[O-0844] 先天性心疾患の術後無気肺に対する呼吸理学療法の効果について
キーワード:先天性心疾患, 無気肺, 呼吸理学療法
【はじめに,目的】先天性心疾患(以下CHD)の周術期では肺血流の急激な増加や手術侵襲により無気肺などの呼吸器合併症が多発する。当院では年間約330例のCHDの手術を行っており,術後の呼吸器合併症に対し呼吸理学療法(以下RPT)を行っている。術後無気肺に対してRPTを施行した症例を対象に,RPT前後の胸部X線写真を比較し,後方視的に効果を検討した。
【方法】2010/10~2014/9までの4年間にCHDの術後無気肺改善を目的にRPTの依頼があった88症例(男:女=55:33)を対象とした。調査項目は疾患名,基礎疾患,手術時日齢,手術日からRPT依頼までに要した日数,術後仰臥位管理日数,RPT開始時の呼吸管理方法,RPT介入日数,肺内パーカッションベンチレーター(以下IPV)の使用の有無,Deakinsらが作成した無気肺スコア(0:虚脱の完全解消,1:1局部または1肺葉の部分虚脱,2:2以上の局部または肺葉の部分的虚脱,3:1局部または1肺葉の完全な虚脱,4:2以上の局部または肺葉の完全な虚脱)を使用し,術前,RPT開始日,RPT介入翌日,RPT終了日で胸部X線写真を比較した。全例に対し吸気時に胸郭を直接拡張させる胸郭拡張法と,呼気では必要に応じて呼気介助を用いた全周期の呼吸介助を同時聴診法とともに施行した。統計的手法にはKruskal-Wallis検定を行い,有意差を認めた場合にはBonferroniの不等式の修正による多重比較を行った。なお有意水準は5%とした。
【結果】疾患名は単心室症18例,左心低形成症候群16例,大動脈弓離断および縮窄症が14例,心室中隔欠損症8例,肺動脈弁閉鎖症9例,両大血管右室起始症4例,総肺静脈還流異常症4例,Fallot四徴症および心内膜欠損症,房室中隔欠損がそれぞれ3例,その他6例であった。基礎疾患は多脾・無脾症候群10例,ダウン症7例,22q11.2欠損症3例,その他2例であった。手術時日齢は178日(0日-22歳),手術日からRPT開始までは8.4±6.4日(1-37日),術後仰臥位管理日数4±4.6日であった。挿管時より介入は37例,NPPV管理中の介入は22例,ECMO管理中2例,呼吸管理なし17例で,抜管当日から介入した症例は9名,抜管翌日からの介入が18例であった。88例中18例がIPVを使用し,うち5例がRPT開始日より使用した。無気肺スコアは0~4の順に術前(56,9,15,7,1),開始日(1,4,25,36,22),介入翌日(15,12,27,25,9),終了時(40,23,22,1,2)であった。無気肺スコアを比較すると,術前と開始日,開始日と介入翌日,介入翌日と終了時に有意差を認めた。さらに術前と終了時の無気肺スコアでは有意差は認めなかった。開始日にIPVを使用した5例中3例は翌日の無気肺スコアで改善はなく,残りの2例中1例は1から0,もう一例は3から2へ改善した。全例がRPT施行中に禁忌となる状態悪化はなく,RPTが中止となった症例は認めなかった。
【考察】当院は小児専門施設であるために重症CHDの紹介依頼が多く,特に単心室や左心低形成症候群などの単心室系の治療が必要な疾患が半数を占めていた。単心室系の疾患は姑息術や根治術などで肺血流量が増加するため無気肺が発生しやすい。さらに肺血流量が肺障害の影響を受けるため,肺障害の状態によりECMO離脱や抜管などが左右される。このためより早期からの介入が必要となり,全身状態が安定した時点で可及的速やかなRPTの開始が望まれる。無気肺スコアの変化については,依頼目的が無気肺改善であったため術前と開始日の無気肺スコアに有意差を認めたのは必然であった。RPTの効果として開始日と介入翌日に有意差を認め即効性を示した。開始日からのIPV使用例は88例中5例で,即効性の効果を認めたものは2例であり,IPVの適応は徒手的排痰法に比べ少なく,効果が高いとは言えなかった。これに比べECMO管理中などの全身状態が悪化している症例に対しても徒手療法は早期より安全に介入する方法であると考える。さらに即効性のみならず,無気肺スコアは終了時に改善を認め,術前の状態との差がなかったことは長期的な効果とも言える。しかし,RPTのみではなく呼吸管理や水分管理などの全身管理の影響も多きくチームアプローチが重要である。今後前向き研究として術後無気肺の原因検索を行い,術後無気肺の予防としてPTがどのように介入すべきか検証が必要である。
【方法】2010/10~2014/9までの4年間にCHDの術後無気肺改善を目的にRPTの依頼があった88症例(男:女=55:33)を対象とした。調査項目は疾患名,基礎疾患,手術時日齢,手術日からRPT依頼までに要した日数,術後仰臥位管理日数,RPT開始時の呼吸管理方法,RPT介入日数,肺内パーカッションベンチレーター(以下IPV)の使用の有無,Deakinsらが作成した無気肺スコア(0:虚脱の完全解消,1:1局部または1肺葉の部分虚脱,2:2以上の局部または肺葉の部分的虚脱,3:1局部または1肺葉の完全な虚脱,4:2以上の局部または肺葉の完全な虚脱)を使用し,術前,RPT開始日,RPT介入翌日,RPT終了日で胸部X線写真を比較した。全例に対し吸気時に胸郭を直接拡張させる胸郭拡張法と,呼気では必要に応じて呼気介助を用いた全周期の呼吸介助を同時聴診法とともに施行した。統計的手法にはKruskal-Wallis検定を行い,有意差を認めた場合にはBonferroniの不等式の修正による多重比較を行った。なお有意水準は5%とした。
【結果】疾患名は単心室症18例,左心低形成症候群16例,大動脈弓離断および縮窄症が14例,心室中隔欠損症8例,肺動脈弁閉鎖症9例,両大血管右室起始症4例,総肺静脈還流異常症4例,Fallot四徴症および心内膜欠損症,房室中隔欠損がそれぞれ3例,その他6例であった。基礎疾患は多脾・無脾症候群10例,ダウン症7例,22q11.2欠損症3例,その他2例であった。手術時日齢は178日(0日-22歳),手術日からRPT開始までは8.4±6.4日(1-37日),術後仰臥位管理日数4±4.6日であった。挿管時より介入は37例,NPPV管理中の介入は22例,ECMO管理中2例,呼吸管理なし17例で,抜管当日から介入した症例は9名,抜管翌日からの介入が18例であった。88例中18例がIPVを使用し,うち5例がRPT開始日より使用した。無気肺スコアは0~4の順に術前(56,9,15,7,1),開始日(1,4,25,36,22),介入翌日(15,12,27,25,9),終了時(40,23,22,1,2)であった。無気肺スコアを比較すると,術前と開始日,開始日と介入翌日,介入翌日と終了時に有意差を認めた。さらに術前と終了時の無気肺スコアでは有意差は認めなかった。開始日にIPVを使用した5例中3例は翌日の無気肺スコアで改善はなく,残りの2例中1例は1から0,もう一例は3から2へ改善した。全例がRPT施行中に禁忌となる状態悪化はなく,RPTが中止となった症例は認めなかった。
【考察】当院は小児専門施設であるために重症CHDの紹介依頼が多く,特に単心室や左心低形成症候群などの単心室系の治療が必要な疾患が半数を占めていた。単心室系の疾患は姑息術や根治術などで肺血流量が増加するため無気肺が発生しやすい。さらに肺血流量が肺障害の影響を受けるため,肺障害の状態によりECMO離脱や抜管などが左右される。このためより早期からの介入が必要となり,全身状態が安定した時点で可及的速やかなRPTの開始が望まれる。無気肺スコアの変化については,依頼目的が無気肺改善であったため術前と開始日の無気肺スコアに有意差を認めたのは必然であった。RPTの効果として開始日と介入翌日に有意差を認め即効性を示した。開始日からのIPV使用例は88例中5例で,即効性の効果を認めたものは2例であり,IPVの適応は徒手的排痰法に比べ少なく,効果が高いとは言えなかった。これに比べECMO管理中などの全身状態が悪化している症例に対しても徒手療法は早期より安全に介入する方法であると考える。さらに即効性のみならず,無気肺スコアは終了時に改善を認め,術前の状態との差がなかったことは長期的な効果とも言える。しかし,RPTのみではなく呼吸管理や水分管理などの全身管理の影響も多きくチームアプローチが重要である。今後前向き研究として術後無気肺の原因検索を行い,術後無気肺の予防としてPTがどのように介入すべきか検証が必要である。