第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述107

高齢者の姿勢・その他

2015年6月7日(日) 12:00 〜 13:00 第11会場 (ガラス棟 G610)

座長:山本昌樹(大久保病院 明石スポーツ整形・関節外科センター)

[O-0792] 高齢者の円背姿勢と体幹可動域の関連性

齋藤秀平, 渡邉幸勇, 鍋島雅美, 佐藤嘉展 (千葉きぼーるクリニック)

キーワード:円背指数, 脊柱彎曲可動域, 骨盤傾斜角度

【はじめに,目的】
第18回千葉県理学療法士学会において,我々は若年者を対象に自在曲線定規を用いて円背指数と脊柱可動域の相関関係を報告した。その結果,女性において円背指数と脊柱可動域に相関関係が認められた。しかし,円背姿勢が多く見られる高齢者との関係性は明らかにできていない。脊柱カーブの変化は脊柱のみならず骨盤や下肢アライメントを変化させ,姿勢に影響を及ぼす。特に高齢者に多く見られる脊柱カーブの変化として円背姿勢が見られる。この円背姿勢は,静的アライメントだけでなく動的アライメントにも影響を及ぼす為,日常生活動作の遂行を困難にさせる一つの原因として考えられる。その為,円背姿勢は静的アライメントの評価だけでなく,可動性などの動的アライメントの評価も必要であると考えられる。本研究では高齢者の座位姿勢の脊柱評価として,円背指数の測定を行い,さらに胸腰部の脊柱彎曲可動域や骨盤傾斜範囲の関係性を明らかにし,体幹機能評価の一助とする事を目的とした。
【方法】
被験者は当院に来院中の腰部疾患の診断を受けた患者30名の内,寺垣らの定めた円背指数で正常範囲(9.2±2.5)を超える者16名(男性10名,女性6名)の円背姿勢の者(年齢76.0±6.3歳,身長158.0±8.5cm,体重58.6±8.3kg)とした。除外対象は,脊椎圧迫骨折の既往を有する者,側彎を呈する者,測定時に痛みを有する者,測定に対し理解を得られない者とした。円背指数および彎曲頂点の高さの測定は,寺垣らの手順を参考とした。自在曲線定規(ウチダ製図器社製)にて,第7頸椎(C7)~第4腰椎(L4)棘突起までの背部の彎曲を紙面上に模写し,C7とL4を結ぶ直線L,彎曲頂点から直線Lまでの垂線Hを用い,Milneらに準じた円背指数(H/L×100)と,L4からの彎曲頂点の高さの割合(頂点の高さ:%)を算出した。基本姿勢は,被験者に腕組み,足底非接地の安楽座位とした。脊柱彎曲可動域の測定は,基本姿勢から「できる限り背中を丸めて」と「できる限り背中を伸ばして」と指示し,それぞれを胸腰部最大屈曲位,最大伸展位とした。その後,各円背指数および各彎曲頂点の高さを算出し,屈曲位と伸展位の円背指数の差(以下可動域A)と彎曲頂点の高さの差(以下可動域B)を,脊柱彎曲可動域とした。骨盤前後傾の傾斜角度は,市販されているマグネット付レベルメーター(新潟精機社製)を,同じく市販されている150cmの鋼鉄製台付直角定規JIS2級(大菱計器製作所社製)の短片部分に装着させる。基本姿勢にて,長片の背面部を仙骨後面に合わせ,安楽座位,最大前傾位,最大後傾位の傾斜角度を読み取り,また最大前傾位と最大後傾位の傾斜角度の差を,骨盤傾斜範囲として算出した。全ての測定を同被験者で3回繰り返し測定し,その平均値を最終的な数値として算出した。統計学的検討には,ピアソンの積率相関係数を用いて,円背指数と各測定値(可動域A,可動域B,骨盤傾斜範囲)との相関係数を算出した。有意水準は危険率5%未満とした。
【結果】
円背指数との相関係数は,可動域Aが-0.68であり,負の相関を示した。可動域Bが-0.75であり,高い負の相関を示した。骨盤傾斜範囲が-0.52であり,負の相関を示した。
【考察】
円背指数が高い者程,脊柱彎曲可動域および骨盤傾斜範囲が狭小化する結果であった。この結果から円背姿勢は,脊柱および骨盤可動性との関連性が深い事が考えられる。その為,静的アライメントだけでなく,脊柱可動性や骨盤可動性といった動的アライメントにも着目し,円背姿勢が各部位に及ぼす影響を考える必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
超高齢化社会を向かえるにあたって,加齢的変化による円背姿勢は,転倒や動作遂行困難などの負のスパイラルに陥る可能性がある。今後の展望として,本研究の結果から,高齢者に対して体幹機能評価を行う事により,円背姿勢を予防し自立した生活に繋げていきたい。