第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

症例研究 ポスター1

神経/脳損傷1

Fri. Jun 5, 2015 11:20 AM - 12:20 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P1-A-0038] 街並認知障害を呈した症例に対するアプローチの一考察

田村正樹1,2, 渕上健1, 尾崎新平1 (1.おおくまセントラル病院おおくまリハビリテーションセンターリハビリテーション部, 2.神戸大学大学院保健学研究科リハビリテーション科学領域)

Keywords:街並認知障害, 想起, 空間表象

【目的】
街並認知障害は街並を記憶できず道に迷う症状であり,屋外活動が制限されることからQOL低下に影響を与える。しかしながら,具体的な介入方法に関する報告は少ない。今回,記銘・貯蔵・想起からなる記憶過程において特に想起が困難な症例に対し,空間表象を利用して介入を行い効果が得られたため報告する。
【症例提示】
66歳,男性。診断名は右脳梗塞(脳弓)。発症4週後に当院入院。歩行やバランス能力に著明な低下はなく,屋内歩行は自立。屋外歩行は自力での帰院が困難であった。hopeはボランティア活動を行いたいであり,退院後は新規の場所に行く可能性がある。神経心理学検査ではMMSE:27/30点,三宅式記銘力検査:有関係(4-4-6),無関係(0-0-0),リバーミード行動記憶検査:13/24点(聴覚的記憶は著明に低下,視覚的記憶と行動記憶は比較的維持)であった。
【経過と考察】
発症6週までは屋外歩行時に聴覚的記憶を用いる介入を行ったが,著明な改善を認めなかった。症例の記憶障害の特徴として,自身で想起が困難な場合も建物などのヒントを提示すると位置関係等の想起が行えたことから,記銘から貯蔵に至る過程は可能と考えられた。発症6週より視覚的記憶や行動記憶を用いて積極的に想起を促す介入を開始した。詳細は症例が記憶している建物を屋外歩行後に紙面上に文字で書き出し,自身と建物との位置関係や経路を想起させ,記載することで空間表象の再構築を促した。発症12週後より建物の位置関係を紙面上の簡易な地図にマッチングすることで,空間表象をより具体化させた。発症14週後には様々な経路の屋外歩行が自力で可能となった。本症例は脳弓の病変によりPapez回路が破綻し記憶障害を呈したと考える。残存している視覚的記憶と行動記憶から空間表象を利用して想起を繰り返したことで,街並認知が再構築されたと考える。