[O-0806] 構え,体位,保持角度が静的な屈曲弛緩現象に及ぼす影響
キーワード:腰痛, 体幹筋, 筋活動
【はじめに,目的】
我々は静的な屈曲弛緩現象(FRP)を座位と立位で検討し,座位では背筋群の筋活動が浅い前傾保持の段階で一定となったことから靭帯系への移行が立位よりも早期に行われている可能性を第49回本学会において報告した。しかし,より自然な脱力姿勢(slump)での検討が臨床応用に向けて必要となった。
本研究の目的は静的なFRPにおける,構え,体位,保持角度の3要因の影響を筋電図学的に比較することで,背筋群をリラクゼーションすべき姿勢,逆に筋活動を賦活させるべき姿勢,この両者が異なるかを明確化することである。
【方法】
腰痛既往のない健常成人30名(平均年齢23.9歳)を対象とした。デジタル傾斜計とゴニオメーターを用いて,肩峰と腸骨稜を結ぶ線と床への垂直線がなす角度を測定し,前傾0から60度の10度刻みと最大前傾角度の8水準を体幹前傾角とした各姿勢で保持させる運動を課題とした。O’Sullivanらの先行研究などを参考に骨盤中間位で直立させたuprightと骨盤後傾位で脱力させたslumpを構えの定義とした。それぞれを立位と座位の体位で実施させた。胸・腰部背筋(UES・LES),多裂筋(MF),大殿筋(GMa),大腿二頭筋(BF)を導出筋として表面筋電計で筋活動を測定した。各姿勢の筋活動量を徒手筋力検査で判定5となる最大随意収縮での筋活動量にて正規化した%MVCを各姿勢で算出した。柔軟性の個人差での課題の差異を検討するために大転子と大腿骨外側上顆を結ぶ線上と仙骨部にも各々デジタル傾斜計を設置し,大腿傾斜角と仙骨の傾斜角を各姿勢保持時に計測して変動係数(CV)を算出した。構えと体位の比較ではWilcoxon検定,体幹前傾角の比較ではFreidman検定,Holm検定を用いた。統計ソフトR(ver.2.8.1)を用いて統計学的処理を行い,有意水準を5%未満とした。
【結果】
立位と座位の比較において,uprightのLESとMFの筋活動量は開始姿勢では差を認めなかったが,体幹前傾に伴い,uprightとslumpのいずれにおいても背筋群の筋活動量が座位と比較し立位で高かった。体幹前傾角での比較において,upright座位ではBF以外の全筋において30,40度の浅い体幹前傾角の段階で筋活動量が一定となった。Slump座位ではBF以外の全筋において体幹前傾角別で筋活動量に差を認めず,常に10%MVC未満と低値であった。Slump立位では,全筋の筋活動量が体幹前傾角40度の段階から一定となった。Uprightとslumpでの比較において,座位ではuprightでの背筋群の筋活動量がslumpと比較して高かった。立位ではuprightでのUESとLESの筋活動量が深い体幹前傾角ほどslumpと比較して高く,slumpでのMFの筋活動量が20度までの浅い体幹前傾角でuprightと比較して高かった。CVは仙骨傾斜角が平均14.5%,大腿傾斜角が平均6.1%であった。
【考察】
動的なFRPについて,Callaghamらは座位での出現角度が立位の半分の段階としている。静的状況で検討した本研究も同様の結果で,特にslumpではその傾向が強まった。筋電図以外の知見として,ある一定の前傾角度からは筋圧が一定値をとり,脊柱の支持機構が筋系から靱帯系に移行したものと考えられている。今回もslump座位では浅い前傾の段階から背筋群の活動張力よりも静止張力や靭帯性の支持に移行していた可能性が考えられた。
Slump座位での背筋群は体幹前傾角で筋活動量に差がなく,その値も低値であったことから,この姿勢での背筋群はリラクゼーションしているべきであり,筋が過活動を呈している場合は過剰収縮による腰痛を検討する必要性が示唆された。
Slump座位よりも,upright立位,slump立位,upright座位では体幹前傾に伴って筋活動量が高まり,やがて筋活動量が一定となったことから,筋活動が弱化した腰痛症者では体幹前傾の早期段階で筋を賦活させることが有効になりうると考えられ,筋活動が不十分な場合は外乱などに対する体幹部の支持性の破綻が腰痛発生のリスクとなりうることも考えられた。
【謝辞】
本研究はJSPS科研費25882026の助成をうけたものである。
【理学療法学研究としての意義】
本結果は,静的保持により生じうる姿勢性腰痛に対する理学療法手法選択の有益な一知見となりうる。
我々は静的な屈曲弛緩現象(FRP)を座位と立位で検討し,座位では背筋群の筋活動が浅い前傾保持の段階で一定となったことから靭帯系への移行が立位よりも早期に行われている可能性を第49回本学会において報告した。しかし,より自然な脱力姿勢(slump)での検討が臨床応用に向けて必要となった。
本研究の目的は静的なFRPにおける,構え,体位,保持角度の3要因の影響を筋電図学的に比較することで,背筋群をリラクゼーションすべき姿勢,逆に筋活動を賦活させるべき姿勢,この両者が異なるかを明確化することである。
【方法】
腰痛既往のない健常成人30名(平均年齢23.9歳)を対象とした。デジタル傾斜計とゴニオメーターを用いて,肩峰と腸骨稜を結ぶ線と床への垂直線がなす角度を測定し,前傾0から60度の10度刻みと最大前傾角度の8水準を体幹前傾角とした各姿勢で保持させる運動を課題とした。O’Sullivanらの先行研究などを参考に骨盤中間位で直立させたuprightと骨盤後傾位で脱力させたslumpを構えの定義とした。それぞれを立位と座位の体位で実施させた。胸・腰部背筋(UES・LES),多裂筋(MF),大殿筋(GMa),大腿二頭筋(BF)を導出筋として表面筋電計で筋活動を測定した。各姿勢の筋活動量を徒手筋力検査で判定5となる最大随意収縮での筋活動量にて正規化した%MVCを各姿勢で算出した。柔軟性の個人差での課題の差異を検討するために大転子と大腿骨外側上顆を結ぶ線上と仙骨部にも各々デジタル傾斜計を設置し,大腿傾斜角と仙骨の傾斜角を各姿勢保持時に計測して変動係数(CV)を算出した。構えと体位の比較ではWilcoxon検定,体幹前傾角の比較ではFreidman検定,Holm検定を用いた。統計ソフトR(ver.2.8.1)を用いて統計学的処理を行い,有意水準を5%未満とした。
【結果】
立位と座位の比較において,uprightのLESとMFの筋活動量は開始姿勢では差を認めなかったが,体幹前傾に伴い,uprightとslumpのいずれにおいても背筋群の筋活動量が座位と比較し立位で高かった。体幹前傾角での比較において,upright座位ではBF以外の全筋において30,40度の浅い体幹前傾角の段階で筋活動量が一定となった。Slump座位ではBF以外の全筋において体幹前傾角別で筋活動量に差を認めず,常に10%MVC未満と低値であった。Slump立位では,全筋の筋活動量が体幹前傾角40度の段階から一定となった。Uprightとslumpでの比較において,座位ではuprightでの背筋群の筋活動量がslumpと比較して高かった。立位ではuprightでのUESとLESの筋活動量が深い体幹前傾角ほどslumpと比較して高く,slumpでのMFの筋活動量が20度までの浅い体幹前傾角でuprightと比較して高かった。CVは仙骨傾斜角が平均14.5%,大腿傾斜角が平均6.1%であった。
【考察】
動的なFRPについて,Callaghamらは座位での出現角度が立位の半分の段階としている。静的状況で検討した本研究も同様の結果で,特にslumpではその傾向が強まった。筋電図以外の知見として,ある一定の前傾角度からは筋圧が一定値をとり,脊柱の支持機構が筋系から靱帯系に移行したものと考えられている。今回もslump座位では浅い前傾の段階から背筋群の活動張力よりも静止張力や靭帯性の支持に移行していた可能性が考えられた。
Slump座位での背筋群は体幹前傾角で筋活動量に差がなく,その値も低値であったことから,この姿勢での背筋群はリラクゼーションしているべきであり,筋が過活動を呈している場合は過剰収縮による腰痛を検討する必要性が示唆された。
Slump座位よりも,upright立位,slump立位,upright座位では体幹前傾に伴って筋活動量が高まり,やがて筋活動量が一定となったことから,筋活動が弱化した腰痛症者では体幹前傾の早期段階で筋を賦活させることが有効になりうると考えられ,筋活動が不十分な場合は外乱などに対する体幹部の支持性の破綻が腰痛発生のリスクとなりうることも考えられた。
【謝辞】
本研究はJSPS科研費25882026の助成をうけたものである。
【理学療法学研究としての意義】
本結果は,静的保持により生じうる姿勢性腰痛に対する理学療法手法選択の有益な一知見となりうる。