[O-0795] 回復期リハビリテーション病院における胸腰椎圧迫骨折患者の歩行予後に与える因子の検討
キーワード:回復期リハビリテーション, 胸腰椎圧迫骨折, 歩行予後
【はじめに,目的】
胸腰椎圧迫骨折(圧迫骨折)後,疼痛やバランス能力,歩行能力の低下によりADLが低下するケースは多い。また,急性期病院での入院期間延長により,廃用症候群や認知機能の低下をきたし,回復期病院へ入院するケースも多く認める。しかしながら圧迫骨折患者の歩行予後について急性期での報告はあるものの回復期病院退院時の報告は少ない。また圧迫骨折受傷前の歩行能力が考慮されていない報告が多いという問題点がある。よって本研究では圧迫骨折患者の回復期病院入院時の身体能力や認知機能などの因子が,回復期リハビリテーション実施後の歩行予後に与える影響について,受傷前の歩行能力を基準として調査することを目的とした。
【方法】
対象は回復期病院である当院に入院した圧迫骨折患者54名(81.5±8.2歳)とした。対象者の群分けはFIMの歩行能力を利用し,受傷前の歩行能力と比較して低下した群19名(低下群)と,変化なしまたは向上した群35名(維持向上群)に群分けした。調査項目は性別,年齢,急性期入院期間,回復期入院時の認知機能と疼痛,バランス能力,受傷前・回復期入院時の歩行能力,ADLとした。認知機能はHDS-R,疼痛はNRS,バランス能力はFBS,ADLと歩行能力はFIMを用いてカルテより後方視的に調査した。統計学的解析については,性別はカイ二乗検定,FIMはMann-WhitneyのU検定,年齢・急性期入院期間は対応のないt検定を用い,有意水準はp<0.05とした。また認知機能,疼痛,バランス能力,歩行能力,ADLを測定時期(入院時・退院時)と群(低下群・維持向上群)を要因とした二元配置分散分析を用いて統計学的解析を行った。
【結果】
認知症等の影響により疼痛の数値化が困難な2名(低下群1名,維持向上群1名),傾眠や不穏等の理由によりHDS-Rの検査を実施できなかった7名(低下群6名,維持向上群1名)は欠損値として解析対象から除外した。統計学的解析の結果,性別,年齢,急性期入院期間,受傷前歩行能力には有意差はなかった。HDS-R,FBS,FIMは交互作用がなく時期の主効果が有意であり,入院時と比較して退院時に有意に高かった。同様に群の主効果も有意であり,維持向上群が高かった。NRSについては交互作用と単純主効果の結果より,両群ともに入院時と比較して退院時に改善が得られたが,その改善度は低下群で有意に低かった。
【考察】
本研究により圧迫骨折受傷前の歩行能力に有意差は認めなかった。しかし回復期入院時のバランス能力や歩行能力などの身体機能は低下群で有意に低く,圧迫骨折受傷を契機に両群の身体機能に差が生じたと考える。また回復期入院時の疼痛は両群に有意差を認めないため,自覚的な疼痛の程度が身体活動の制限に結びついた可能性は低い。このことから,リハビリテーション開始時期や臥床時間など急性期病院における何らかの対応の差が,両群の回復期入院時の身体機能の差に結びついた可能性がある。また回復期入院時に見られた,両群の身体機能の差は退院時まで持続しており,急性期においていかに身体機能を維持向上させるかが,回復期退院時の歩行予後に重要であると考える。疼痛は両群ともに有意に改善したが,低下群でその改善の程度が低かった。すなわち回復期入院時の疼痛の程度ではなく,その改善度が回復期退院時の歩行予後に重要な因子となる可能性があるということである。低下群において疼痛の改善度が低かった理由は本研究からは不明だが,疼痛の遷延化に結びつく骨折部位へのストレスへ配慮して急性期・回復期でのリハビリテーションを行うことが歩行予後の面からも重要であるといえる。一方,NRSによる疼痛評価は主観的な要素を含んでいる。そのため向上群の高い身体機能の獲得,あるいはADLの拡大で得られた自己効力感が疼痛の自覚的な評価の改善に結びついている可能性も否定出来ない。これらを考慮し,回復期病院である程度の疼痛が残存していても,疼痛の改善に固執しすぎず,身体機能やADLの改善に着目した介入もバランス良く取り入れる必要があると考える。今後の課題として,両群における回復期入院時の身体機能の差異や低下群における低い疼痛の改善度について,急性期病院での対応の差や自己効力感の観点から更なる調査を進める必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
理学療法において,受傷前の歩行能力を獲得することは主要な目標の一つとなる。本研究は,圧迫骨折患者が回復期病院退院時に受傷前の歩行能力を獲得できるかどうかに関わる因子に関して検証したものであり,入院時の予後予測に基づき適切な理学療法を提供する上で有用な知見となると考える。
胸腰椎圧迫骨折(圧迫骨折)後,疼痛やバランス能力,歩行能力の低下によりADLが低下するケースは多い。また,急性期病院での入院期間延長により,廃用症候群や認知機能の低下をきたし,回復期病院へ入院するケースも多く認める。しかしながら圧迫骨折患者の歩行予後について急性期での報告はあるものの回復期病院退院時の報告は少ない。また圧迫骨折受傷前の歩行能力が考慮されていない報告が多いという問題点がある。よって本研究では圧迫骨折患者の回復期病院入院時の身体能力や認知機能などの因子が,回復期リハビリテーション実施後の歩行予後に与える影響について,受傷前の歩行能力を基準として調査することを目的とした。
【方法】
対象は回復期病院である当院に入院した圧迫骨折患者54名(81.5±8.2歳)とした。対象者の群分けはFIMの歩行能力を利用し,受傷前の歩行能力と比較して低下した群19名(低下群)と,変化なしまたは向上した群35名(維持向上群)に群分けした。調査項目は性別,年齢,急性期入院期間,回復期入院時の認知機能と疼痛,バランス能力,受傷前・回復期入院時の歩行能力,ADLとした。認知機能はHDS-R,疼痛はNRS,バランス能力はFBS,ADLと歩行能力はFIMを用いてカルテより後方視的に調査した。統計学的解析については,性別はカイ二乗検定,FIMはMann-WhitneyのU検定,年齢・急性期入院期間は対応のないt検定を用い,有意水準はp<0.05とした。また認知機能,疼痛,バランス能力,歩行能力,ADLを測定時期(入院時・退院時)と群(低下群・維持向上群)を要因とした二元配置分散分析を用いて統計学的解析を行った。
【結果】
認知症等の影響により疼痛の数値化が困難な2名(低下群1名,維持向上群1名),傾眠や不穏等の理由によりHDS-Rの検査を実施できなかった7名(低下群6名,維持向上群1名)は欠損値として解析対象から除外した。統計学的解析の結果,性別,年齢,急性期入院期間,受傷前歩行能力には有意差はなかった。HDS-R,FBS,FIMは交互作用がなく時期の主効果が有意であり,入院時と比較して退院時に有意に高かった。同様に群の主効果も有意であり,維持向上群が高かった。NRSについては交互作用と単純主効果の結果より,両群ともに入院時と比較して退院時に改善が得られたが,その改善度は低下群で有意に低かった。
【考察】
本研究により圧迫骨折受傷前の歩行能力に有意差は認めなかった。しかし回復期入院時のバランス能力や歩行能力などの身体機能は低下群で有意に低く,圧迫骨折受傷を契機に両群の身体機能に差が生じたと考える。また回復期入院時の疼痛は両群に有意差を認めないため,自覚的な疼痛の程度が身体活動の制限に結びついた可能性は低い。このことから,リハビリテーション開始時期や臥床時間など急性期病院における何らかの対応の差が,両群の回復期入院時の身体機能の差に結びついた可能性がある。また回復期入院時に見られた,両群の身体機能の差は退院時まで持続しており,急性期においていかに身体機能を維持向上させるかが,回復期退院時の歩行予後に重要であると考える。疼痛は両群ともに有意に改善したが,低下群でその改善の程度が低かった。すなわち回復期入院時の疼痛の程度ではなく,その改善度が回復期退院時の歩行予後に重要な因子となる可能性があるということである。低下群において疼痛の改善度が低かった理由は本研究からは不明だが,疼痛の遷延化に結びつく骨折部位へのストレスへ配慮して急性期・回復期でのリハビリテーションを行うことが歩行予後の面からも重要であるといえる。一方,NRSによる疼痛評価は主観的な要素を含んでいる。そのため向上群の高い身体機能の獲得,あるいはADLの拡大で得られた自己効力感が疼痛の自覚的な評価の改善に結びついている可能性も否定出来ない。これらを考慮し,回復期病院である程度の疼痛が残存していても,疼痛の改善に固執しすぎず,身体機能やADLの改善に着目した介入もバランス良く取り入れる必要があると考える。今後の課題として,両群における回復期入院時の身体機能の差異や低下群における低い疼痛の改善度について,急性期病院での対応の差や自己効力感の観点から更なる調査を進める必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
理学療法において,受傷前の歩行能力を獲得することは主要な目標の一つとなる。本研究は,圧迫骨折患者が回復期病院退院時に受傷前の歩行能力を獲得できるかどうかに関わる因子に関して検証したものであり,入院時の予後予測に基づき適切な理学療法を提供する上で有用な知見となると考える。