第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述111

循環4

2015年6月7日(日) 13:10 〜 14:10 第9会場 (ガラス棟 G409)

座長:田畑稔(豊橋創造大学 保健医療学部 理学療法学科), 木村雅彦(北里大学医療衛生学部 リハビリテーション学科理学療法学専攻)

[O-0827] 心臓リハビリテーションにおける30秒椅子立ち上がりテストの運動耐容能評価としての可能性

寺松寛明1, 水場真澄1, 河野亨太1, 賀好宏明1, 白山義洋1, 永冨真樹2, 大山浩子3, 屏壮史4, 林篤志4, 沼田哲也4, 岡﨑昌博4, 小松拓郎5, 白石純一郎5, 佐伯覚5 (1.産業医科大学若松病院リハビリテーション部, 2.産業医科大学若松病院臨床検査・輸血部, 3.産業医科大学病院病理・臨床検査・輸血部, 4.産業医科大学若松病院循環器内科・腎臓内科, 5.産業医科大学若松病院リハビリテーション科)

キーワード:心臓リハビリテーション, 30秒椅子立ち上がりテスト, 運動耐容能

【はじめに,目的】
Jonesらによって考案された30秒椅子立ち上がりテスト(以下CS-30)は,決められた時間内に40cmの椅子や台から立ち上がれた回数を測定する評価法である。CS-30は再現性が高く,膝伸展筋力と高い相関が認められている。またCS-30は短時間で行え,かつ高価な機器やフィールドを必要とせず,若年者から高齢者,脳卒中片麻痺患者など適応も幅広い。30秒間の持続的運動は持久力要素も含まれることから,近年運動耐容能との関連も報告されている。一方で,心臓リハビリテーション(以下心リハ)患者のCS-30と運動耐容能との関連についての報告はほとんど見当たらない。心リハの運動耐容能評価法として,心肺運動負荷試験(以下CPX)や6分間歩行試験(以下6MWT)等があるが,高価な機器やフィールドを必要とし,時間がかかるなどの欠点を有する。CS-30を心リハ患者の運動耐容能評価として応用できれば,そうした問題を解決でき,在宅等においても短時間で簡便に運動耐容能を評価できるのではないかと考えた。そこで今回,心リハ患者のCS-30が運動耐容能評価としての可能性を有するかについて検討した。

【方法】
対象は,当院心リハ参加時にCS-30を含む理学療法評価とCPX(自転車エルゴメーターランプ法)を実施し得た心疾患患者102例(男性73例,女性29例,平均年齢70±10歳,心不全30例,虚血性心疾患49例,開心術後21例,大血管術後2例)とした。CS-30を従属変数,他の評価項目を独立変数とした単相関分析を行い,有意差を認めた項目を独立変数として重回帰分析(ステップワイズ法)を行った。重回帰分析にて抽出された因子を状態変数として,Receiver Operating Characteristic(以下ROC)曲線を用いてCS-30のカットオフ値を求めた。統計処理にはIBM SPSS statistics 21を使用し,有意水準は5%とした。

【結果】
CS-30は,6MWT(r=0.63),片脚立位時間(r=0.51),膝伸展筋力(r=0.49),NYHA分類(r=0.48),Barthel Index(r=0.45),膝屈曲筋力(r=0.42),peak WR(r=0.46),AT-WR(r=0.42),AT-VO2(r=0.40),peak VO2(r=0.39)と各々有意な相関が認められた(p<0.01)。重回帰分析にて,6MWTと片脚立位時間がCS-30の関連要因として抽出され,CS-30=3.114+0.023×6MWT+0.059×片脚立位時間(調整済みR2=0.42,VIF=1.301,p<0.001)の多重共線性に問題のない重回帰式が得られた。生命予後指標としての6MWTのカットオフ値:300mを状態変数としたCS-30のカットオフ値は11.5回で,感度72.9%,特異度76.5%,ROC曲線の曲線下面積は0.837であった。

【考察】
本研究において,心リハ患者のCS-30はCPXよりも6MWTを反映した運動耐容能とより関連していることが明らかとなった。また,重回帰分析にて,CS-30の関連要因として6MWTと片脚立位時間が抽出された。これは,CS-30が立ち上がり動作主体の評価法であることから,荷重下でバランス能力も要求される歩行に類似した動作であるためと推察された。先行研究にて,急性期心疾患患者におけるCS-30の歩行自立のカットオフ値が11.5回であったとの報告があり,本研究で得られたカットオフ値とほぼ一致していた。心疾患患者において,運動能力と生命予後は密接に関連することから,CS-30:11.5回前後が,生命予後の目安になりうる可能性が示された。本研究の限界として,後方視的横断研究である点,症例数が少なく病態の異なる疾患を対象としているなど,選定バイアスの可能性がある点が挙げられた。また,本研究における単相関係数や決定係数,ROC曲線の精度が十分ではなかったため,今後予測精度を高めるために他の要因も検討する必要がある。

【理学療法学研究としての意義】
CS-30を心リハ患者の運動耐容能評価として応用できれば,高価な機器やフィールドのない施設や在宅等においても,短時間で簡便に運動耐容能を評価できる可能性がある。