[O-0836] パーキンソン病の前屈姿勢に対する直流前庭電気刺激の即時効果―単盲検無作為化シャム対照試験
キーワード:パーキンソン病, 姿勢異常, 直流前庭電気刺激
【はじめに,目的】
パーキンソン病(PD)の前屈姿勢に対する治療は確立されていない。側屈姿勢を呈するPD患者は側屈側の前庭機能障害を有することが報告された(Vitale, 2011)。前庭系は側方だけでなく,前後,垂直方向の直線加速度や回転加速度を感知しており,前屈姿勢を呈するPD患者においても前庭機能障害を呈する可能性がある。
前庭系を刺激する方法として直流前庭前期刺激(GVS)がある。GVSは電極を乳様突起に貼付し直流電流を通電し,前庭系を刺激する方法である。我々は,先行研究において前屈や側屈などの姿勢異常を呈するPD患者数例に対して前庭系を刺激すると考えられる直流前庭電気刺激(GVS)を一定時間行うことにより,姿勢異常が即時的に改善したことを報告した(Okada,2011;喜多;2013)。しかし,PD患者の前屈姿勢や側屈姿勢に対するGVSの即時効果は客観的に検証されていない。本研究はPDの前屈姿勢に対する直流前庭電気刺激(GVS)の即時効果について単盲検無作為化シャム対照クロスオーバー試験にて検証した。
【方法】
対象は前屈姿勢を呈するPD患者7名(71.1(2.7)歳,男性3名女性4名)とした。対象者に対して,両耳単極法GVSおよびsham刺激の両刺激を1週間の間隔をあけて,ランダムな順序で刺激条件をマスクし実施した。使用機器は多機能型電気刺激装置(Chattanooga Intelect Advanced Combo, DJO Global, Vista, CA, USA)であった。電極は陰極を乳様突起に,陽極を第7頸椎レベルの僧帽筋に左右二対貼付した。GVSの刺激強度は0.3~0.7mAとした。両刺激条件とも20分間背臥位にて実施した。評価項目は刺激前後の30秒間の開閉眼立位における平均前屈角度とした。統計解析は,開閉眼立位時前屈角度について開閉眼条件間の比較,両刺激条件の刺激前のベースライン比較,各刺激条件における刺激前後の比較および各刺激条件間の刺激による変化量(刺激前-刺激後)の比較をWilcoxon signed rank testを用いて実施した。有意水準は5%とした。
【結果】
対象者の閉眼条件における立位時前屈角度は開眼条件と比較して有意に大きかった。両刺激条件の刺激前のベースラインにおける開閉眼立位時前屈角度は有意な差がなかった。開閉眼立位時前屈角度は,GVS後7名全員において減少し,sham刺激後7名中5名において減少した。開閉眼立位時前屈角度はGVS後有意に減少した。sham刺激後も開閉眼立位時前屈角度は減少する傾向は認めたが,有意な変化は認められなかった(p=0.06)。開眼立位時前屈角度の変化量は両刺激条件間において有意な差はなかったが(p=0.74),閉眼立位時前屈角度の改善度は,GVS[8.2(3.1)]の方がsham刺激[3.3(3.5)]と比較して有意に大きかった。
【考察】
GVS後立位時前屈角度は開閉眼条件ともに有意に減少したが,sham刺激においては刺激前後の開閉眼立位時前屈角度に有意な差を認めなかった。刺激前後の閉眼立位時前屈角度の減少量は,GVSがsham刺激と比較して有意に大きかったが,開眼立位時前屈角度の変化量は刺激条件間で差がなかった。本結果から,GVSは閉眼立位時前屈角度を減少させる効果があることを示唆している。GVSは前屈姿勢を呈するPD患者の固有感覚,前庭感覚による矢状面の姿勢制御に影響を与える可能性があると考えられる。
前屈姿勢を呈するPD患者の閉眼時立位時前屈角度は,開眼時と比較して大きくなることから,前屈姿勢を呈するPD患者は矢状面の姿勢制御において視覚依存度が高く,固有感覚,前庭感覚による制御に異常を呈する可能性を示唆している。固有感覚や前庭感覚は身体図式の認識に関与しており,前屈姿勢を呈するPD患者は身体図式に異常を呈する可能性も考えられる。GVSにより身体図式の情報処理に関わる頭頂側頭皮質の活動が上昇することが報告されており(Lobel, 1998),前屈姿勢を呈するPD患者に対してGVSをすることにより,頭頂側頭皮質における身体図式の情報処理に影響を与え,矢状面における姿勢制御に影響を与えた可能性もある。今後は症例数を増やしてGVSがPD患者の前屈姿勢を呈する患者に与える影響についてより大規模に検証するとともに,効果の機序についても検証する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果,両耳単極法GVSにより,PDの前屈姿勢が改善することが示された。本研究結果は両耳単極法GVSはPDの前屈姿勢に対する理学療法を実施する上での補助的手段として利用できる可能性を示唆するものであり,その臨床的意義は大きい。
パーキンソン病(PD)の前屈姿勢に対する治療は確立されていない。側屈姿勢を呈するPD患者は側屈側の前庭機能障害を有することが報告された(Vitale, 2011)。前庭系は側方だけでなく,前後,垂直方向の直線加速度や回転加速度を感知しており,前屈姿勢を呈するPD患者においても前庭機能障害を呈する可能性がある。
前庭系を刺激する方法として直流前庭前期刺激(GVS)がある。GVSは電極を乳様突起に貼付し直流電流を通電し,前庭系を刺激する方法である。我々は,先行研究において前屈や側屈などの姿勢異常を呈するPD患者数例に対して前庭系を刺激すると考えられる直流前庭電気刺激(GVS)を一定時間行うことにより,姿勢異常が即時的に改善したことを報告した(Okada,2011;喜多;2013)。しかし,PD患者の前屈姿勢や側屈姿勢に対するGVSの即時効果は客観的に検証されていない。本研究はPDの前屈姿勢に対する直流前庭電気刺激(GVS)の即時効果について単盲検無作為化シャム対照クロスオーバー試験にて検証した。
【方法】
対象は前屈姿勢を呈するPD患者7名(71.1(2.7)歳,男性3名女性4名)とした。対象者に対して,両耳単極法GVSおよびsham刺激の両刺激を1週間の間隔をあけて,ランダムな順序で刺激条件をマスクし実施した。使用機器は多機能型電気刺激装置(Chattanooga Intelect Advanced Combo, DJO Global, Vista, CA, USA)であった。電極は陰極を乳様突起に,陽極を第7頸椎レベルの僧帽筋に左右二対貼付した。GVSの刺激強度は0.3~0.7mAとした。両刺激条件とも20分間背臥位にて実施した。評価項目は刺激前後の30秒間の開閉眼立位における平均前屈角度とした。統計解析は,開閉眼立位時前屈角度について開閉眼条件間の比較,両刺激条件の刺激前のベースライン比較,各刺激条件における刺激前後の比較および各刺激条件間の刺激による変化量(刺激前-刺激後)の比較をWilcoxon signed rank testを用いて実施した。有意水準は5%とした。
【結果】
対象者の閉眼条件における立位時前屈角度は開眼条件と比較して有意に大きかった。両刺激条件の刺激前のベースラインにおける開閉眼立位時前屈角度は有意な差がなかった。開閉眼立位時前屈角度は,GVS後7名全員において減少し,sham刺激後7名中5名において減少した。開閉眼立位時前屈角度はGVS後有意に減少した。sham刺激後も開閉眼立位時前屈角度は減少する傾向は認めたが,有意な変化は認められなかった(p=0.06)。開眼立位時前屈角度の変化量は両刺激条件間において有意な差はなかったが(p=0.74),閉眼立位時前屈角度の改善度は,GVS[8.2(3.1)]の方がsham刺激[3.3(3.5)]と比較して有意に大きかった。
【考察】
GVS後立位時前屈角度は開閉眼条件ともに有意に減少したが,sham刺激においては刺激前後の開閉眼立位時前屈角度に有意な差を認めなかった。刺激前後の閉眼立位時前屈角度の減少量は,GVSがsham刺激と比較して有意に大きかったが,開眼立位時前屈角度の変化量は刺激条件間で差がなかった。本結果から,GVSは閉眼立位時前屈角度を減少させる効果があることを示唆している。GVSは前屈姿勢を呈するPD患者の固有感覚,前庭感覚による矢状面の姿勢制御に影響を与える可能性があると考えられる。
前屈姿勢を呈するPD患者の閉眼時立位時前屈角度は,開眼時と比較して大きくなることから,前屈姿勢を呈するPD患者は矢状面の姿勢制御において視覚依存度が高く,固有感覚,前庭感覚による制御に異常を呈する可能性を示唆している。固有感覚や前庭感覚は身体図式の認識に関与しており,前屈姿勢を呈するPD患者は身体図式に異常を呈する可能性も考えられる。GVSにより身体図式の情報処理に関わる頭頂側頭皮質の活動が上昇することが報告されており(Lobel, 1998),前屈姿勢を呈するPD患者に対してGVSをすることにより,頭頂側頭皮質における身体図式の情報処理に影響を与え,矢状面における姿勢制御に影響を与えた可能性もある。今後は症例数を増やしてGVSがPD患者の前屈姿勢を呈する患者に与える影響についてより大規模に検証するとともに,効果の機序についても検証する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果,両耳単極法GVSにより,PDの前屈姿勢が改善することが示された。本研究結果は両耳単極法GVSはPDの前屈姿勢に対する理学療法を実施する上での補助的手段として利用できる可能性を示唆するものであり,その臨床的意義は大きい。