[O-0788] 直接法と水中法による超音波療法の温度変化
―ラットによる実験的研究―
Keywords:超音波療法, 有効照射面積, ラット
【はじめに,目的】
超音波療法を実施するためには,カップリング剤が必要である。カップリング剤として超音波ジェルを用い,導子を皮膚に直接接触させて行う方法を直接法と呼ぶ。また,脱気水等を用い,水中で行う方法を水中法と呼ぶ。先行研究では水中法は直接法に比べて温熱効果が不十分であるという報告がある。その原因として水中法では導子と加温部位に距離があったこと,さらに脱気水を使用しなかったことにより,超音波が減衰したためだと考察されていた。そこで本研究では水中法において脱気水を用い,皮膚に導子を接触させ照射した場合と,皮膚から離し照射した場合で効果に差があるのか,さらに直接法と比較して差があるのか検討した。
【方法】
実験動物には8週齢のWistar系雌ラット15匹を用いた。実験条件は直接法群(n=5),水中法において,導子を皮膚に接触させ照射する水中接触法群(n=5),導子を皮膚から1cm離して照射する水中非接触法群(n=5)の3群とした。温度測定のため針型温度計(ユニークメディカル社)を用い,各ラットの左後肢の皮下温度及び筋内温度を測定した。超音波照射には超音波治療器(伊藤超短波社)を使用した。照射条件は周波数3MHz,照射時間10分,照射時間率100%,出力1.5W/cm2とした。照射方法はストローク法を用い,導子速度は1cm/sとし,メトロノームにより速度の一定化を図った。直接法群では超音波ジェル(日立アロカメディカル社)を用いた。正確な照射範囲を確保するため,有効照射面積の2倍の大きさの穴をあけたマットを照射部位に設置し,照射した。水中接触法群・水中非接触法群では脱気水を使用し,恒温水槽(トーマス科学器械社)にて水温37℃を一定に保った。また,水中での照射は,照射部位を有効照射面積の2倍となるようマーキングし,マーキングを確認しながら実施した。照射中は実施者に温度変化を確認させずに行った。皮下温度及び筋内温度の測定は,超音波施行1分前より開始し超音波照射開始後10分経過時まで,1分毎に記録を行った。統計処理として,3群の比較にKruskal-Wallis検定を行い,有意差を認めた場合,多重比較としてSteel-Dwass法を行った。有意水準は5%とした。
【結果】
直接法群での皮下温度は開始1分後には低下したが,その後は開始10分後まで上昇し続けた。また,筋内温度は開始1分後から10分後まで上昇し続けた。水中接触法群では,開始1分後から2分後まで皮下・筋内温度が共に上昇したが,それ以降の温度上昇は認められなかった。水中非接触法群では開始1分後から4分後まで皮下・筋内温度が共に上昇したが,それ以降の温度上昇は認められなかった。開始10分後の皮下温度の中央値は,直接法群35.1℃,水中接触法群37.2℃,水中非接触法群37.2℃であり,直接法群は水中接触法群及び水中非接触法群に比べて有意に低かった。開始10分後の筋内温度の中央値は,直接法群42.8℃,水中接触法群37.9℃,水中非接触法群37.5℃であり,直接法群が水中接触法群及び水中非接触法群に比べて有意に高かった。
【考察】
先行研究による直接法の実験においても筋内温度は上昇するものの皮下温度は低下して上昇しており,今回の直接法群の結果と同様であった。皮下温度低下の原因は,ジェルの冷却効果と気化熱が関与したと考察されており,本研究も上記の原因によるものだと考えられる。これに対し,水中接触法群と水中非接触法群では皮下・筋内温度ともに低下することなく上昇した。水中接触法群と水中非接触法群における温度低下を伴わない温度上昇は,37℃という水温による影響が大きいと考えられる。本実験で用いた脱気水は,超音波ジェルとほぼ同様の透過率である。そのため,筋内温度に関して,水中接触法群は直接法群と同様の温度上昇が得られるはずである。しかし,水中接触法群での筋内温度の上昇は水温をわずかに超える程度で留まり,直接法群に及ばなかった。このことから水中接触法群では超音波が有効に照射されていなかったと考えられる。また,水中接触法群と水中非接触法群の間に温度変化の差が生じなかったことから,導子と加温部位の距離によって超音波が減衰することはないと考えられる。残った可能性として,水中法ではマーキングを見ながら照射したため,超音波照射面積が有効照射面積の2倍を超え,正確な範囲で照射されていなかったことが考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
先行研究では直接法に比べ水中法では温熱効果が不十分とされており,本研究ではその原因を検討した。実験結果より,十分な温熱効果を得るためには,有効照射面積の2倍以内で正確に超音波照射する必要があることが示唆された。
超音波療法を実施するためには,カップリング剤が必要である。カップリング剤として超音波ジェルを用い,導子を皮膚に直接接触させて行う方法を直接法と呼ぶ。また,脱気水等を用い,水中で行う方法を水中法と呼ぶ。先行研究では水中法は直接法に比べて温熱効果が不十分であるという報告がある。その原因として水中法では導子と加温部位に距離があったこと,さらに脱気水を使用しなかったことにより,超音波が減衰したためだと考察されていた。そこで本研究では水中法において脱気水を用い,皮膚に導子を接触させ照射した場合と,皮膚から離し照射した場合で効果に差があるのか,さらに直接法と比較して差があるのか検討した。
【方法】
実験動物には8週齢のWistar系雌ラット15匹を用いた。実験条件は直接法群(n=5),水中法において,導子を皮膚に接触させ照射する水中接触法群(n=5),導子を皮膚から1cm離して照射する水中非接触法群(n=5)の3群とした。温度測定のため針型温度計(ユニークメディカル社)を用い,各ラットの左後肢の皮下温度及び筋内温度を測定した。超音波照射には超音波治療器(伊藤超短波社)を使用した。照射条件は周波数3MHz,照射時間10分,照射時間率100%,出力1.5W/cm2とした。照射方法はストローク法を用い,導子速度は1cm/sとし,メトロノームにより速度の一定化を図った。直接法群では超音波ジェル(日立アロカメディカル社)を用いた。正確な照射範囲を確保するため,有効照射面積の2倍の大きさの穴をあけたマットを照射部位に設置し,照射した。水中接触法群・水中非接触法群では脱気水を使用し,恒温水槽(トーマス科学器械社)にて水温37℃を一定に保った。また,水中での照射は,照射部位を有効照射面積の2倍となるようマーキングし,マーキングを確認しながら実施した。照射中は実施者に温度変化を確認させずに行った。皮下温度及び筋内温度の測定は,超音波施行1分前より開始し超音波照射開始後10分経過時まで,1分毎に記録を行った。統計処理として,3群の比較にKruskal-Wallis検定を行い,有意差を認めた場合,多重比較としてSteel-Dwass法を行った。有意水準は5%とした。
【結果】
直接法群での皮下温度は開始1分後には低下したが,その後は開始10分後まで上昇し続けた。また,筋内温度は開始1分後から10分後まで上昇し続けた。水中接触法群では,開始1分後から2分後まで皮下・筋内温度が共に上昇したが,それ以降の温度上昇は認められなかった。水中非接触法群では開始1分後から4分後まで皮下・筋内温度が共に上昇したが,それ以降の温度上昇は認められなかった。開始10分後の皮下温度の中央値は,直接法群35.1℃,水中接触法群37.2℃,水中非接触法群37.2℃であり,直接法群は水中接触法群及び水中非接触法群に比べて有意に低かった。開始10分後の筋内温度の中央値は,直接法群42.8℃,水中接触法群37.9℃,水中非接触法群37.5℃であり,直接法群が水中接触法群及び水中非接触法群に比べて有意に高かった。
【考察】
先行研究による直接法の実験においても筋内温度は上昇するものの皮下温度は低下して上昇しており,今回の直接法群の結果と同様であった。皮下温度低下の原因は,ジェルの冷却効果と気化熱が関与したと考察されており,本研究も上記の原因によるものだと考えられる。これに対し,水中接触法群と水中非接触法群では皮下・筋内温度ともに低下することなく上昇した。水中接触法群と水中非接触法群における温度低下を伴わない温度上昇は,37℃という水温による影響が大きいと考えられる。本実験で用いた脱気水は,超音波ジェルとほぼ同様の透過率である。そのため,筋内温度に関して,水中接触法群は直接法群と同様の温度上昇が得られるはずである。しかし,水中接触法群での筋内温度の上昇は水温をわずかに超える程度で留まり,直接法群に及ばなかった。このことから水中接触法群では超音波が有効に照射されていなかったと考えられる。また,水中接触法群と水中非接触法群の間に温度変化の差が生じなかったことから,導子と加温部位の距離によって超音波が減衰することはないと考えられる。残った可能性として,水中法ではマーキングを見ながら照射したため,超音波照射面積が有効照射面積の2倍を超え,正確な範囲で照射されていなかったことが考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
先行研究では直接法に比べ水中法では温熱効果が不十分とされており,本研究ではその原因を検討した。実験結果より,十分な温熱効果を得るためには,有効照射面積の2倍以内で正確に超音波照射する必要があることが示唆された。