第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述113

神経難病理学療法

Sun. Jun 7, 2015 1:10 PM - 2:10 PM 第12会場 (ガラス棟 G701)

座長:石井光昭(佛教大学保健医療技術学部 理学療法学科)

[O-0834] 支持基底面を広げた状態での下肢ダイナミックストレッチングが中等度パーキンソン病患者のバランス能力に与える即時的効果

松村剛志1, 山田順志2, 吉田英雄3, 望月裕佑3, 楯人士3 (1.浜松大学保健医療学部理学療法学科, 2.城西神経内科クリニックリハビリテーション課, 3.堀田内科医院リハビリテーション科)

Keywords:パーキンソン病, 支持基底面, ダイナミックストレッチング

【はじめに,目的】
近年,パーキンソン病(PD)患者に対する理学療法において,運動の大きさに焦点化したプログラムが注目されている。しかしながら中等度PD患者においては,バランス能力の低下により,抗重力位でより大きな運動範囲を確保することに困難を伴うことが予想される。抗重力位の安定には支持基底面を広げることが最も容易で,その結果として安定性限界も拡大する。そこで今回,PD患者に対して支持基底面を広げた状態での下肢ダイナミックストレッチング(DS)を実施し,バランス能力の即時的効果について検討したので報告する。
【方法】
静岡市内の2カ所の診療所に通院または通所しているHoehn-Yahr Stage II~IIIのPD患者8名(StageII:1名,StageIII:7名,男性:4名,女性:4名,平均年齢68.8±7.2歳)を対象とした。支持基底面を広げた状態でのDSは,前外側の床面につけたノルディックウォーキング用の2本のポールを両手で保持しながら,6種類のDS(股関節屈曲-伸展,股関節外転,足関節背屈-底屈,体幹伸展,体幹回旋,肩甲帯後退)を,可能な限り大きな運動範囲にて5回ずつ反復した(Hand-held Paul Exercise:HPEx)。比較対照のため,ポールを使用せずに行う同一運動(N-HPEx)も実施した。HPExとN-HPExの比較には,クロスオーバー・デザインを採用した。対象者を2群に分け,A群4名は1回目にHPEx → N-HPExを行い,2回目は1週間以上の間隔を空けてN-HPEx → HPExの順でDSを行った。B群4名はこの逆の手順でDSを行い,Time Up & Go Test(TUGT),左右の360°回転時間(360°T-T),5回連続椅子立ち上がり時間(CS5-T)を測定指標とした。各指標は,介入実施前,HPEx終了後およびN-HPEx終了後の3回測定を行い,ベースライン測定値に対する介入後の変化をHPExとN-HPExの間で比較検討した。同時にDS実施中の関節運動を前方及び左側方から撮影し,動画を1/30秒の静止画に変換した。静止画より体幹伸展,左側の股関節屈曲-伸展,両股関節外転,左側の足関節背屈-底屈の最大関節角度を画像解析ソフトImage-Jを用いて求めた。こうして得られた最大関節角度から開始肢位の関節角度を引いた値を関節運動範囲とし,その平均値をHPExとN-HPExの間で比較した。2群間の差の検定にはJMP9を用い,Wilcoxonの順位和検定を行った。
【結果】
TUGT,360°T-T,CS5-Tのいずれにおいても,ベースライン測定値は1回目と2回目の間に有意差は認められなかった。ベースライン測定値からの変化は,TUGTにおいてHPEx実施後に平均-2.08±1.73秒,N-HPEx実施後には平均-1.01±1.61秒の変化が認められ,HPExの実施にてTUGTが有意に時間短縮していた(P<0.05)。左右の360°T-TおよびCS5-Tは2群間に有意差を認めなかった。一方,DS実施中の関節運動範囲の平均値は,股関節伸展がHPExにて11.00±7.75°,N-HPExにて2.75±5.88°であり,足関節背屈はHPExが6.88±2.96°,N-HPExが1.07±3.77°であった。いずれもHPExの関節運動範囲が有意に大きくなっていた(P<0.05)。体幹伸展,股関節屈曲,左右の股関節外転,足関節底屈は,2群間に有意差を認めなかった。
【考察】
今回,HPExの即時効果をTUGTにおいて確認することができた。TUGTはバランス能力の指標であるが,①立ち上がり-しゃがみ込み,②直進歩行,③方向転換から構成されている。HPExを実施しても,立ち上がり-しゃがみ込みおよび方向転換には時間短縮がみられなかった。このため,TUGTの改善は,直進歩行あるいは各構成要素間の切り替えの時間短縮によるものと推定された。関節運動範囲の比較では,支持基底面を広げることにより股関節伸展と足関節背屈の関節運動範囲が有意に大きかった。歩行において,股関節伸展は歩幅の確保に,足関節背屈は足部クリアランスに必要不可欠と考えられている。以上より,HPExの実施が股関節伸展運動と足関節背屈運動の拡大に結びつき,この結果得られた歩幅の拡大と足部クリアランスの確保が直進歩行の時間短縮に結びついたのではないかと推定された。しかし今回の調査では,10m歩行等の直進歩行に関する測定指標を確認していないため,TUGT改善の背景を厳密に絞り込むことは困難であった。
【理学療法学研究としての意義】
本調査の結果は,HPExが中等度PD患者に対するバランス能力改善への取り組みとして有効である可能性を示している。今後は,HPExの有効性を持続効果の検証を通じて確立して行くと共に,測定指標を増やすことで効果の背景を明確にして行くことが必要と考えられる。