[O-0793] 成人脊柱変形患者における歩行動作時の腰部筋血液酸素動態と脊柱骨盤矢状面アライメントの関係
Keywords:成人脊柱変形患者, 組織酸素飽和度, 脊柱骨盤矢状面アライメント
【はじめに,目的】
成人脊柱変形患者は腰背部痛,下肢痛・神経障害,整容心理,内蔵障害などの訴えが多く,当院での成人脊柱変形手術患者の主訴は,これらの4つの症状で90%以上を占めている。腰背部痛に関しては,立位・歩行時に筋疲労による腰背部痛を生じ,立位や歩行が困難と考えられる。我々は先行研究にて近赤外分光法(NIRS)を用いて,成人脊柱変形患者における歩行動作時の腰部筋血液酸素動態を検討し,腰部組織酸素飽和度(StO2)は腰部疾患の有しない者よりも低下することが明らかとなった。また,成人脊柱変形に関する先行研究では,良好な脊柱矢状面アライメントや矢状面バランスの獲得が重要であり,脊柱骨盤矢状面アライメントはQOLに影響するとも報告されている。しかし,腰部筋血液酸素動態と脊柱骨盤矢状面アライメントの関係を検討した研究は少ない。本研究の目的は,成人脊柱変形患者における歩行動作時の腰部筋血液酸素動態と脊柱骨盤矢状面アライメントの関係を明らかにすることである。
【方法】
対象は2012年12月から2014年3月に当院整形外科にて,手術予定の成人脊柱変形患者101名のうち測定が可能であった21名(女性19名,男性2名,平均年齢68.6歳,身長147.4cm,体重50.2kg,BMI23.0kg/m2)とした。腰部筋血液酸素動態の測定は,NIRSによるレーザー組織血液酸素モニター(オメガウェーブ社製BOM-L1TRW)を用いて術前に実施した。測定部位は第4腰椎棘突起より3cm左外側,深部2から4cmの脊柱起立筋とした。座位2分,立位2分,トレッドミル歩行4分(歩行前半,歩行後半)(時速1km/h,傾斜0%)を連続して実施した。座位での値の平均値を100%とし各動作時の低下率を求めた。評価項目は,腰部筋血液酸素動態として組織酸素飽和度(StO2)と総ヘモグロビン(Total-Hb),脊柱骨盤矢状面パラメーターはsagittal vertical axis(SVA),腰椎前弯角(LL),胸椎後弯角(TK),仙骨傾斜角(SS),骨盤傾斜角(PT),Pelvic incidence minus腰椎前弯角(PI-LL)を計測した。統計学的解析はSPSS 17.0 Jにて,腰部筋血液酸素動態の推移の検討にはBonferroni法による多重比較検定,歩行動作時の腰部筋血液酸素動態と脊柱骨盤矢状面アライメントの相関関係にはPearsonの相関係数を用いた。有意水準は5%未満とした。
【結果】
成人脊柱変形患者のX線パラメーターはSVA134mm,LL18°,TK33.9°,SS15.5°,PI-LL35.3°,PT37.6°であった。腰部筋血液酸素動態は,座位から歩行によってStO2は有意に低下したが(StO2座位100% vs StO2歩行前半96.6%)(StO2座位100% vs StO2歩行後半96.5%)(p<0.01),Total-Hbに有意差は認めなかった(Total-Hb座位100% vs Total-Hb歩行前半100%)(Total-Hb座位100% vs Total-Hb歩行後半99.9%)。歩行動作時のStO2低下率と有意な相関関係を示した脊柱骨盤矢状面アライメントは,SVA(r=-0.49,p=0.03)であった。一方,Total-Hb低下率と脊柱骨盤矢状面アライメントに相関関係は認めなかった。
【考察】
本研究では,腰部組織酸素飽和度の低下率は脊柱矢状面アライメントのSVAと相関していた。このことから,成人脊柱変形患者は体幹前傾が大きい者ほど,歩行時に姿勢を保持するため多くの腰背筋活動が必要となる。これにより腰背筋は多くの酸素を消費していると推察された。
【理学療法学研究としての意義】
成人脊柱変形患者において歩行動作時の腰部組織酸素飽和度低下と脊柱矢状面アライメントは関係している。腰背筋筋力増強や良好な脊柱矢状面アライメントの獲得により,歩行時の筋疲労による腰背部痛の改善に繋がると考えられる。
成人脊柱変形患者は腰背部痛,下肢痛・神経障害,整容心理,内蔵障害などの訴えが多く,当院での成人脊柱変形手術患者の主訴は,これらの4つの症状で90%以上を占めている。腰背部痛に関しては,立位・歩行時に筋疲労による腰背部痛を生じ,立位や歩行が困難と考えられる。我々は先行研究にて近赤外分光法(NIRS)を用いて,成人脊柱変形患者における歩行動作時の腰部筋血液酸素動態を検討し,腰部組織酸素飽和度(StO2)は腰部疾患の有しない者よりも低下することが明らかとなった。また,成人脊柱変形に関する先行研究では,良好な脊柱矢状面アライメントや矢状面バランスの獲得が重要であり,脊柱骨盤矢状面アライメントはQOLに影響するとも報告されている。しかし,腰部筋血液酸素動態と脊柱骨盤矢状面アライメントの関係を検討した研究は少ない。本研究の目的は,成人脊柱変形患者における歩行動作時の腰部筋血液酸素動態と脊柱骨盤矢状面アライメントの関係を明らかにすることである。
【方法】
対象は2012年12月から2014年3月に当院整形外科にて,手術予定の成人脊柱変形患者101名のうち測定が可能であった21名(女性19名,男性2名,平均年齢68.6歳,身長147.4cm,体重50.2kg,BMI23.0kg/m2)とした。腰部筋血液酸素動態の測定は,NIRSによるレーザー組織血液酸素モニター(オメガウェーブ社製BOM-L1TRW)を用いて術前に実施した。測定部位は第4腰椎棘突起より3cm左外側,深部2から4cmの脊柱起立筋とした。座位2分,立位2分,トレッドミル歩行4分(歩行前半,歩行後半)(時速1km/h,傾斜0%)を連続して実施した。座位での値の平均値を100%とし各動作時の低下率を求めた。評価項目は,腰部筋血液酸素動態として組織酸素飽和度(StO2)と総ヘモグロビン(Total-Hb),脊柱骨盤矢状面パラメーターはsagittal vertical axis(SVA),腰椎前弯角(LL),胸椎後弯角(TK),仙骨傾斜角(SS),骨盤傾斜角(PT),Pelvic incidence minus腰椎前弯角(PI-LL)を計測した。統計学的解析はSPSS 17.0 Jにて,腰部筋血液酸素動態の推移の検討にはBonferroni法による多重比較検定,歩行動作時の腰部筋血液酸素動態と脊柱骨盤矢状面アライメントの相関関係にはPearsonの相関係数を用いた。有意水準は5%未満とした。
【結果】
成人脊柱変形患者のX線パラメーターはSVA134mm,LL18°,TK33.9°,SS15.5°,PI-LL35.3°,PT37.6°であった。腰部筋血液酸素動態は,座位から歩行によってStO2は有意に低下したが(StO2座位100% vs StO2歩行前半96.6%)(StO2座位100% vs StO2歩行後半96.5%)(p<0.01),Total-Hbに有意差は認めなかった(Total-Hb座位100% vs Total-Hb歩行前半100%)(Total-Hb座位100% vs Total-Hb歩行後半99.9%)。歩行動作時のStO2低下率と有意な相関関係を示した脊柱骨盤矢状面アライメントは,SVA(r=-0.49,p=0.03)であった。一方,Total-Hb低下率と脊柱骨盤矢状面アライメントに相関関係は認めなかった。
【考察】
本研究では,腰部組織酸素飽和度の低下率は脊柱矢状面アライメントのSVAと相関していた。このことから,成人脊柱変形患者は体幹前傾が大きい者ほど,歩行時に姿勢を保持するため多くの腰背筋活動が必要となる。これにより腰背筋は多くの酸素を消費していると推察された。
【理学療法学研究としての意義】
成人脊柱変形患者において歩行動作時の腰部組織酸素飽和度低下と脊柱矢状面アライメントは関係している。腰背筋筋力増強や良好な脊柱矢状面アライメントの獲得により,歩行時の筋疲労による腰背部痛の改善に繋がると考えられる。