[O-0815] ホットパックによる疼痛発生の遅延のメカニズムの解析
虚血・再灌流障害の可能性を探る
キーワード:不動化, 疼痛, ホットパック
【はじめに】前回大会にて我々は,不動化に伴う疼痛に対してホットパックによる治療が疼痛発生を遅延させることの他,この疼痛に関与していると考えられる後根神経節(DRG)でのカルシトニン遺伝子関連ペブチド発現状況の改善と腓腹筋の神経成長因子(NGF)量の増加を抑制したことを報告した。しかし,ホットパックがどのようなメカニズムで疼痛発生を遅延させたか明らかにできなかった。一般的に温熱療法の効果には疼痛の軽減のほかに組織温の上昇,血流量の上昇,代謝の亢進など循環動態に変化を与えることから不動化に伴う疼痛と循環動態の関係性に着目した。
複合性局所疼痛症候群のモデル動物の一つであるChronic post ischemia painモデルでは,2週間の連続したギプス固定により虚血を引き起こし,ギプス除去後に虚血/再灌流障害を引き起こすことで疼痛が発生すると報告されている。また,この虚血/再灌流障害が疼痛を引き起こすメカニズムとして血液中のpH低下と血中酸素濃度の増加が関係していることが報告されている。さらに,血中の低pH状態では,酸感受性チャネルであるTRPV1・ASICが活性化されることで疼痛を引き起こすことが報告されており,別のギプス固定モデルでは,DRGにおけるTRPV1の増加が報告されている。また,廃用性筋萎縮を引き起こした筋では毛細血管数が減少することが報告されている。
以上のことから,我々のモデルにおいても下肢の循環障害が生じ,そのことが疼痛発現に関与しているのではないかと考え,不動化に伴う疼痛発生やホットパックによる疼痛発生の遅延に,DRGにおけるTRPV1・ASIC3の発現状況ならびに筋毛細血管数が関係しているか検討した。
【方法】
対象は8週齢のWistar系雄ラット37匹とし,無作為に通常飼育するNormal群(N群),両側足関節をギプス固定するControl群(C群),ギプス固定とホットパックを施行するHot pack群(H群)に振り分けた。C群,H群は足関節最大底屈位で4週間ギプス固定した。固定期間中,イソフルラン吸入麻酔下にてギプスを一時的に除去した後肢に対してHot packを1日20分間,週5日施行した。また,下肢の皮膚温の変化を温度計にて経時的に計測した。行動評価として,ギプス除去下にてラットの足底部に自作のvon Frey filamentを用いて刺激を与え,逃避反応から皮膚痛覚閾値を測定した。また,Randall-Selitto装置を用いて腓腹筋内側頭の筋圧痛閾値を測定した。固定期間終了後,ネンブタール腹腔麻酔下にて長趾伸筋(EDL),腓腹筋(GS),ヒラメ筋(SOL),を摘出し,灌流固定を行い,L4-6のDRGを取り出し,凍結切片を作成した。筋はアルカリフォスファターゼ染色を行い,筋細胞50個に対する細胞周辺の毛細血管数を計測した。DRGはTRPV1・ASIC3の免疫染色を行い,それぞれの陽性細胞数を計測して,総細胞数に対する陽性細胞数の割合を算出した。
【結果】固定期間終了時の皮膚痛覚閾値は,N群16.0±1.5g,C群6.8±1.5g,H群10.25±1.7gであり,各群に有意差を認めた(p<0.05)。筋圧痛閾値はN群140.2±20.7g,C群77.5±7.3g,H群98.5±10.5gであり,各群に有意差を認めた(p<0.05)。H群におけるホットパック施行による皮膚温は,ホットパック施行前32.1±1.9℃であったが,20分後には36.8±0.7℃まで上昇した。筋毛細血管数は,EDLでN群80.3±6.9本,C群77.3±20.7本,H群70.8±6.6本,GSでN群82.0±32.9本,C群78.0±20.2本,H群67.25±26.4本,SOLでN群98.5±7.7本,C群93.25±9.9本,H群82.5±10.8本であり,それぞれの筋で各群に有意差を認めなかった。DRGにおけるTRPV1陽性細胞の割合は,N群47.1±22.5%,C群42.3±11.8%,H群42.5±22.77%,ASIC3陽性細胞の割合はN群38.9±20.4%,C群44.9±12.3%,H群34.4±13.8%であり,TRPV1・ASIC3ともに有意差を認めなかった。
【考察】
不動化により疼痛が生じたがEDL,GS,SOLでの毛細血管数に変化がみられず,DRGにおけるTRPV1・ASIC3の発現にも変化がみられなかった。また,ホットパックにより疼痛発生を遅延させたが筋毛細血管数やTRPV1・ASIC3の発現に影響しなかった。これらのことから,不動化に伴う疼痛やホットパックによる疼痛発生の遅延にTRPV1・ASIC3,ならびに筋毛細血管数はほとんど影響しないことが示唆された。本モデルはホットパック施行時や行動評価時にギプスを一時的に除去しており,虚血/再灌流障害が生じにくかった可能性が考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
不動化に伴う疼痛とホットパックによる温熱療法が疼痛発生を遅延させるメカニズムを解明することでホットパックの治療エビデンスの確立につながると考えられる。ホットパックが臨床でよく用いられていることからエビデンスの確立は治療者の技術に関わらず一定の治療効果を得ることが可能になることが示唆された。
複合性局所疼痛症候群のモデル動物の一つであるChronic post ischemia painモデルでは,2週間の連続したギプス固定により虚血を引き起こし,ギプス除去後に虚血/再灌流障害を引き起こすことで疼痛が発生すると報告されている。また,この虚血/再灌流障害が疼痛を引き起こすメカニズムとして血液中のpH低下と血中酸素濃度の増加が関係していることが報告されている。さらに,血中の低pH状態では,酸感受性チャネルであるTRPV1・ASICが活性化されることで疼痛を引き起こすことが報告されており,別のギプス固定モデルでは,DRGにおけるTRPV1の増加が報告されている。また,廃用性筋萎縮を引き起こした筋では毛細血管数が減少することが報告されている。
以上のことから,我々のモデルにおいても下肢の循環障害が生じ,そのことが疼痛発現に関与しているのではないかと考え,不動化に伴う疼痛発生やホットパックによる疼痛発生の遅延に,DRGにおけるTRPV1・ASIC3の発現状況ならびに筋毛細血管数が関係しているか検討した。
【方法】
対象は8週齢のWistar系雄ラット37匹とし,無作為に通常飼育するNormal群(N群),両側足関節をギプス固定するControl群(C群),ギプス固定とホットパックを施行するHot pack群(H群)に振り分けた。C群,H群は足関節最大底屈位で4週間ギプス固定した。固定期間中,イソフルラン吸入麻酔下にてギプスを一時的に除去した後肢に対してHot packを1日20分間,週5日施行した。また,下肢の皮膚温の変化を温度計にて経時的に計測した。行動評価として,ギプス除去下にてラットの足底部に自作のvon Frey filamentを用いて刺激を与え,逃避反応から皮膚痛覚閾値を測定した。また,Randall-Selitto装置を用いて腓腹筋内側頭の筋圧痛閾値を測定した。固定期間終了後,ネンブタール腹腔麻酔下にて長趾伸筋(EDL),腓腹筋(GS),ヒラメ筋(SOL),を摘出し,灌流固定を行い,L4-6のDRGを取り出し,凍結切片を作成した。筋はアルカリフォスファターゼ染色を行い,筋細胞50個に対する細胞周辺の毛細血管数を計測した。DRGはTRPV1・ASIC3の免疫染色を行い,それぞれの陽性細胞数を計測して,総細胞数に対する陽性細胞数の割合を算出した。
【結果】固定期間終了時の皮膚痛覚閾値は,N群16.0±1.5g,C群6.8±1.5g,H群10.25±1.7gであり,各群に有意差を認めた(p<0.05)。筋圧痛閾値はN群140.2±20.7g,C群77.5±7.3g,H群98.5±10.5gであり,各群に有意差を認めた(p<0.05)。H群におけるホットパック施行による皮膚温は,ホットパック施行前32.1±1.9℃であったが,20分後には36.8±0.7℃まで上昇した。筋毛細血管数は,EDLでN群80.3±6.9本,C群77.3±20.7本,H群70.8±6.6本,GSでN群82.0±32.9本,C群78.0±20.2本,H群67.25±26.4本,SOLでN群98.5±7.7本,C群93.25±9.9本,H群82.5±10.8本であり,それぞれの筋で各群に有意差を認めなかった。DRGにおけるTRPV1陽性細胞の割合は,N群47.1±22.5%,C群42.3±11.8%,H群42.5±22.77%,ASIC3陽性細胞の割合はN群38.9±20.4%,C群44.9±12.3%,H群34.4±13.8%であり,TRPV1・ASIC3ともに有意差を認めなかった。
【考察】
不動化により疼痛が生じたがEDL,GS,SOLでの毛細血管数に変化がみられず,DRGにおけるTRPV1・ASIC3の発現にも変化がみられなかった。また,ホットパックにより疼痛発生を遅延させたが筋毛細血管数やTRPV1・ASIC3の発現に影響しなかった。これらのことから,不動化に伴う疼痛やホットパックによる疼痛発生の遅延にTRPV1・ASIC3,ならびに筋毛細血管数はほとんど影響しないことが示唆された。本モデルはホットパック施行時や行動評価時にギプスを一時的に除去しており,虚血/再灌流障害が生じにくかった可能性が考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
不動化に伴う疼痛とホットパックによる温熱療法が疼痛発生を遅延させるメカニズムを解明することでホットパックの治療エビデンスの確立につながると考えられる。ホットパックが臨床でよく用いられていることからエビデンスの確立は治療者の技術に関わらず一定の治療効果を得ることが可能になることが示唆された。