[O-0804] 慢性腰痛患者と健常者における側腹筋群の筋厚率の比較および腰痛特性との関連性
Keywords:慢性腰痛, 超音波画像診断, 筋厚
【はじめに,目的】
先行研究では,慢性腰痛患者における安静時の側腹筋群(腹横筋;TrA,内腹斜筋;IO,外腹斜筋;EO)の形態について超音波画像診断装置を使用して観察した結果,動作時の脊柱安定化に貢献するとされるTrA筋厚が,健常者に比較して低下しているという報告や,差がみられないという報告がされている。このような見解の違いには,被験者の体格差や,腰痛の重症度などの特性の違いが影響しているものと考えられる。
しかしこれまでの報告では,慢性腰痛患者における安静時の側腹筋群の筋厚を体格を考慮した上で健常者と比較した報告や,腰痛の程度など重症度との関連性を検討した報告が少ないのが実情である。
そこで本研究では,側腹筋群全体の筋厚に対するTrA,IO,EOの筋厚率を慢性腰痛患者と健常者とで比較するとともに,重症度など腰痛の特性との関連性についても検討することを目的とした。
【方法】
A病院の整形外科外来を受診した下肢症状を伴わない腰痛患者のうち,腰痛が3カ月以上続いていて,X線およびMRI画像上で器質的な変化を認めない慢性腰痛患者30名(男性14名,女性16名,平均年齢33.23±9.01歳)を腰痛群とし,体幹から下肢にかけて整形外科的疾患とその既往の無い健常者30名(男性13名,女性17名,平均年齢35.37±9.42)を対照群とした。腰痛群においては,外来理学療法初診時に,腰痛の部位,程度および能力低下の状態について,Body Chart,Visual Analog Scale(VAS),Modified Oswestry Low Back Pain Disability Questionnaire(ODQ)を使用して評価した。
次に被験者全員における両側のTrA,IO,EOの筋厚を超音波画像診断装置(GE Healthcare,Cardio & Vascular Ultrasound System Vivid 7)を使用して測定した。測定肢位は膝立て背臥位とし,肋骨弓下端と腸骨稜上端の中間で中腋窩線の2.5cm前方に7MHzリニア型プローブを接触させ,Mモードにて安静呼気時における側腹筋群の画像化を行った。撮影は左右2回ずつ行ったが,左右の測定順序については乱数表を用いて無作為化した。得られた画像から,超音波画像診断装置内の計測ソフトを使用して,各筋の筋膜間の距離(mm)を計測し,2回の測定値の平均値を各筋の筋厚の代表値とした。また,被験者の体格差を標準化するために,各筋の筋厚を3筋の筋厚の合計である側腹筋厚(TrA+IO+EO)で除し,TrA筋厚率(TrA/TrA+IO+EO),IO筋厚率(IO/TrA+IO+EO),EO筋厚率(EO/TrA+IO+EO)を算出した。
統計解析はSPSS ver. 18.0を用い,まず健常群内および腰痛群内において各筋の筋厚率に左右差が無いことを,対応のあるt検定で確認した上で,各群における各筋の筋厚率として左右の筋厚率の平均値を算出した。次に,健常群と腰痛群間における各筋の筋厚率の差について対応の無いt検定を行った。また腰痛群においては,各筋の筋厚率とVASおよびODIとの関連性について,ピアソンの積率相関分析を行った。なお有意水準はBonferroniの補正を行い1.67%未満とした。
【結果】
各筋の筋厚率の平均値と標準偏差は,健常群ではTrA:0.21±0.03,IO:0.45±0.04,EO:0.33±0.04,腰痛群では,TrA:0.19±0.03,IO:0.45±0.05,EO:0.36±0.05となった。各筋の筋厚率の群間比較の結果では,腰痛群におけるTrA筋厚率は健常群よりも有意に低い値を示し(P=0.008),腰痛群におけるEO筋厚率は,健常群よりも有意に高い値を示した(P=0.005)。相関分析の結果では,腰痛群における各筋の筋厚率とVASおよびODIとの有意な関連性は認められなかった。
【考察】
本研究の結果より,腰痛群は健常群に比べ安静時の側腹筋群の筋厚全体からみたTrAの筋厚率が低く,逆にEOの筋厚率が高くなるということが示された。これは,先行研究で報告されているように,慢性腰痛患者における動作時のTrAの機能低下とそれらを代償するとされるEOの過剰収縮の影響を反映した結果であると考える。また,慢性腰痛患者の各筋厚率は,VASやODIとは関連性が無かったことから,筋厚率の変化は腰痛や能力低下の程度以外の要因が影響している可能性があるものと推察された。今後は,患者の身体活動量や罹患期間,腰痛のタイプとの関連性などについて調査していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
慢性腰痛患者における安静時の側腹筋群の筋厚率を明らかにすることで,より効果的な側腹筋群の筋力トレーニングを検討する際の指標となり得ると考える。また,筋厚率に影響を及ぼす要因を明らかにすることで,特定の筋の萎縮や機能低下を予防するための介入内容を検討する上での有用な情報になるものと期待される。
先行研究では,慢性腰痛患者における安静時の側腹筋群(腹横筋;TrA,内腹斜筋;IO,外腹斜筋;EO)の形態について超音波画像診断装置を使用して観察した結果,動作時の脊柱安定化に貢献するとされるTrA筋厚が,健常者に比較して低下しているという報告や,差がみられないという報告がされている。このような見解の違いには,被験者の体格差や,腰痛の重症度などの特性の違いが影響しているものと考えられる。
しかしこれまでの報告では,慢性腰痛患者における安静時の側腹筋群の筋厚を体格を考慮した上で健常者と比較した報告や,腰痛の程度など重症度との関連性を検討した報告が少ないのが実情である。
そこで本研究では,側腹筋群全体の筋厚に対するTrA,IO,EOの筋厚率を慢性腰痛患者と健常者とで比較するとともに,重症度など腰痛の特性との関連性についても検討することを目的とした。
【方法】
A病院の整形外科外来を受診した下肢症状を伴わない腰痛患者のうち,腰痛が3カ月以上続いていて,X線およびMRI画像上で器質的な変化を認めない慢性腰痛患者30名(男性14名,女性16名,平均年齢33.23±9.01歳)を腰痛群とし,体幹から下肢にかけて整形外科的疾患とその既往の無い健常者30名(男性13名,女性17名,平均年齢35.37±9.42)を対照群とした。腰痛群においては,外来理学療法初診時に,腰痛の部位,程度および能力低下の状態について,Body Chart,Visual Analog Scale(VAS),Modified Oswestry Low Back Pain Disability Questionnaire(ODQ)を使用して評価した。
次に被験者全員における両側のTrA,IO,EOの筋厚を超音波画像診断装置(GE Healthcare,Cardio & Vascular Ultrasound System Vivid 7)を使用して測定した。測定肢位は膝立て背臥位とし,肋骨弓下端と腸骨稜上端の中間で中腋窩線の2.5cm前方に7MHzリニア型プローブを接触させ,Mモードにて安静呼気時における側腹筋群の画像化を行った。撮影は左右2回ずつ行ったが,左右の測定順序については乱数表を用いて無作為化した。得られた画像から,超音波画像診断装置内の計測ソフトを使用して,各筋の筋膜間の距離(mm)を計測し,2回の測定値の平均値を各筋の筋厚の代表値とした。また,被験者の体格差を標準化するために,各筋の筋厚を3筋の筋厚の合計である側腹筋厚(TrA+IO+EO)で除し,TrA筋厚率(TrA/TrA+IO+EO),IO筋厚率(IO/TrA+IO+EO),EO筋厚率(EO/TrA+IO+EO)を算出した。
統計解析はSPSS ver. 18.0を用い,まず健常群内および腰痛群内において各筋の筋厚率に左右差が無いことを,対応のあるt検定で確認した上で,各群における各筋の筋厚率として左右の筋厚率の平均値を算出した。次に,健常群と腰痛群間における各筋の筋厚率の差について対応の無いt検定を行った。また腰痛群においては,各筋の筋厚率とVASおよびODIとの関連性について,ピアソンの積率相関分析を行った。なお有意水準はBonferroniの補正を行い1.67%未満とした。
【結果】
各筋の筋厚率の平均値と標準偏差は,健常群ではTrA:0.21±0.03,IO:0.45±0.04,EO:0.33±0.04,腰痛群では,TrA:0.19±0.03,IO:0.45±0.05,EO:0.36±0.05となった。各筋の筋厚率の群間比較の結果では,腰痛群におけるTrA筋厚率は健常群よりも有意に低い値を示し(P=0.008),腰痛群におけるEO筋厚率は,健常群よりも有意に高い値を示した(P=0.005)。相関分析の結果では,腰痛群における各筋の筋厚率とVASおよびODIとの有意な関連性は認められなかった。
【考察】
本研究の結果より,腰痛群は健常群に比べ安静時の側腹筋群の筋厚全体からみたTrAの筋厚率が低く,逆にEOの筋厚率が高くなるということが示された。これは,先行研究で報告されているように,慢性腰痛患者における動作時のTrAの機能低下とそれらを代償するとされるEOの過剰収縮の影響を反映した結果であると考える。また,慢性腰痛患者の各筋厚率は,VASやODIとは関連性が無かったことから,筋厚率の変化は腰痛や能力低下の程度以外の要因が影響している可能性があるものと推察された。今後は,患者の身体活動量や罹患期間,腰痛のタイプとの関連性などについて調査していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
慢性腰痛患者における安静時の側腹筋群の筋厚率を明らかにすることで,より効果的な側腹筋群の筋力トレーニングを検討する際の指標となり得ると考える。また,筋厚率に影響を及ぼす要因を明らかにすることで,特定の筋の萎縮や機能低下を予防するための介入内容を検討する上での有用な情報になるものと期待される。