第50回日本理学療法学術大会

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口述

セレクション 口述20

発達障害理学療法・その他

Sun. Jun 7, 2015 2:30 PM - 3:30 PM 第5会場 (ホールB5)

座長:鶴崎俊哉(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科保健学専攻)

[O-0843] 体重免荷時の自動介助運動が重症心身障害者の下肢筋活動と関節可動域に及ぼす影響

奥田憲一1, 白川泰彦1, 長原真也1, 松永美幸1, 中村早紀1, 西村優衣1, 加藤浩2 (1.社会福祉法人慈愛会医療福祉センター聖ヨゼフ園, 2.九州看護福祉大学大学院)

Keywords:体重免荷, 筋活動, 関節可動域

【はじめに】脳性まひ児の多くは抗重力姿勢制御の問題に加え,重力に対する適応障害という問題を併せ持つ。この重力に対する適応障害を解決するため,1993年にNorman LozinskiはThe SPIDERを開発した。The SPIDERは身体に装着する留め具付ベルトと,ベルトから外側に向かって張られたゴム紐を固定する枠から構成され体重免荷を可能とする。我々は重症心身障害者(以下,重症者)に対して体重免荷した状態で全身運動を行った結果,他動運動時の四肢の抵抗が軽減され,関節可動域(以下,ROM)が拡大する経験を有してきた。このことから本研究の目的は,ユニバーサルフレーム(以下,UF)(株式会社アシスト製)を用いて,重症者に対して体重免荷した立位の中で律動的な下肢の屈曲,伸展の自動介助運動を行い,運動前後のハムストリングスの筋活動の変化とROMの変化を検討するものである。
【方法】対象は当園入所利用の重症者20名。男性12名,女性8名。平均年齢49.4±9.5歳であった。診断名は全員脳性麻痺(痙直型四肢麻痺)であり,GMFCS level IV,5名,level V,15名,大島分類は1,11名,2,6名,4,1名,8,1名,9,1名であった。計測はUFを用いて体重の3/4を免荷した状態で立位をとらせ,律動的な下肢の屈曲,伸展の自動介助運動を10分間行い,運動前後の内側ハムストリングスの筋活動を計測した。計測は原則左下肢を用いたが,拘縮の程度や安全面への配慮のため7名は右下肢を用いた。電極は銀・塩化銀型disposable電極Blue Sensor M-00-S(Ambu社製)を使用した。電極の貼付部位は内側ハムストリングス遠位1/3とし,電極中心間距離3cmで筋線維の走行に沿って十分な前処理後貼付した。アース電極の位置は脛骨粗面とした。具体的には運動前における膝関節最大伸展位で5秒間の持続的伸張を行い,無線式EMG測定装置EMGマスターKM-104(メディエリアサポート企業組合製)を用いてサンプリング周波数1kHzでパーソナルコンピュータに取り込んだ。次に運動後に運動前と同一の膝関節伸展角度で関節角度を変えずに5秒間の持続的伸張を加え,運動前と同様にパーソナルコンピュータに取り込んだ。運動前後の持続的伸張はそれぞれ3回行った。得られたデータは前後1秒間を除いた3秒間の活動電位を全波整流処理後,筋電積分値(integrated EMG,以下IEMG)を算出し,3回の平均値を運動前後で比較した。また運動前後の下肢のROMを計測した。計測肢位は背臥位における姿勢筋緊張の亢進を軽減する目的で,プラットホーム上背臥位から下腿を下垂させた肢位とした。ROMは両股関節屈曲,伸展,外転,外旋,内旋,両膝関節伸展を,それぞれ3回計測し,平均値を求め運動前後で比較した。統計学的処理は運動前後のIEMGの比較では正規性が得られなかったためWilcoxon検定を用いて検討した。運動前後のROMの比較では正規性が得られたため一標本t検定を用いて検討した。
【結果】Wilcoxon検定の結果,運動後の内側ハムストリングスのIEMGは有意(p<0.01)に減少した。また一標本t検定の結果,運動後の両股関節屈曲,伸展,外転,外旋,内旋,両膝関節伸展,全てにおいてROMが有意(p<0.01)に拡大した。
【考察】松尾(2010)は,重症心身障害の主病態である脳性まひの筋活動の特徴について,多関節筋は過活動し,痙縮や固縮,局所の変形を引き起こし,単関節筋は中枢神経の損傷とともに麻痺し,抗重力機能が低下し,多関節筋の過活動によって単関節筋の抗重力活動が抑えられるとした。今回UFを用いて体重免荷し立位をとらせ,律動的な下肢の屈曲,伸展の自動介助運動を行った結果,二関節筋であるハムストリングスの筋活動が減少したことは,ハムストリングの過活動が抑制されたことを示している。UFを用いた体重免荷環境での自動介助運動は,痙縮や固縮を改善し,重症者の自動運動を引き出し,従来の徒手的理学療法では困難であった全身的な身体活動を提供することが可能となる。さらに股関節周囲のROM拡大は介助者にとっての介助を容易にし,骨折をはじめとする事故の減少が期待され,重症者にとっての包括的なQOL向上に貢献すると考える。
【理学療法学研究としての意義】体重免荷が重症者の生態に及ぼす影響に関する報告は少ない。しかし本研究の結果から,体重免荷時の運動が重症者の生態に与える影響は大きいと推測され,重症者の主要問題である変形・拘縮の進行や易骨折性の予防を可能とする新しい理学療法プログラムの展開が期待できる。