109例)に分類した。検討項目は年齢,性別,Body mass index(BMI),介護保険の介護度,NYHA重症度分類,脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP),ヘモグロビン(Hb),血中尿素窒素(BUN),血清クレアチニン(Cr),推算糸球体濾過量(eGFR),血清アルブミン(Alb),在院日数,集中治療室在院日数,入院からリハビリ開始までの日数,リハビリ開始から歩行開始までの日数,退院時の到達歩行距離,入院前の歩行様式,退院時の歩行様式,入院前のBarthel index(BI),リハビリ開始時のBI,退院時のBI,転帰とした。2群間の比較には,χ二乗検定,Student’s T-test,Mann-Whitney’s U-testを使用し,有意水準は5%未満とした。
【結果】HFpEF群はHFrEF群と比較して有意に高齢(79.1±10.9歳vs 72.0±13.0歳,P<0.01)で女性に多く(54.6% vs 29.4%,P<0.01),Hb(11.1±2.1 vs 12.5±2.4,P<0.01)とeGFR(43.3±24.0 vs 50.4±20.5,P<0.01)は低値であった。NYHA重症度分類に差はなく,BNP値はHFpEF群の方が低値であった(816.6±927.6pg/dl vs 1038.9±936.2pg/dl,P<0.01)。在院日数,集中治療室在室日数,入院からリハビリ開始までの日数に差はなかったが,リハビリ開始から歩行開始までの日数はHFpEF群では遅延しており(0.6±1.5日vs0.3±1.6日,P<0.01),退院時の到達歩行距離はHFpEF群の方が短かった(244.4±191.5m vs 349.3±175.4m,P<0.01)。入院前から退院時のBIおよび独歩が可能である割合はいずれもHFpEF群の方が低く,在宅復帰率も低値であった(71.4% vs 85.3%,P<0.05)。
【考察】HFpEFは高齢・女性に多く,貧血の有病率が高いことは,本邦の多施設登録前向き研究であるJCARE-CARD研究と同様であり,これを支持する結果であった。心不全の重症度は同等もしくはHFpEFの方が軽度であったが,歩行能力やADL自立度はHFpEFの方が低かった。HFpEFでは高齢,女性など身体機能の低下に関わる因子を多く有しているため,歩行能力やADL自立度が低下しており,在宅復帰率が不良であったと考えられる。HFpEFはLVEFが保たれていることから,転帰が良好であると誤って予測してしまう可能性があるため,本研究で示される臨床的特徴を踏まえて理学療法を提供する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】本研究により,HFpEFはHFrEFと比較して歩行能力やADL自立度が低下しており,理学療法の必要性が高いことが示唆された。HFpEFに有効な治療戦略は確立しておらず,理学療法の有効性に関する報告も少ないため,エビデンスの集積が急務であると言える。