[O-0797] 筋萎縮性側索硬化症患者に対するストレッチのストレス軽減効果
Keywords:筋萎縮性側索硬化症, ストレッチ, 唾液アミラーゼ
【目的】筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者に対する理学療法は,関節可動域の維持・改善を目的に,様々な筋へのストレッチが重症度を問わず多用されている。特に,呼吸筋である肋間筋および痙縮や廃用により拘縮が生じやすい腓腹筋は,ストレッチの必要性が高い。ストレッチは,精神的リラクセーション効果も知られている。今回は,ALS患者に対する肋間筋ストレッチと腓腹筋ストレッチのストレス軽減効果の差異について,唾液アミラーゼを用いて検証する。
【方法】対象は,主治医がALSと診断し,理学療法を処方した患者10名(66.6±11.1歳)。重症度は,IIIが3名,IVが4名,Vが3名。肋間筋ストレッチは,筋萎縮性側索硬化症の包括的呼吸ケア指針に準拠し,第2肋骨から第6肋骨までを順に下制し左右の肋間筋に伸張を加えた。腓腹筋ストレッチは,IDストレッチに準拠し,外側頭に対して30秒間の持続伸張を加えた。両筋へのストレッチは,2日以上の期間を空けてランダムに選択し,背臥位にて安静姿勢を5分間保持した後に,担当理学療法士が2回実施した。ストレッチによるストレス変化を確認する為に,安静姿勢保持5分後とストレッチ1回目直後,2回目直後に唾液アミラーゼをNIPRO社製モニター(CM-21)により測定した。飲食物の影響を避けるために,検査前2時間は飲食を禁止した。さらに,測定開始前は,言語聴覚士が真水を用いて口腔ケアを行った。測定中はパルスオキシメータ(スター・プロダクト社:リストックス)を右中指に装着し,経皮的酸素飽和度(SpO2)と脈拍を測定した。統計学的処理にはDr.SPSS II for Windowsを用い,時間推移と筋間の2要因による二元配置分散分析後にScheffe検定を行った。更に,時間推移の変化をBonferroni検定により検討し,筋間の差をMann-Whitney U検定により検討した。有意水準は5%とした。
【結果】二元配置分散分析の結果,筋間と時間推移の交互作用を認めなかったが,唾液アミラーゼで時間推移(p<0.05),SpO2で筋間(p<0.01)に差を認めた。肋間筋ストレッチによる唾液アミラーゼは,安静時45.2±24.0KU/L,1回目直後28.8±18.7KU/L,2回目直後20.9±7.0KU/Lに推移し,安静時と2回目で有意な低下(p<0.05)を認めた。腓腹筋ストレッチは,同順で41.4±27.0KU/L,31.3±17.9KU/L,31.0±25.2KU/Lに推移し,差を認めなかった。SpO2値の肋間筋ストレッチ時と腓腹筋ストレッチ時の差は,安静時が96.1±1.7%と94.8±2.1%(p<0.05),1回目が96.3±1.7%と94.2±3.2%(p<0.05),2回目が96.5±1.8%と94.7±2.3%(p<0.05)で全てに差を認めた。
【考察】ALS患者に対するストレッチは,肋間筋に実施することで唾液アミラーゼが低下し,腓腹筋への実施で変化しなかった。肋間筋ストレッチは,拘束性障害に対して実施される。肋間筋が伸張されたことで即時的に拘束性障害が緩和し,ストレス軽減効果が得られたと考えられる。また,今回は,安静時と比べて2回目の実施で差を認めた。肋間筋ストレッチは,繰り返し実施することにより,徐々にストレス軽減効果が期待できると思われる。一方,主に痙縮に対して関節可動域維持を目的に実施される腓腹筋ストレッチは,呼吸機能に影響が与えられず,ストレスも変化しなかったと考える。ALS患者に対してストレス軽減を図る為には,呼吸機能の緩和を図る必要があると思われる。筋間のSpO2値は,安静時から常に肋間筋ストレッチ時が高い。肋間筋ストレッチは,ガス交換促進に至らなくてもストレス緩和効果を得ることが可能であり,ALS患者のリラクセーションに有用と思われる。
【理学療法学研究としての意義】ALS患者に対するストレッチは,呼吸筋である肋間筋に繰り返し実施することで徐々にストレスを緩和させることを示した。
【方法】対象は,主治医がALSと診断し,理学療法を処方した患者10名(66.6±11.1歳)。重症度は,IIIが3名,IVが4名,Vが3名。肋間筋ストレッチは,筋萎縮性側索硬化症の包括的呼吸ケア指針に準拠し,第2肋骨から第6肋骨までを順に下制し左右の肋間筋に伸張を加えた。腓腹筋ストレッチは,IDストレッチに準拠し,外側頭に対して30秒間の持続伸張を加えた。両筋へのストレッチは,2日以上の期間を空けてランダムに選択し,背臥位にて安静姿勢を5分間保持した後に,担当理学療法士が2回実施した。ストレッチによるストレス変化を確認する為に,安静姿勢保持5分後とストレッチ1回目直後,2回目直後に唾液アミラーゼをNIPRO社製モニター(CM-21)により測定した。飲食物の影響を避けるために,検査前2時間は飲食を禁止した。さらに,測定開始前は,言語聴覚士が真水を用いて口腔ケアを行った。測定中はパルスオキシメータ(スター・プロダクト社:リストックス)を右中指に装着し,経皮的酸素飽和度(SpO2)と脈拍を測定した。統計学的処理にはDr.SPSS II for Windowsを用い,時間推移と筋間の2要因による二元配置分散分析後にScheffe検定を行った。更に,時間推移の変化をBonferroni検定により検討し,筋間の差をMann-Whitney U検定により検討した。有意水準は5%とした。
【結果】二元配置分散分析の結果,筋間と時間推移の交互作用を認めなかったが,唾液アミラーゼで時間推移(p<0.05),SpO2で筋間(p<0.01)に差を認めた。肋間筋ストレッチによる唾液アミラーゼは,安静時45.2±24.0KU/L,1回目直後28.8±18.7KU/L,2回目直後20.9±7.0KU/Lに推移し,安静時と2回目で有意な低下(p<0.05)を認めた。腓腹筋ストレッチは,同順で41.4±27.0KU/L,31.3±17.9KU/L,31.0±25.2KU/Lに推移し,差を認めなかった。SpO2値の肋間筋ストレッチ時と腓腹筋ストレッチ時の差は,安静時が96.1±1.7%と94.8±2.1%(p<0.05),1回目が96.3±1.7%と94.2±3.2%(p<0.05),2回目が96.5±1.8%と94.7±2.3%(p<0.05)で全てに差を認めた。
【考察】ALS患者に対するストレッチは,肋間筋に実施することで唾液アミラーゼが低下し,腓腹筋への実施で変化しなかった。肋間筋ストレッチは,拘束性障害に対して実施される。肋間筋が伸張されたことで即時的に拘束性障害が緩和し,ストレス軽減効果が得られたと考えられる。また,今回は,安静時と比べて2回目の実施で差を認めた。肋間筋ストレッチは,繰り返し実施することにより,徐々にストレス軽減効果が期待できると思われる。一方,主に痙縮に対して関節可動域維持を目的に実施される腓腹筋ストレッチは,呼吸機能に影響が与えられず,ストレスも変化しなかったと考える。ALS患者に対してストレス軽減を図る為には,呼吸機能の緩和を図る必要があると思われる。筋間のSpO2値は,安静時から常に肋間筋ストレッチ時が高い。肋間筋ストレッチは,ガス交換促進に至らなくてもストレス緩和効果を得ることが可能であり,ALS患者のリラクセーションに有用と思われる。
【理学療法学研究としての意義】ALS患者に対するストレッチは,呼吸筋である肋間筋に繰り返し実施することで徐々にストレスを緩和させることを示した。