第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述106

神経・筋機能制御2

Sun. Jun 7, 2015 12:00 PM - 1:00 PM 第10会場 (ガラス棟 G602)

座長:高木峰子(神奈川県立保健福祉大学)

[O-0790] 温浴(全身浴・前腕浴・下腿浴)の重心動揺効果とウォーミングアップ効果について

大重匡1, 渋谷翔大1, 宮崎宣丞2, 野田詩織3, 大渡昭彦1, 木山良二1 (1.鹿児島大学医学部, 2.垂水中央病院リハビリテーション科, 3.熊本機能病院総合リハビリテーション部)

Keywords:温浴, 重心動揺, ウォーミングアップ

【はじめに,目的】
重心動揺について村田1)は足把持力が強いほど,また足底感覚が鋭いほど重心動揺が小さくなると報告している。崎田ら2)は,下腿を冷却したことにより足底感覚が低下し,重心動揺が増大すると報告しているが,温浴の全身浴・前腕浴・下腿浴の違いについての,重心動揺の報告は無く,さらに温浴のウォーミングアップとしての影響についても報告がない。そこで,全身浴と前腕浴と下腿浴の二点式別感覚と重心動揺への影響,およびウォーミングアップへの影響について検討した。
【方法】
対象は健康な若年男性13名(年齢20.3±1.3歳,身長172.4±4.0cm,体重61.7±7.8kg)である。まず十分な安静後に二点識別覚と重心動揺を測定した。温浴は,室温22℃前後の環境で,41℃の温浴(全身浴・前腕浴・下腿浴)を1日以上の間隔を空けて10分間温浴を施行した。温浴後は,安静座位10分間経過観察したのち二点識別覚と重心動揺を測定し,さらにエルゴメータによる運動負荷を実施した。なお同一被験者にはcontrol群として1日以上の間隔を空け温浴を施行せず運動負荷のみ行った。なお各温浴とコントロールはランダムに施行した。湯温はTERUMO社製MODEL CTM205を使用し,41℃に保つよう設定した。温浴時の測定項目は舌下温,心拍数,血圧,呼吸数とした。上記測定は安静時と部分浴10分経過時と温浴後10分経過時に測定した。二点識別覚はNorth Coast Medical社製Touch-Test MG-4400を用いて軸足側の拇指球と拇趾で測定した。重心動揺は重心動揺計Inter Reha社製zebris Medical GmbHを用いて,軸足片脚立位の総軌跡長3回の平均を算出した。舌下温はTERUMO社製MODEL CTM-205,呼吸数・心拍数は日本光電社製BSM-2401,血圧は水銀血圧計を使用した。運動負荷はCOMBI社製エアロバイク75XLを使用し25Wを3分間施行した。酸素消費量はアニマ社製携帯型酸素消費量計AT-1100を用い運動時Metsを算出した。統計処理はSPSS22を用い,コントロール群と温浴の違いについて1要因の反復測定分散分析を行い,多重比較を行った。
【結果】
二点識別覚は,拇指球で全身浴後1.2±.5mm前腕浴後1.5±.5mm下腿浴後1.2±.3mm減少し,拇趾では全身浴後1.8±.6mm前腕浴後。9±.4mm下腿浴後1.5±.4mm減少した。総軌跡は全身浴後118.5±24mm前腕浴後120.9±49.7mm下腿浴後197±52.5mm減少した。舌下温は全身浴後。89±.06℃前腕浴後。53±.08℃下腿浴後。17±.05℃上昇し,多重比較で全身浴後,前腕浴,下腿浴それぞれで有意差を認めた。心拍数は,全身浴が18.9±1.6bpm前腕浴後7.54±1.7bpm下腿浴後5.5±1.3bpmと増加した。血圧でも全身浴が収縮期血圧12.6±4mmHg,拡張期血圧21.9±2.4mmHgと最も低下した。呼吸数は浴前後で有意差は認めなかった。温浴後10分経過時の舌下温は全身浴後。41±.08℃前腕浴後。39±.1℃下腿浴後。15±.06℃上昇していた。運動負荷時のMets数は全身浴後0.34±.09Mets,前腕浴後0.31±.07Mets,下腿浴後0.29±.07Mets有意に減少した(Mean±SD)。
【考察】
二点識別覚の結果から,温浴は足底感覚の鋭敏化が,重心の微細な動揺を感知し,さらに組織温上昇が神経伝達速度を上昇させる3)ことから,重心動揺を減少させたと考える。また,温浴で運動負荷時Mets数が減少したことは,筋の柔軟性の向上,筋へ血流促進,運動時の内呼吸効率向上,さらに心拍出量の円滑化が全身の呼吸循環機能を円滑にしたため運動負荷強度が減少したと考えられる。これにより温浴がウォーミングアップ効果を持つことが明らかになった。また,前腕浴と全身浴でMets数減少がほぼ等しくなったことから,簡便な前腕浴でも全身浴と同程度のウォーミングアップ効果を持つことが明らかになった。
【理学療法学研究としての意義】
温浴が,足底感覚を鋭敏に変化させ,重心動揺を減少させたことから,転倒防止のための予防的役割も持つ。さらに身体への負担の軽い前腕浴が負荷強度の減少効果を持つことから,循環障害により運動強度に制限のある者に対して運動の施行がより安全に運動が行えることに役立つと考える。
【引用文献】
1)村田伸:開眼片足立ち位での重心動揺と足部機能との関連。理学療法科学.2004;19(3):245-249
2)崎田正博,熊谷秋三,河野一郎,他:足底,下腿筋個別冷却後の立位姿勢制御に関する研究:閉眼での静的,動的立位姿勢制御の筋活動と重心総軌跡長比較。理学療法科学.2006;21(4):341-347
3)Halle JS,Scoville CR,Greathouse DG:Ultrasound effect on the conduction latency of the superficial radial nerve in man,Phys Ther. 1981;61:345-350