[P1-A-0096] 若年健常者を対象とした歩行中の体幹加速度のHarmonic ratioの再現性
キーワード:Harmonic ratio, 加速度, 再現性
【はじめに,目的】
3軸加速度計を用いた歩行評価は大がかりな機器を必要としない,実験環境に縛られない,低コストであるといった臨床応用性の高い評価方法であると思われる。体幹に装着した加速度計の加速度は身体質量中心の加速度に近似することが報告されており,その波形から歩行の時間距離因子を算出することができ,先行研究から良好な再現性が報告されている。同様に加速度波形を周波数解析して求められるHarmonic ratio(HR)は加速度波形の対称性を表す指標とされ,値が高いほど安定した歩行であるとされている。また,HRは健常者と神経疾患患者の識別や転倒予測の評価に用いることができる。しかしHRは最低1歩行周期で算出できるが,再現性の高いHRが算出できる歩行周期数は明らかとなっていない。そこで本研究の目的は,若年健常者を対象に歩行中のHRの再現性を明らかにし,どの程度の歩行周期を解析対象とするのか示すことである。
【方法】
対象は若年健常者とし,歩行に影響を与えるような神経疾患,整形疾患のあるものは除外した。被験者は動きやすい服装で裸足となり,背部第3腰椎部に3軸加速度計をベルトで装着した。加速度は歩行時の前後,左右,垂直方向をサンプリング周波数100Hzで計測した。計測した加速度はBluetoothによりデータを送信し,付属ソフトPocketIMU2(ジースポート社製)でパソコンに取り込んだ。歩行速度は光学式歩行分析装置OPTOGAIT(MICROGAIT社製)を,加速路3m,減速路3mからなる10mの直線歩行路を挟むように設置し計測した。被験者は歩行路を快適歩行速度で計3試行歩行し,その際の加速度,歩行速度を計測した。データ解析は,歩行時の加減速期を除くために歩行路中央付近の1歩行周期を解析対象とし,前後方向の加速度波形の頂点から歩行周期を特定した。離散フーリエ変換により前後,左右,垂直方向のHaromonic係数を求め,そこからHRを算出した。信頼性の検討には級内相関係数(ICC)を用い,検者内信頼性にはICC(1,k)を用いた。統計ソフトにはSPSS ver.18.0(SPSS)を用いた。
【結果】
対象者は男性16名で,年齢22.0±2.1歳,身長170.9±5.9cm,体重63.3±10.8kgであった。歩行速度は1.30±0.18m/sであった。前後,左右,垂直方向のHRの3試行の平均値はそれぞれ3.04±0.99,2.31±0.67,2.95±0.60であった。ICC(1,3)はそれぞれ0.79(95%CI;0.52-0.92),0.72(95%CI;0.35-0.89),0.72(95%CI;0.34-0.89)であった。ICC(1,1)はそれぞれ0.56(95%CI;0.26-0.80),0.47(95%CI;0.15-0.75),0.46(95%CI;0.15-0.74)であった。目標係数を0.9とし,3試行の反復測定で得られるICC(1,1)からSpearman-Brownの公式を用いて求められた予測される必要な最小反復回数は,それぞれ8歩行周期(k=7.08),11歩行周期(k=10.4),11歩行周期(k=10.5)であった。
【考察】
3試行の再現性であるICC(1.3)は全ての方向で0.7以上であり,桑原の判断基準でfairであった。しかし1試行の再現性であるICC(1.1)は全ての方向で0.6以下と判断基準でre-workとなり,低い再現性であった。よって今回の結果から再現性を得るために少なくとも3試行以上の測定値の平均が必要と考えられる。また,より再現性を高めるため判断基準がgreatである0.9となるための最小反復回数を求めた結果,11試行の測定値の平均を用いることで3方向のHRの高い再現性を得ることができることを示した。今回の計測では歩行路の距離の関係から1試行で利用した歩行周期は1歩行周期のみであった。長い歩行路では1回の歩行で数歩行周期をHRの算出に用いることが出来るが,その時の再現性については今後の検討が必要だと思われる。さらに,今回の計測では歩行速度が快適速度のみであり,身体重心の加速度は歩行速度に大きく影響を受けるため,歩行速度変化がHRに与える影響を検討する必要がある。また若年健常者だけでなく健常高齢者や転倒歴のある高齢者などを対象とした場合でも,HRの再現性を明らかにする必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
加速度計から求めたHRの再現性を明らかにすることは,今後の理学療法の簡便な歩行評価の確立の一助になると考えられる。
3軸加速度計を用いた歩行評価は大がかりな機器を必要としない,実験環境に縛られない,低コストであるといった臨床応用性の高い評価方法であると思われる。体幹に装着した加速度計の加速度は身体質量中心の加速度に近似することが報告されており,その波形から歩行の時間距離因子を算出することができ,先行研究から良好な再現性が報告されている。同様に加速度波形を周波数解析して求められるHarmonic ratio(HR)は加速度波形の対称性を表す指標とされ,値が高いほど安定した歩行であるとされている。また,HRは健常者と神経疾患患者の識別や転倒予測の評価に用いることができる。しかしHRは最低1歩行周期で算出できるが,再現性の高いHRが算出できる歩行周期数は明らかとなっていない。そこで本研究の目的は,若年健常者を対象に歩行中のHRの再現性を明らかにし,どの程度の歩行周期を解析対象とするのか示すことである。
【方法】
対象は若年健常者とし,歩行に影響を与えるような神経疾患,整形疾患のあるものは除外した。被験者は動きやすい服装で裸足となり,背部第3腰椎部に3軸加速度計をベルトで装着した。加速度は歩行時の前後,左右,垂直方向をサンプリング周波数100Hzで計測した。計測した加速度はBluetoothによりデータを送信し,付属ソフトPocketIMU2(ジースポート社製)でパソコンに取り込んだ。歩行速度は光学式歩行分析装置OPTOGAIT(MICROGAIT社製)を,加速路3m,減速路3mからなる10mの直線歩行路を挟むように設置し計測した。被験者は歩行路を快適歩行速度で計3試行歩行し,その際の加速度,歩行速度を計測した。データ解析は,歩行時の加減速期を除くために歩行路中央付近の1歩行周期を解析対象とし,前後方向の加速度波形の頂点から歩行周期を特定した。離散フーリエ変換により前後,左右,垂直方向のHaromonic係数を求め,そこからHRを算出した。信頼性の検討には級内相関係数(ICC)を用い,検者内信頼性にはICC(1,k)を用いた。統計ソフトにはSPSS ver.18.0(SPSS)を用いた。
【結果】
対象者は男性16名で,年齢22.0±2.1歳,身長170.9±5.9cm,体重63.3±10.8kgであった。歩行速度は1.30±0.18m/sであった。前後,左右,垂直方向のHRの3試行の平均値はそれぞれ3.04±0.99,2.31±0.67,2.95±0.60であった。ICC(1,3)はそれぞれ0.79(95%CI;0.52-0.92),0.72(95%CI;0.35-0.89),0.72(95%CI;0.34-0.89)であった。ICC(1,1)はそれぞれ0.56(95%CI;0.26-0.80),0.47(95%CI;0.15-0.75),0.46(95%CI;0.15-0.74)であった。目標係数を0.9とし,3試行の反復測定で得られるICC(1,1)からSpearman-Brownの公式を用いて求められた予測される必要な最小反復回数は,それぞれ8歩行周期(k=7.08),11歩行周期(k=10.4),11歩行周期(k=10.5)であった。
【考察】
3試行の再現性であるICC(1.3)は全ての方向で0.7以上であり,桑原の判断基準でfairであった。しかし1試行の再現性であるICC(1.1)は全ての方向で0.6以下と判断基準でre-workとなり,低い再現性であった。よって今回の結果から再現性を得るために少なくとも3試行以上の測定値の平均が必要と考えられる。また,より再現性を高めるため判断基準がgreatである0.9となるための最小反復回数を求めた結果,11試行の測定値の平均を用いることで3方向のHRの高い再現性を得ることができることを示した。今回の計測では歩行路の距離の関係から1試行で利用した歩行周期は1歩行周期のみであった。長い歩行路では1回の歩行で数歩行周期をHRの算出に用いることが出来るが,その時の再現性については今後の検討が必要だと思われる。さらに,今回の計測では歩行速度が快適速度のみであり,身体重心の加速度は歩行速度に大きく影響を受けるため,歩行速度変化がHRに与える影響を検討する必要がある。また若年健常者だけでなく健常高齢者や転倒歴のある高齢者などを対象とした場合でも,HRの再現性を明らかにする必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
加速度計から求めたHRの再現性を明らかにすることは,今後の理学療法の簡便な歩行評価の確立の一助になると考えられる。