第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述106

神経・筋機能制御2

Sun. Jun 7, 2015 12:00 PM - 1:00 PM 第10会場 (ガラス棟 G602)

座長:高木峰子(神奈川県立保健福祉大学)

[O-0786] キセノン光の星状神経節近傍照射と骨格筋への直接照射では上肢骨格筋血流量の増加パターンが異なる

前田貴哉1,2, 吉田英樹2, 照井駿明3, 片石悠介4, 谷脇雄次4, 花田真澄4, 志田航平4, 嶋田有紗4, 天坂輿4, 中村洋平4 (1.医療法人整友会弘前記念病院, 2.弘前大学大学院保健学研究科, 3.秋田県立脳血管研究センター, 4.弘前大学医学部保健学科理学療法学専攻)

Keywords:キセノン光, 骨格筋, 血流量

【はじめに・目的】
生体深達性が高く温熱作用を有するキセノン光の星状神経節近傍照射(以下,Xe-LISG)では,上半身領域の交感神経支配に関わる星状神経節機能が抑制されることで上肢骨格筋血流量が増加すると報告されている(前田,2014.)。その一方で,骨格筋に対してキセノン光を直接照射(以下,骨格筋照射)した場合にも骨格筋血流量が増加すると報告されている(齋藤,2013)。しかしながら,Xe-LISGと骨格筋照射との間での上肢骨格筋血流量の増加パターンの違いについては検討されていない。本研究では,Xe-LISGと骨格筋照射との間での上肢骨格筋血流量の増加パターンの違いを明らかにすることを目的とした。
【方法】
若年健常者8名を対象として以下の3つの介入を実施順序をランダムに1日以上の間隔を空けて実施した。なお,骨格筋血流量評価の対象筋は,両側の上腕二頭筋とした。〈介入1〉対象者は15分間の安静背臥位保持(以下,馴化)終了後,同一肢位にて10分間のXe-LISG(照射対象:両側の星状神経節)を受けた。〈介入2〉対象者は馴化終了後,同一肢位にて両側の上腕二頭筋に対する10分間の骨格筋照射を受けた。〈介入3〉対象者は馴化終了後,キセノン光照射を伴わない安静背臥位保持(以下,コントロール)を10分間継続した。交感神経活動の指標には手指皮膚温を採用し,両側の第3指手掌側の遠位指節間関節中央部を測定部位とし,放射温度計(Fluke-572,Fluke)を用いて各介入中に2分毎に測定した。その上で,各介入とも初回測定値の手指皮膚温を基準値とし,その後の2分毎に測定された手指皮膚温の基準値からの経時的変化をDunnett法にて検討した。上肢骨格筋血流量の指標には酸素化ヘモグロビン量(HbO2,単位:mmol/mm)を採用し,各実験の馴化開始から各介入終了までの間,近赤外線分光分析装置(OEG-16,Spectratech)を用いて両側の上腕二頭筋の筋腹中央部で連続測定した。その上で,各介入とも馴化終了前2分間のHbO2の平均値を基準値とし,各介入中のHbO2の2分毎の測定区間(0~2分,2~4分,4~6分,6~8分,8~10分)の平均値の基準値からの経時的変化をDunnett法にて検討した。また,Xe-LISGと骨格筋照射の2条件間で,2分毎の測定区間におけるHbO2をStudentのt検定(Bonferroni補正)にて比較した。統計学的検定の有意水準は5%とした。
【結果】
手指皮膚温(平均値)については,コントロールでは4分以降で0.5℃以上の有意な低下を認めた。一方,統計学的に有意ではなかったものの,骨格筋照射では2分以降で約0.1℃の低下を認めたのに対して,Xe-LISGでは4分以降で0.5℃以上の上昇を認めた。上肢骨格筋血流量(平均値)については,Xe-LISGでは2~4分以降(0.05),骨格筋照射では6~8分以降(0.03)で有意な増加を認めたが,コントロールでは全測定区間を通じて明らかな変化を認めなかった。また,Xe-LISGと骨格筋照射との比較では,測定区間の内,2~4分(Xe-LISG:0.05,骨格筋照射:0.01)および4~6分(Xe-LISG:0.06,骨格筋照射:0.02)では骨格筋照射と比較したXe-LISGでの有意な増加を認めた。しかし,6~8分以降(Xe-LISG:0.06,骨格筋照射0.03)では明らかな違いを認めなかった。
【考察】
本研究結果は,上肢骨格筋血流量についてXe-LISGでは骨格筋照射と比較してより早期から増加するものの,最終的にはいずれの手法でも同程度の増加が得られることを示している。手指皮膚温の結果も考慮すると,Xe-LISGでのより早期からの上肢骨格筋血流量の増加は,キセノン光の作用による星状神経節(交感神経)機能の速やかな抑制の影響が上半身領域を急速に波及した結果,筋内細動脈が急速に拡張した可能性を示唆している。一方,骨格筋照射では,交感神経機能への影響は少なく,むしろキセノン光の作用による筋加温により筋内細動脈が漸次拡張した結果,筋血流量が徐々に増加したと推察される。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,Xe-LISGと骨格筋照射との間での上肢骨格筋血流量の増加パターンの違いを明らかにすると同時に,その背景機序について考察した初めての報告であり,上肢骨格筋血流量低下の改善を意図してキセノン光照射行なう際の基礎的所見を提供した点で意義深いと考える。