第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述108

神経難病理学療法・その他

2015年6月7日(日) 12:00 〜 13:00 第12会場 (ガラス棟 G701)

座長:菊本東陽(埼玉県立大学 保健医療福祉学部理学療法学科)

[O-0802] 脳卒中片麻痺患者に対する三次元磁気式位置計測システムを用いたトレッドミル歩行分析

吉原ありさ1, 石尾昌代2, 中山秀人1, 村岡慶裕3, 近藤国嗣1, 大高洋平4 (1.東京湾岸リハビリテーション病院, 2.国立病院機構村山医療センター臨床センター, 3.早稲田大学人間科学学術院, 4.慶応義塾大学医学部リハビリテーション医学教室)

キーワード:脳卒中片麻痺, トレッドミル, 歩行分析

【はじめに,目的】
リハビリテーション医療における最大の対象疾患である脳卒中患者はさまざまな障害を呈する。理学療法士は,なかでも日常生活の移動手段に不可欠な歩行障害に対し,多くの治療時間を割き介入する。今日の臨床における歩行障害の治療は,主観的な視診による歩行分析を軸に展開しているが,定量的な評価尺度による効果判定の導入が求められている。近年,医学への工学技術の導入が進み,三次元動作解析装置をはじめ高精度の計測機器を駆使した定量的な歩行分析システムが開発されたものの,評価法に簡便性を要する臨床現場に対応できず,研究機関での普及にとどまっている。そこで石尾らは三次元磁気式位置計測システムに着目し,左右の足背部に取り付けたセンサの歩行時の三次元位置座標(X,Y,Z)を計測し,時間距離因子を算出する新たな定量的簡易歩行分析法を開発した。この分析方法は,トレッドミル歩行においても補正作業を加えることで誤差1.3%の精度で健常者の左右の歩幅を計測できる。そこで本研究では,脳卒中片麻痺患者を対象とし,本法を用いたトレッドミル歩行中の左右の歩幅の計測について検証したので報告する。
【方法】
対象は脳卒中片麻痺患者男性7名(年齢55.9±14.1歳)であった。三次元磁気式位置計測システムは,米国POLHEMUS社製FASTRAK(以下FASTRAK)を,トレッドミル(以下TM)は酒井医療社製のウッドウェイを使用した。FASTRAKの磁場発生源であるトランスミッタは,毎回TMのベルトの前後中央の右脇に座標系のY軸正方向が進行方向と重なるように設置した。TM歩行を計測する前に10m歩行テストを2回実施し,平地歩行速度を算出した。その後,被験者の左右足背部に磁気センサをそれぞれ装着した上で,TM歩行を行った。TMの速度は平地歩行速度の60%となるように設定した。TM歩行開始後10秒間は助走時間とし,歩行開始11秒後から30秒間の計測を実施した。計測は各被験者2回ずつ実施し,得られたデータからTM歩行中の左右の歩幅を算出した。また,平地歩行時の左右の歩幅に対するTM歩行時の歩幅の割合を算出した。尚,手すりの使用の可否は被験者の歩行能力に合わせて決定した。
【結果】
各被験者のTM歩行時の歩幅(平均値±標準偏差)は,被験者1は麻痺側52.2±3.8cm,非麻痺側46.7±4.6cm,被験者2は麻痺側41.7±0.1cm,非麻痺側44.5±0.1cm,被験者3は麻痺側38.1±0.1cm,非麻痺側33.5±0.1cm,被験者4は麻痺側23.9±3.2cm,非麻痺側28.8±3.2cm,被験者5は麻痺側30.7±0.3cm,非麻痺側46.0±2.4cm,被験者6は麻痺側35.8±0.4cm,非麻痺側19.1±0.6cm,被験者7は麻痺側45.7±6.5cm,非麻痺側51.0±3.8cmであった。平地歩行時の歩幅に対するTM歩行時の歩幅の割合は,麻痺痺側が39.5~83.7%,非麻痺側が47.5~78.2%であった。
【考察】
三次元磁気式位置計測システムを用いた定量的簡易歩行分析を用いて,脳卒中片麻痺患者7名を対象にTM歩行の歩幅の測定を行った。その結果,TM歩行時の歩幅は平地歩行時と比べて麻痺側,非麻痺側ともに全被験者で小さくなる傾向がみられ,さらに脳卒中片麻痺歩行に特有な麻痺側-非麻痺側間での歩幅の非対称性も明らかとなった。先行研究によって,TM上では同速度での平地歩行と比して歩行率が増加し歩幅が減少すると既に報告されている。このことから,本法が脳卒中片麻痺患者のTM歩行を簡易に評価する方法として有用である可能性が示唆された。また,測定精度について,脳卒中片麻痺患者ではTMを一定の位置で歩行することができず計測磁気範囲からセンサが逸脱する例もみられ,今後症例数を増やして検証を継続する必要が考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
脳卒中片麻痺患者のTM歩行を定量的かつ簡易に分析・評価できる新しいシステムを提案したという点で,理学療法学研究としての意義があると考えられた。