第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述109

人体構造・機能情報学3

Sun. Jun 7, 2015 1:10 PM - 2:10 PM 第7会場 (ホールD5)

座長:坂本淳哉(長崎大学病院 リハビリテーション部)

[O-0811] 悪液質に伴う炎症性サイトカイン発現及び筋萎縮に対する中周波電気刺激の予防効果

田中稔1,2, 田中孝平1, 竹垣淳也1, 藤野英己1 (1.神戸大学大学院保健学研究科, 2.大阪行岡医療大学)

Keywords:悪液質, 中周波電気刺激, 筋萎縮

【はじめに,目的】
悪性腫瘍や敗血症による全身性炎症を伴う疾患では悪液質を発症する。悪液質状態では炎症性サイトカインが増加し,その影響により全身性に急激な筋萎縮が惹起される。筋萎縮は筋タンパク質同化の抑制と異化の亢進により惹起され,悪液質に伴う筋萎縮では筋タンパク質異化の亢進が大きく影響する。一方,電気刺激は安静に伴う廃用性筋萎縮時の筋タンパク質異化の亢進を抑制すると報告されている。そこで,本研究では悪液質に伴う筋萎縮に対し,中周波電気刺激による筋萎縮予防効果について形態学的,生化学的手法を用いて検証した。また,炎症性サイトカインの発現に与える影響についても検証した。
【方法】
本実験には,5週齢の雄性ICRマウスを用いた。実験動物を対照群(Cont群),リポポリサッカライド(LPS)投与による悪液質を惹起した群(LPS群),LPS投与期間中に中周波電気刺激を実施した群(LPS+ES群)に区分した。LPS投与期間は4日間とし,LPS+ES群では,LPS投与開始日から前脛骨筋に経皮的に中周波電気刺激を実施した。刺激強度は超最大刺激とし,中周波電流を100 Hzの正弦波様に変調した変調波を用いた。刺激時間は1秒間とし,2秒間隔で20回,6セットを1日2回実施した。実験期間終了後,血液と前脛骨筋を採取し,血清から炎症性サイトカインである腫瘍壊死因子(TNF-α)発現量をELISAで測定した。筋サンプルから作製した薄切切片にHematoxylin-Eosin(HE)染色を施し,筋線維横断面積を計測した。また,筋サンプルのAkt及びユビキチン化タンパク質発現量をWestern Blot法で測定した。TNF-αはCont群で検出されなかったために統計解析には,Studentのt検定を用いた。また,筋サンプルデータの統計解析には一元配置分散分析とTukey-Kramerの多重比較検定を用い,有意水準は5%未満とした。

【結果】
Cont群の血中TNF-α発現量は,ELISA測定の下限値以下(<8pg/ml)で検出不能であり,炎症所見は観察されなかった。一方,LPS群及びLPS+ES群のTNF-α発現量は高値を示し,全身性に炎症状態であることが確認できた。また,LPS群とLPS+ES群の血中TNF-α発現量間に有意な差は認めなかった。筋線維横断面積はLPS群及びLPS+ES群でCont群に比較して有意に低値を示したが,LPS+ES群ではLPS群に比較して有意に高値を示した。Aktの総タンパク質発現量におけるリン酸化タンパク質発現量の割合はLPS群及びLPS+ES群でCont群に比較して有意に低値を示したが,一方で,LPS+ES群ではLPS群に比較して有意に高値を示した。ユビキチン化タンパク質発現量はLPS群及びLPS+ES群でCont群に比較して有意に増加したが,LPS+ES群はLPS群に比較して有意に減少した。
【考察】
本研究では,電気刺激によりユビキチン化タンパク質発現量の抑制効果を示した。一方,電気刺激群においても炎症性サイトカインの抑制効果を認めなかった。悪液質による筋萎縮時の筋タンパク質異化亢進にはユビキチン-プロテアソーム系が主要な役割を果たすと報告されており(Tisdale 2009),ユビキチン化タンパク質の増加は筋タンパク質異化亢進の一つの指標になる。また,筋萎縮時には,筋タンパク質異化の制御因子であるAktの活性低下によりユビキチン-プロテアソーム系が活性化する(sandri 2004)。それに対して,電気刺激を用いて萎縮筋へ負荷を与えることで,Aktの活性低下を抑制し,ユビキチン-プロテアソーム系の活性を抑制すると報告されている(Kim 2009)。そのため,本研究では,電気刺激による炎症性サイトカインの抑制効果ではなく,電気刺激により筋に対して適度な負荷を与えたことが,Akt活性低下の抑制を介してユビキチン-プロテアソーム系の活性を抑制し,結果として,筋タンパク質異化亢進の抑制につながったと考える。これらの結果から電気刺激は悪液質に伴う筋萎縮予防に効果的であることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
悪液質状態では,症状の重症度から鑑みて,運動療法の実施は困難であると考えられる。それに対して,電気刺激は,運動療法が行えない症例においても,効果的な筋萎縮予防手段になりえると考えられる。本研究において,悪液質に対して中周波電気刺激を実施することで,萎縮予防効果が確認された。本研究の成果から悪液質に伴う筋萎縮に対する新たな予防手段になり得ることが示唆されたため,理学療法分野において意義があると考えられる。