[O-0822] ベッカー型筋ジストロフィーに合併した拡張型心筋症に対する植込み型補助人工心臓を装着した患者の心臓リハビリテーションの経験
Keywords:植込み型補助人工心臓, ベッカー型筋ジストロフィー, 心臓リハビリテーション
【目的】重症心不全患者に対する最終的な治療として,植込み型補助人工心臓(以下,植込み型LVAD)を選択されることがある。植込み型LVAD装着術後の心臓リハビリテーション(以下,心リハ)の報告の中では,術後のリスク管理や具体的な介入方法に関しては,症例による個別性が高いことが示されている。今回,ベッカー型筋ジストロフィー(以下,BMD)患者で拡張型心筋症(以下,DCM)に対して植込み型LVAD(Heart MateII)装着術を施行され,術後に著明な筋力低下を来した症例で自宅復帰が可能となった症例を経験したので報告する。
【方法】[症例]17歳男性。入院時 身長163.5cm,体重74.4kg,BMI27.8kg/m2。[既往歴]8年前(10歳時)にBMD,2年前にDCMと診断される。2013年8月に心不全入院,内科的加療で退院したが,2ケ月後の10月に心不全増悪にて再入院となり,内科的加療に加え非持続性心室頻拍に対しICD植込み術を施行された。心不全は改善し約4週間で自宅退院となりその後も復学していた。[家族歴]患者の兄もBMDであり現在電動車椅子を使用しているが,心合併症はなく就学している。[現病歴]2014年1月に心不全増悪にて緊急入院,内科的治療に抵抗性であり心機能の低下の進行を認めることから,心臓移植適応と判断され,3月に植込み型LVAD装着術と三尖弁輪縫縮術を施行された。[経過]術前より心リハ開始し,強心剤投与下でアシストエルゴメータやトレッドミルを使用し有酸素運動を実施。植込み型LVAD術後は,術後2日目より心リハ再開し端座位施行,7日目に一般病棟へ転入,その後立位まで要介助で可能であった。しかし,11日目に心タンポナーデを生じたため再開胸術施行となり,15日目に一般病棟へ再転入した。2度目の術後は基本動作が要介助となっており,特に立ち上がり動作に介助を要した。27日目に車椅子乗車,46日目にリハビリ室で実施し,149日目に在宅訪問・外出,166日目に試験外泊となった。その後ドライブライン刺入部感染により退院が延期になったが201日目で自宅退院となった。
【結果】術前はLVEF21%,BNP210.4pg/ml,CK1241U/lで,術後3ヵ月LVEF38.9%,BNP17.4pg/ml,CK2204IU/lで,退院前LVEF20.9%,BNP8.2pg/ml,CK1076IU/lであった。術前と退院前とも基本動作自立,ADL修正自立,歩行独歩で退院前には術前とほぼ同様に改善した。立ち上がりに関しては,術前に登はん性起立で修正自立,術後3ヵ月は2名介助にて中等度介助であったが,退院前は登はん性起立で支持物が必要な修正自立と改善を認めた。運動機能は術前6分間歩行距離(以下,6MD)277m,握力右12.7kg,左11.3kg,膝関節伸展筋は右26.4N,左30.8Nであり,術後3ヵ月は6MD185m,握力右13.5kg,左14.5kg,膝関節伸展筋は右15.4N,左13.2Nとなり,退院前は6MD253m,握力右11.4kg,左14.1kgであった。また,退院前に実施した心肺運動負荷試験はPeakVO29.6ml/kg/minでATは8.0ml/kg/minであった。
【考察】心不全症例は末梢循環不全に加えて,廃用による筋力低下や運動耐容能の低下を来しADL・歩行動作に影響を及ぼす。本症例はそれらに加え,進行性筋疾患による下肢優位の筋力低下も問題点に上げられ,術後に更に筋力低下が生じADL・歩行動作の獲得までに時間を要した。これは,心リハを進める上で,植込み型LVADのリスク管理が必要なこととは別に,再開胸術後に上肢の支持が得られない状況を強いられ,術前のBMD特有の登はん性起立,重心移動や反動利用等の特異的な方法が行えず,術前と異なった姿勢での動作・筋力や筋出力が必要となったためだと考えられた。今後は,術前からLVAD装着術後の立ち上がり動作を想定した練習も必要であると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】BMDに合併したDCMに対する植込み型LVAD装着術後のADL動作獲得において,本症例は登はん性起立での立ち上がりが最も重要であった。動作遂行とともに植込み型LVADの管理,リスクを十分に考慮してリハビリ実施した症例報告であり理学療法研究として意義があると考えられる。
【方法】[症例]17歳男性。入院時 身長163.5cm,体重74.4kg,BMI27.8kg/m2。[既往歴]8年前(10歳時)にBMD,2年前にDCMと診断される。2013年8月に心不全入院,内科的加療で退院したが,2ケ月後の10月に心不全増悪にて再入院となり,内科的加療に加え非持続性心室頻拍に対しICD植込み術を施行された。心不全は改善し約4週間で自宅退院となりその後も復学していた。[家族歴]患者の兄もBMDであり現在電動車椅子を使用しているが,心合併症はなく就学している。[現病歴]2014年1月に心不全増悪にて緊急入院,内科的治療に抵抗性であり心機能の低下の進行を認めることから,心臓移植適応と判断され,3月に植込み型LVAD装着術と三尖弁輪縫縮術を施行された。[経過]術前より心リハ開始し,強心剤投与下でアシストエルゴメータやトレッドミルを使用し有酸素運動を実施。植込み型LVAD術後は,術後2日目より心リハ再開し端座位施行,7日目に一般病棟へ転入,その後立位まで要介助で可能であった。しかし,11日目に心タンポナーデを生じたため再開胸術施行となり,15日目に一般病棟へ再転入した。2度目の術後は基本動作が要介助となっており,特に立ち上がり動作に介助を要した。27日目に車椅子乗車,46日目にリハビリ室で実施し,149日目に在宅訪問・外出,166日目に試験外泊となった。その後ドライブライン刺入部感染により退院が延期になったが201日目で自宅退院となった。
【結果】術前はLVEF21%,BNP210.4pg/ml,CK1241U/lで,術後3ヵ月LVEF38.9%,BNP17.4pg/ml,CK2204IU/lで,退院前LVEF20.9%,BNP8.2pg/ml,CK1076IU/lであった。術前と退院前とも基本動作自立,ADL修正自立,歩行独歩で退院前には術前とほぼ同様に改善した。立ち上がりに関しては,術前に登はん性起立で修正自立,術後3ヵ月は2名介助にて中等度介助であったが,退院前は登はん性起立で支持物が必要な修正自立と改善を認めた。運動機能は術前6分間歩行距離(以下,6MD)277m,握力右12.7kg,左11.3kg,膝関節伸展筋は右26.4N,左30.8Nであり,術後3ヵ月は6MD185m,握力右13.5kg,左14.5kg,膝関節伸展筋は右15.4N,左13.2Nとなり,退院前は6MD253m,握力右11.4kg,左14.1kgであった。また,退院前に実施した心肺運動負荷試験はPeakVO29.6ml/kg/minでATは8.0ml/kg/minであった。
【考察】心不全症例は末梢循環不全に加えて,廃用による筋力低下や運動耐容能の低下を来しADL・歩行動作に影響を及ぼす。本症例はそれらに加え,進行性筋疾患による下肢優位の筋力低下も問題点に上げられ,術後に更に筋力低下が生じADL・歩行動作の獲得までに時間を要した。これは,心リハを進める上で,植込み型LVADのリスク管理が必要なこととは別に,再開胸術後に上肢の支持が得られない状況を強いられ,術前のBMD特有の登はん性起立,重心移動や反動利用等の特異的な方法が行えず,術前と異なった姿勢での動作・筋力や筋出力が必要となったためだと考えられた。今後は,術前からLVAD装着術後の立ち上がり動作を想定した練習も必要であると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】BMDに合併したDCMに対する植込み型LVAD装着術後のADL動作獲得において,本症例は登はん性起立での立ち上がりが最も重要であった。動作遂行とともに植込み型LVADの管理,リスクを十分に考慮してリハビリ実施した症例報告であり理学療法研究として意義があると考えられる。