第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述113

神経難病理学療法

2015年6月7日(日) 13:10 〜 14:10 第12会場 (ガラス棟 G701)

座長:石井光昭(佛教大学保健医療技術学部 理学療法学科)

[O-0839] 亜急性期皮膚筋炎患者に対するホームエクササイズと外来リハビリテーションの併用の効果

―症例報告―

岡泰星1, 田津原佑介1, 赤澤直紀2, 佐々木裕介3 (1.貴志川リハビリテーション病院, 2.河西田村病院, 3.和歌山県立医科大学附属病院)

キーワード:亜急性期皮膚筋炎, ホームエクササイズ, 外来リハビリテーション

【はじめに,目的】皮膚筋炎は,特徴的な皮膚症状に加え,四肢近位筋・頚筋の筋力低下や筋痛といった筋症状を主症状とし,進行例では筋萎縮を認める全身性自己免疫疾患である。皮膚筋炎患者に対するリハビリテーション(リハ)は早期からの介入が推奨され(Alexanderson et al., 2000),近年では,レジスタンストレーニングを主としたホームエクササイズの効果が無作為化比較対照試験により検証されている(Habers et al., 2012,Alexanderson et al., 2014)。しかし,亜急性期皮膚筋炎患者に対するホームエクササイズと外来リハの併用の効果については未だに明らかにされていない。したがって本研究の目的は,ホームエクササイズと外来リハの併用が亜急性期皮膚筋炎患者の身体機能に与える効果を検証することである。
【方法】対象は皮膚筋炎を発症し,3ヶ月経過した50歳代後半の女性である。発症後,他院にて1ヶ月の入院リハを受けた後,当院の外来リハ開始となった。外来リハ開始時,Creatine Phosphokinase(CPK)値は43IU/lと基準値範囲内であったが,高容量のステロイド薬を服用していた。外来リハは,40分の理学療法を週1~2回の頻度で実施した。ホームエクササイズの実施は外来リハ実施日を除く週5~6回と設定した。外来リハでは,ホームエクササイズの指導とそれらエクササイズの負荷量の設定を行った。ホームエクササイズ内容はスクワット,カーフレイズ,またセラバンドを用いた膝関節伸展運動,立位での股関節屈曲運動とし,エクササイズ強度は山内ら(2014)の報告を参考に,修正Borg Scale(BS)2「楽である」程度となる負荷から開始し,筋疲労や筋痛が生じない場合は,BS4「ややきつい」程度の負荷を設定した。また負荷量は運動回数(10~20回)を増減させる事で調節した。各運動を1~2セット計10~15分程度実施し,セット間インターバルは疲労が十分に回復する時間とした。また,エクササイズの実施頻度はチェックシートを用いて確認した。外来リハ開始時と開始後3ヶ月時点で,四肢骨格筋肉量(SMI){真田ら(2010)の推定式を用いて算出},等尺性膝関節伸展筋力(ハンドヘルドダイナモメーターを使用),5回立ち座りテスト(FTSST),最大歩行速度(MWS)を測定した。外来リハ開始後3ヶ月時点では,介入による日常生活の行いやすさに対する主観的な変化度合を7-point scaleのGlobal Rating of Change Scale(GRC)を用いて評価した。
【結果】ホームエクササイズと外来リハの併用による3ヶ月間の介入で,SMIは5.85kg/m2→6.57kg/m2,等尺性膝関節伸展筋力は右107.8→210.5N・左77.4→194.2N,FTSSTは14.5→7.5秒,MWSは1.23→1.33m/秒となり,GRCはscore 2「日常生活が楽になった」であった。またホームエクササイズ実施頻度は90%であり,介入期間中,筋疲労や筋痛の出現はなく,CPK値も34IU/lと上昇を認めなかった。
【考察】ホームエクササイズと外来リハの併用を3ヶ月間実施した結果,SMI,等尺性膝関節伸展筋力,FTSST,MWSのすべての項目で改善を認め,さらに主観的な日常生活の行いやすさについても楽になったとの回答を得ることができた。中でも,等尺性膝関節伸展筋力においては,右95%,左150%の大幅な改善を示した。また,介入期間中での筋疲労や筋痛などの副作用はなく,疾患活動性を反映するCPK値の上昇も認められなかった。これらレジスタンストレーニングを中心としたエクササイズの効果を支持する結果は,先行研究の結果を追認するものであった。そして,本研究のホームエクササイズの実施率は90%であり,Alexandersonら(2014)の24週間のホームエクササイズ実施率の79%を上回る高いものであった。これら実施率の差異は,エクササイズ実施状況を週に1回の電話により確認した彼らの方法と,週1~2回の外来リハを併用した本研究との支援体制の違いに起因したものであると考えられた。継続したホームエクササイズの実施が困難であるとの指摘がなされている皮膚筋炎患者において,エクササイズに対するモチベーションを維持させるといった点で,外来リハを併用することは効果的であることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】近年,亜急性期皮膚筋炎患者に対するホームエクササイズの実施は,疾患活動性を増悪させることなく,身体機能を改善させることが報告されている。しかし,それら先行研究でのホームエクササイズ実施率は十分に高いものではなかった。本研究は,外来リハの併用が亜急性期皮膚筋炎患者の身体機能を改善させるだけでなく,ホームエクササイズ実施率を向上させ得る可能性を示した点で意義があると考える。