第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述105

循環3

Sun. Jun 7, 2015 12:00 PM - 1:00 PM 第9会場 (ガラス棟 G409)

座長:藤田博曉(埼玉医科大学 保健医療学部理学療法学科), 近藤和夫(北光記念病院 心臓リハビリテーション室)

[O-0783] 心不全患者における歩幅と歩行時酸素摂取量の関係

吉村香映1,2, 湯口聡1, 斉藤和也1, 中島真治1, 大塚翔太1, 河内友美1, 浦辺幸夫2, 前田慶明2, 吉田俊伸3 (1.心臓病センター榊原病院リハビリテーション室, 2.広島大学大学院医歯薬保健学研究科, 3.心臓病センター榊原病院循環器内科)

Keywords:心不全, 酸素摂取量, 歩幅

【はじめに,目的】
エビデンスに基づいた標準的薬物治療の確立や植込み型除細動器,心臓再同期療法などのデバイス治療を中心とした非薬物治療が確立し始めたことにより,心不全の生命予後改善,同時に心不全患者数の増加をもたらしている。さらにわが国では人口高齢化に伴い,高齢患者のさらなる増加が見込まれている(Okura et al, 2008)。
労作時呼吸困難や易疲労性は,心不全患者の運動耐容能低下を示す特徴的な症状とされている。健常例と比較した心不全患者の歩行の特徴について,これまでに歩行速度低下や歩幅短縮が報告されている(Pepera et al, 2012)。また,健常例では歩行率(単位時間あたりの歩数)によって歩行中のエネルギー消費量が変化することが報告されている(Umberger et al, 2007)。しかしながら,心不全患者を対象として歩幅と歩行中のエネルギー消費の関係を示した報告は見当たらない。
そこで今回は,心不全患者を対象として歩幅とエネルギー消費の指標である酸素摂取量(VO2)との関係を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は,2014年3月~10月までに当院へ心不全加療目的で入院となった21例であり,男性11例(52%),女性10例(47%),年齢は81.6±12.1歳,BMIは22.6±3.7kg/m2であった。入院時左室駆出率は,49±13%,入院時BNPは,425.1±351.8(pg/ml)であった。心不全の原因疾患の内訳は,虚血性心疾患2例(9%),心筋症7例(33%),弁膜症5例(23%),その他7例(33%)であった。なお本研究では,既往に片麻痺や運動器疾患(変形性膝関節症,大腿骨頸部骨折術後)を併存する7例(33%)も対象として含めた。
歩行時VO2は,携帯型呼気ガス分析器(FitMate2000,COSMED社)を用いて退院時に測定し,その平均値と最高値(ml/kg/min),さらに平均値を歩行速度(m/min)で除した値よってO2 cost(ml/kg/m)を求めた(Waters et al, 1999,Motl et al, 2010)。測定は5分間の安静座位後に6分間を上限として快適歩行速度にて実施した。さらに,10mあたりの歩数を計測し,歩幅(m)と歩幅を身長で除した値の百分率(歩幅身長比[%])を求めた。
統計学的解析は,歩行時平均/最高VO2,O2 costと歩幅/歩幅身長比との相関をピアソンの相関係数を用い,危険率は5%未満とした。
【結果】
歩行時平均VO2は7.9±1.6ml/kg/min,歩行時最高VO2は9.8±1.8ml/kg/min,O2 costは0.35±0.26ml/kg/mであった。歩幅は0.32±0.17m,歩幅身長比は20.2±10.4%であった。歩幅/歩幅身長比と歩行時平均VO2との相関係数はr=0.181/0.162,歩幅/歩幅身長比と歩行時最高VO2との相関係数はr=0.020/0.002であり,有意な相関を認めなかった。歩幅/歩幅身長比とO2 costとの相関係数はr=-0.867/-0.857であり,有意な負の相関を示した(p<0.001)。
【考察】
歩幅や歩幅身長比とO2 costとの関係は,強い負の相関を示し,10mあたりの歩幅や歩幅身長比が短縮している患者ほど距離あたりのVO2(O2 cost)が増加している結果となった。高齢者の歩幅は,下肢筋力やバランスによる影響があるとされており,心不全患者においてO2 costの面から,歩幅に着目した理学療法プログラムの立案が必要であると考える。
また,60~80歳の健常高齢者のO2 costは,0.16ml/kg/mが基準とされている(Waters et al, 1999)。本研究の対象では,O2 costは平均0.35ml/kg/mであり,距離あたりのVO2は先行報告と比較して高値を示した。しかし,対象のなかに片麻痺や運動器疾患を併存する例も含めて検討している。今後の課題として,心不全のみを有する患者と併存疾患を有する心不全患者間の比較や心不全重症度による影響を明らかにする必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究では,歩幅や歩幅身長比が短縮している患者で,O2 costが増加していることが示された。歩幅は,測定が簡便で日常生活に近い評価指標の一つであり,運動の種類や運動量を設定するうえで有用な指標になり得る可能性がある。