[O-0801] 脊髄小脳変性症の歩行障害の三次元動作解析による横断的解析
Keywords:脊髄小脳変性症, 歩行分析, 横断研究
【はじめに,目的】
脊髄小脳変性症(spinocerebellar degeneration:SCD)は,小脳および脳幹から脊髄にかけての神経細胞が徐々に萎縮,破壊されていく進行性の神経変性疾患の総称である。SCD患者は歩行のふらつきや不随意運動の亢進,構音障害や震戦などの運動失調を主症状として,多系統障害により様々な臨床像を呈する。病型や進行度によって歩行障害の特徴が大きく異なることが経験的にも良く知られているが,その特徴については十分に検討されてはいない。SCDの歩行障害の特徴を定量的に明らかにすることは効果的な理学療法を考案する上で重要である。
本研究では,これまでSCD患者を対象に実施してきた歩行計測データを後方視的に分析し,臨床指標と歩行パラメーターの関連性から同患者の歩行障害の特徴を検討することを目的とした。
【方法】
対象は当院に2008年から2014年までに入院および外来リハビリテーションを実施したSCD患者21名とした。病型の内訳は常染色体優性遺伝小脳失調6名,孤発性成人発症失調症2名,Spinocerebellar ataxiaのうちSCA3が2名,SCA6が1名,晩発性皮質小脳萎縮症1名,多系統萎縮症小脳9名(MSA-C:8名,MSA-P:1名)であった。年齢は60.5±12.2歳,罹病期間は8.1±4.3年,Scale for the Assessment rating of ataxia(SARA)の歩行スコアは2.3±0.9点であった。
歩行分析は対象者の自己快適速度で行い,全身に貼付した39点のマーカーの三次元座標を動作解析装置(VICON612,VMS社製)よりサンプリング周波数120Hzで取得した。加えて歩行路上に埋め込んだ床反力計(KISTRLER社製)より1000Hzにて地面反力を計測した。歩行パラメーターとして距離時間因子,ストライド長と荷重量および立脚時間のsymmetry index(SI),重心移動のエネルギー効率を算出した。データ分析は歩行パラメーターとSARA歩行スコアの相関,歩行パラメーター間の相関をWilcoxon検定にて検討した。これら分析結果は,歩行中の姿勢特性から後傾群(頭部が重心位置よりも後方に位置しCポスチャー姿勢を呈した群)と,前傾群(頭部が重心位置よりも前方に位置し体幹の前傾姿勢を呈した群)の2群に分け,対応のないt検定により各歩行パラメーターの差異を比較した。本研究における統計的水準は5%とした。
【結果】
SARA歩行スコアはエネルギー効率と有意な負の相関(R=0.55,p<0.05)を示した。エネルギー効率と相関を示した歩行パラメーターは歩行速度,歩調,ステップ長,遊脚期時間比が0.7以上の正相関を示し,立脚時間比,両脚支持期時間比,荷重量SI,1歩行周期時間,歩行比は0.5以上の負の相関を示した。
エネルギー効率と相関のあった項目を前傾群(n=11)と後傾群(n=10)の2群で比較すると,歩行速度(前傾群0.5±0.3m/s,後傾群0.9±0.2m/s)歩調(前傾群109.1±49.3step/min,後傾群148.5±15.6step/min),ステップ長(前傾群0.3±0.1m,後傾群0.46±0.1m),遊脚時間比(前傾群29.5±9.0%,後傾群37.6±2.3%),エネルギー効率(前傾群65.2±24.5%,後傾群107.36±25.3%)が後傾群で有意に高値を示した。立脚時間比(前傾群70.7±9.1%,後傾群62.4±2.1%),両脚支持期時間比(前傾群20.5±9.5%,後傾群12.1±2.2%)は前傾群で有意に高値を示した。
【考察】
SARA歩行スコアと三次元動作解析の各データの比較検討及び,歩行観察上から2群に分け比較検討した。臨床的なSCDの歩行重症度は歩行のエネルギー効率と相関を示したことから,歩行重症度の軽減においてはエネルギー効率に着眼した介入が示唆される。また,歩行の構成要素である姿勢の特徴により歩行パラメーターの差異が認められたことから,姿勢の特徴によるサブカテゴリー化の可能性が示された。歩行のエネルギー効率最適化を図る上では,前傾群はステップ長短縮と歩調増加による歩行比の減少,後傾群はステップ長増加と歩調減少による歩行比を増加させることが理学療法の介入指針として示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
SCDの歩行障害における臨床的指標と歩行変数の関連性を示し,観察上の特徴からサブカテゴリー化の可能性を示した。また,サブカテゴリー別の歩行分析に基づいた理学療法介入の可能性を示した。
脊髄小脳変性症(spinocerebellar degeneration:SCD)は,小脳および脳幹から脊髄にかけての神経細胞が徐々に萎縮,破壊されていく進行性の神経変性疾患の総称である。SCD患者は歩行のふらつきや不随意運動の亢進,構音障害や震戦などの運動失調を主症状として,多系統障害により様々な臨床像を呈する。病型や進行度によって歩行障害の特徴が大きく異なることが経験的にも良く知られているが,その特徴については十分に検討されてはいない。SCDの歩行障害の特徴を定量的に明らかにすることは効果的な理学療法を考案する上で重要である。
本研究では,これまでSCD患者を対象に実施してきた歩行計測データを後方視的に分析し,臨床指標と歩行パラメーターの関連性から同患者の歩行障害の特徴を検討することを目的とした。
【方法】
対象は当院に2008年から2014年までに入院および外来リハビリテーションを実施したSCD患者21名とした。病型の内訳は常染色体優性遺伝小脳失調6名,孤発性成人発症失調症2名,Spinocerebellar ataxiaのうちSCA3が2名,SCA6が1名,晩発性皮質小脳萎縮症1名,多系統萎縮症小脳9名(MSA-C:8名,MSA-P:1名)であった。年齢は60.5±12.2歳,罹病期間は8.1±4.3年,Scale for the Assessment rating of ataxia(SARA)の歩行スコアは2.3±0.9点であった。
歩行分析は対象者の自己快適速度で行い,全身に貼付した39点のマーカーの三次元座標を動作解析装置(VICON612,VMS社製)よりサンプリング周波数120Hzで取得した。加えて歩行路上に埋め込んだ床反力計(KISTRLER社製)より1000Hzにて地面反力を計測した。歩行パラメーターとして距離時間因子,ストライド長と荷重量および立脚時間のsymmetry index(SI),重心移動のエネルギー効率を算出した。データ分析は歩行パラメーターとSARA歩行スコアの相関,歩行パラメーター間の相関をWilcoxon検定にて検討した。これら分析結果は,歩行中の姿勢特性から後傾群(頭部が重心位置よりも後方に位置しCポスチャー姿勢を呈した群)と,前傾群(頭部が重心位置よりも前方に位置し体幹の前傾姿勢を呈した群)の2群に分け,対応のないt検定により各歩行パラメーターの差異を比較した。本研究における統計的水準は5%とした。
【結果】
SARA歩行スコアはエネルギー効率と有意な負の相関(R=0.55,p<0.05)を示した。エネルギー効率と相関を示した歩行パラメーターは歩行速度,歩調,ステップ長,遊脚期時間比が0.7以上の正相関を示し,立脚時間比,両脚支持期時間比,荷重量SI,1歩行周期時間,歩行比は0.5以上の負の相関を示した。
エネルギー効率と相関のあった項目を前傾群(n=11)と後傾群(n=10)の2群で比較すると,歩行速度(前傾群0.5±0.3m/s,後傾群0.9±0.2m/s)歩調(前傾群109.1±49.3step/min,後傾群148.5±15.6step/min),ステップ長(前傾群0.3±0.1m,後傾群0.46±0.1m),遊脚時間比(前傾群29.5±9.0%,後傾群37.6±2.3%),エネルギー効率(前傾群65.2±24.5%,後傾群107.36±25.3%)が後傾群で有意に高値を示した。立脚時間比(前傾群70.7±9.1%,後傾群62.4±2.1%),両脚支持期時間比(前傾群20.5±9.5%,後傾群12.1±2.2%)は前傾群で有意に高値を示した。
【考察】
SARA歩行スコアと三次元動作解析の各データの比較検討及び,歩行観察上から2群に分け比較検討した。臨床的なSCDの歩行重症度は歩行のエネルギー効率と相関を示したことから,歩行重症度の軽減においてはエネルギー効率に着眼した介入が示唆される。また,歩行の構成要素である姿勢の特徴により歩行パラメーターの差異が認められたことから,姿勢の特徴によるサブカテゴリー化の可能性が示された。歩行のエネルギー効率最適化を図る上では,前傾群はステップ長短縮と歩調増加による歩行比の減少,後傾群はステップ長増加と歩調減少による歩行比を増加させることが理学療法の介入指針として示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
SCDの歩行障害における臨床的指標と歩行変数の関連性を示し,観察上の特徴からサブカテゴリー化の可能性を示した。また,サブカテゴリー別の歩行分析に基づいた理学療法介入の可能性を示した。