[O-0819] SPPBよりみた通所施設を利用する高齢者の入浴動作能力の規定因子とcut off値
Keywords:入浴動作能力, SPPB, 要介護者
【はじめに,目的】
高齢者にとって入浴動作は,最も困難な日常生活活動(Activities of daily living;ADL)動作の一つである(Katz et al, 1963)。厚生労働省の「介護保険事業状況報告(年報)」によると,要介護者数は過去に比べ増加傾向を示している。したがって,要支援・介護認定者における入浴動作能力の維持・改善は重要である。身体機能の低下は,ADL能力に影響を与える(Vermeulen et al, 2011)。身体機能の評価に,簡易身体能力バッテリー(short physical performance battery;SPPB)がある(Guralnik et la, 1994)。SPPBは,閉脚立位,セミタンデム立位,タンデム立位からなるバランス項目,4m歩行時間,椅子からの5回立ち上がりの時間から構成される簡便な運動機能評価法である。特にサルコぺニアの分野で活用され,バランス,歩行,強さ,持久力の標準的な身体能力の測定が可能である(Alfonso et al, 2010)。Wennie Huang et al(2010)によりSPPBとADLの関連性は報告されている。しかし入浴動作といった各ADL能力とSPPBの各項目の関連性,cut off値の検討は依然少ない。本研究では,通所施設を利用する高齢者において,SPPBで測定した身体機能を入浴介助の有無で比較した。またSPPBからみた入浴介助の規定因子,cut off値を検討した。
【方法】
対象は,通所施設を利用する65歳以上の高齢者33名とした(男性14名,女性;19名,平均年齢82.2±8.4歳,身長150.1±11.5cm,体重49.5±9.8kg)。疾患の内訳は,脳血管系疾患が11名,整形外科系疾患が14名,その他が8名であった。要支援・介護認定の割合は,要支援2が2名,要介護1が10名,要介護2が10名,要介護3が10名,要介護4が1名であった。歩行様式は,16名が独歩,7名がT字杖,7名がシルバーカー,2名がpick up walker,1名が四点杖を使用していた。ADL能力の指標にはBarthel index(BI)を使用した。BIによる入浴介助の有無で,介助群と非介助群を判断した。運動機能評価としてSPPBを実施した。SPPBは,バランス項目,4m歩行時間,椅子からの5回立ち上がりの時間の各指標が0から4までのカテゴリーに分けられ,合計12点が最高点である。統計解析は,介助群と非介助群の身体機能などの比較に対応のないt検定を用いた。入浴介助の要因を検討するため,目的変数を入浴介助の有無,独立変数をバランス項目,4m歩行時間,椅子からの5回立ち上がりの時間における各々の得点とし,調整変数を年齢,性別とした多重ロジスティック回帰分析を実施した。Odds比も算出した。cut off値を設定するためにROC曲線を用いた。有意水準は危険率5%未満とした。
【結果】
入浴に介助を要した者は16名であった。介助群は,非介助群に比べBI,SPPBのバランス項目,4m歩行時間,5回立ち上がりの時間のすべての得点において有意に低値を示した(97.7±4.4 vs 79.7±12.7,3.5±0.8 vs 1.9±1.2,2.4±1.2 vs 1.4±0.6,2.2±1.3 vs 0.9±1.4点,p<0.05)。多重ロジスティック回帰分析の結果,入浴介助の有無に対してバランス項目のみが有意な変数として抽出され(p<0.05),Odds比は3.95(CI;1.52-20.45)であった。またROC曲線で入浴介助の有無に対するバランス項目のcut off値は3点であり,ROC曲線下面積(AUC)が0.86,感度が0.88,特異度が0.76であった。
【考察】
本研究よりSPPBで測定したバランス能力は,入浴動作能力に影響を与える可能性がある。また入浴介助に対するバランス項目のcut off値は3点であることが示唆された。SPPBのバランス項目は,閉脚立位,セミタンデム立位が10秒で各々1点,タンデム立位が10秒で2点,3~9.99秒で1点から構成される。つまりタンデム立位の可否が入浴動作能力の一つの指標となり,タンデム立位ができるバランス能力が入浴動作の介助の有無を左右する可能性がある。4m歩行時間については,歩行補助具を使用したため,実際の能力を反映せず関連性を認めなかったのではないかと考える。また5回立ち上がりの時間は,下肢筋力が日常生活動作能力と関連があり(Joel et al, 1995),SPPBの立ち上がりテストも上肢を使用しない。高齢者は上肢も使用することで入浴動作が自立していた可能性がある。研究の限界は,対象者数が少ないことが挙げられる。また横断研究であるため,今後は対象者数を増やし,縦断研究なども検討したい。
【理学療法学研究としての意義】
通所施設を利用する高齢者のバランス能力(特にタンデム立位を可能とするバランス能力)への介入は,入浴動作能力の維持・改善に寄与する可能性がある。また閉脚立位,セミタンデム立位,タンデム立位という簡便な方法で入浴介助のリスクをスクリーニングできることは意義がある。
高齢者にとって入浴動作は,最も困難な日常生活活動(Activities of daily living;ADL)動作の一つである(Katz et al, 1963)。厚生労働省の「介護保険事業状況報告(年報)」によると,要介護者数は過去に比べ増加傾向を示している。したがって,要支援・介護認定者における入浴動作能力の維持・改善は重要である。身体機能の低下は,ADL能力に影響を与える(Vermeulen et al, 2011)。身体機能の評価に,簡易身体能力バッテリー(short physical performance battery;SPPB)がある(Guralnik et la, 1994)。SPPBは,閉脚立位,セミタンデム立位,タンデム立位からなるバランス項目,4m歩行時間,椅子からの5回立ち上がりの時間から構成される簡便な運動機能評価法である。特にサルコぺニアの分野で活用され,バランス,歩行,強さ,持久力の標準的な身体能力の測定が可能である(Alfonso et al, 2010)。Wennie Huang et al(2010)によりSPPBとADLの関連性は報告されている。しかし入浴動作といった各ADL能力とSPPBの各項目の関連性,cut off値の検討は依然少ない。本研究では,通所施設を利用する高齢者において,SPPBで測定した身体機能を入浴介助の有無で比較した。またSPPBからみた入浴介助の規定因子,cut off値を検討した。
【方法】
対象は,通所施設を利用する65歳以上の高齢者33名とした(男性14名,女性;19名,平均年齢82.2±8.4歳,身長150.1±11.5cm,体重49.5±9.8kg)。疾患の内訳は,脳血管系疾患が11名,整形外科系疾患が14名,その他が8名であった。要支援・介護認定の割合は,要支援2が2名,要介護1が10名,要介護2が10名,要介護3が10名,要介護4が1名であった。歩行様式は,16名が独歩,7名がT字杖,7名がシルバーカー,2名がpick up walker,1名が四点杖を使用していた。ADL能力の指標にはBarthel index(BI)を使用した。BIによる入浴介助の有無で,介助群と非介助群を判断した。運動機能評価としてSPPBを実施した。SPPBは,バランス項目,4m歩行時間,椅子からの5回立ち上がりの時間の各指標が0から4までのカテゴリーに分けられ,合計12点が最高点である。統計解析は,介助群と非介助群の身体機能などの比較に対応のないt検定を用いた。入浴介助の要因を検討するため,目的変数を入浴介助の有無,独立変数をバランス項目,4m歩行時間,椅子からの5回立ち上がりの時間における各々の得点とし,調整変数を年齢,性別とした多重ロジスティック回帰分析を実施した。Odds比も算出した。cut off値を設定するためにROC曲線を用いた。有意水準は危険率5%未満とした。
【結果】
入浴に介助を要した者は16名であった。介助群は,非介助群に比べBI,SPPBのバランス項目,4m歩行時間,5回立ち上がりの時間のすべての得点において有意に低値を示した(97.7±4.4 vs 79.7±12.7,3.5±0.8 vs 1.9±1.2,2.4±1.2 vs 1.4±0.6,2.2±1.3 vs 0.9±1.4点,p<0.05)。多重ロジスティック回帰分析の結果,入浴介助の有無に対してバランス項目のみが有意な変数として抽出され(p<0.05),Odds比は3.95(CI;1.52-20.45)であった。またROC曲線で入浴介助の有無に対するバランス項目のcut off値は3点であり,ROC曲線下面積(AUC)が0.86,感度が0.88,特異度が0.76であった。
【考察】
本研究よりSPPBで測定したバランス能力は,入浴動作能力に影響を与える可能性がある。また入浴介助に対するバランス項目のcut off値は3点であることが示唆された。SPPBのバランス項目は,閉脚立位,セミタンデム立位が10秒で各々1点,タンデム立位が10秒で2点,3~9.99秒で1点から構成される。つまりタンデム立位の可否が入浴動作能力の一つの指標となり,タンデム立位ができるバランス能力が入浴動作の介助の有無を左右する可能性がある。4m歩行時間については,歩行補助具を使用したため,実際の能力を反映せず関連性を認めなかったのではないかと考える。また5回立ち上がりの時間は,下肢筋力が日常生活動作能力と関連があり(Joel et al, 1995),SPPBの立ち上がりテストも上肢を使用しない。高齢者は上肢も使用することで入浴動作が自立していた可能性がある。研究の限界は,対象者数が少ないことが挙げられる。また横断研究であるため,今後は対象者数を増やし,縦断研究なども検討したい。
【理学療法学研究としての意義】
通所施設を利用する高齢者のバランス能力(特にタンデム立位を可能とするバランス能力)への介入は,入浴動作能力の維持・改善に寄与する可能性がある。また閉脚立位,セミタンデム立位,タンデム立位という簡便な方法で入浴介助のリスクをスクリーニングできることは意義がある。