第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述110

地域理学療法10

Sun. Jun 7, 2015 1:10 PM - 2:10 PM 第8会場 (ガラス棟 G402)

座長:牧迫飛雄馬(国立長寿医療研究センター 自立支援開発研究部 自立支援システム開発室)

[O-0817] 地域在住健常中高年者における転倒経験と転倒不安による運動機能への影響について

利根川賢1,2, 藤田博曉2, 細井俊希2, 新井智之2, 丸谷康平2, 石橋英明3 (1.富家病院リハビリテーション室, 2.埼玉医科大学医学研究科医科学専攻, 3.伊奈病院整形外科)

Keywords:転倒, 転倒不安, 介護予防

【はじめに,目的】
要介護の中で比較的軽度である要支援・要介護1となる要因として転倒や骨折は上位に位置し,その予防的な取り組みは重要である。予防介護事業における理学療法士の取り組みが近年認められつつあり,理学療法士への社会的な期待と責任が高まってきている。転倒不安は転倒経験との関係で検討されることが多いが,転倒不安のみでの運動機能への影響に関する検討は少ない。本研究の目的は地域在住中高年者における転倒経験および転倒不安が運動機能へ与える影響について検討することとした。
【方法】
対象は埼玉県伊奈町に在住し,要支援・要介護および身体障害に該当しない60~70歳代の中高年者765名(男性354名,女性411名,平均年齢69.7±5.2歳)とした。対象者にアンケート及び運動機能の計測をした。アンケート項目は1年以内の転倒の有無,ロコモ25,EQ-5Dを聴取した。運動機能は,身長,体重,筋肉量,BMI,握力,片脚立位保持時間,Functional reach test(以下FRT),5回立ち上がりテスト,6m歩行速度(通常歩行速度及び最大歩行速度),膝伸展筋力,2ステップテスト,足趾把持力を計測した。握力と足趾把持力は左右の平均値,FRTは2回の平均値を使用した。膝伸展筋力は徒手筋計にて計測し,体重当たりの膝関節伸展トルクに補正して使用した(以下膝伸展トルク)。2ステップテストは身長で除した値を2ステップ値として使用した。ロコモ25の「家の中で転ぶのではないかと不安ですか。」の項目に控えていないと回答した場合を転倒不安なし,それ以外を回答した場合を転倒不安ありとした。対象者を転倒経験と転倒不安ともになかった対象をA群,転倒経験があった対象をB群,転倒経験はなかったが転倒不安があった対象をC群として群分けを行った。統計解析として,A群,B群,C群の各群間の比較を,一元配置分散分析およびTukeyの多重比較検定,Bonferroniの多重比較検定を行った。有意水準は5%とした。
【結果】
A群は583名(男性302名,女性281名),B群は90名(男性32名,女性58名),C群は92名(男性20名,女性72名)であり,転倒を経験していた対象は11.8%であった。多重比較検定の結果,A群とB群間では身長(158.8/156.6cm),BMI(22.6/23.7),握力(29.5/26.6kg),片脚立位(53.0/38.7秒),FRT(38.6/36.4cm),5回立ち上がりテスト(8.1/9.0秒),2ステップ値(1.41/1.35),膝伸展トルク(1.74/1.52 Nm/kg),EQ-5D効用値(0.912/0.827),ロコモ25(3.9/8.4点)に有意な差がみられた。A群とC群間では年齢(69.2/72.2歳),身長(158.8/154.4cm),補正四肢筋量(6.96/6.48kg/m2),握力(29.5/23.5kg),片脚立位(53.0/35.4秒),FRT(38.6/36.1cm),5回立ち上がりテスト(8.1/9.5秒),通常歩行速度(1.42/1.33m/秒),最大歩行速度(1.89/1.70m/秒),2ステップ値(1.41/1.30),膝伸展トルク(1.74/1.43 Nm/kg),足指把持力(13.2/10.8kg),EQ-5D効用値(0.912/0.808),ロコモ25(3.9/12.3点)に有意な差がみられた。B群とC群間では年齢(70.3/72.2歳),補正四肢筋量(6.87/6.48kg/m2),握力(26.6/23.5kg),最大歩行速度(1.82/1.70m/秒),ロコモ25(8.4/12.3点)に有意な差がみられた。転倒経験があるB群では運動機能の低下がみられたが,転倒経験はないが転倒不安を持つC群において,最も運動機能が低下している傾向がみられた。
【考察】
本研究の結果,転倒経験と転倒不安のある対象では運動機能の低下がみられ,転倒不安のある対象において最も低下していた。これは運動機能の低下の自覚による転倒不安,転倒不安による活動性の低下が生じ,さらなる運動機能の低下へとつながる悪循環が生じていることが考えられた。転倒不安による運動機能の低下は,今後の転倒につながる可能性があり,その後の骨折,転倒不安の増加へつながると考えられる。また,その結果として,要介護状態へと移行しやすくなるのではないかと考える。
【理学療法学研究としての意義】
転倒の有無にかかわらず,転倒不安がある地域の中高年者には一次予防としての運動器の機能向上のための介入の必要性が示唆された。