[P1-A-0102] 加齢が歩行遊脚期における下肢関節間の協調性に及ぼす影響
Keywords:Decomposition Index, 協調性, 運動学的分析
【はじめに,目的】
高齢者の転倒原因に関しは様々な報告がある。近年,高齢者の転倒関連因子の一つとして,歩行時下肢の協調性の変化が報告されている。先行研究では歩行立脚期において,下肢関節間の協調パターンに加齢による変化があったと報告している(Byrne et al,2002)。一方,歩行周期における下肢関節間の協調パターンに加齢による変化は見られないとする報告もある(Matsuo et al,2008)。このことから,歩行中の下肢関節パターンに対する加齢の影響については一定の見解が得られていないといえる。下肢関節間の協調性を評価する指標の一つとしてDecomposition Index(以下,DI)がある。これは下肢の2つの関節をペアとし,一方の関節のみが角速度5°/sec未満となる時間が歩行遊脚期中に占める割合を示したものである。小脳障害者を対象とした先行研究では,健常成人に対して小脳障害者はDI値が増加することが報告されている(Earhart et al,2001)。そこで本研究はDIを評価指標として,加齢が歩行遊脚期における下肢関節間の協調性に及ぼす影響を明らかにすることを目的として行った。
【方法】
対象は健常若年成人20名(23.3±3.2歳,男性10名,女性10名)と地域在住の65歳以上の健常高齢者20名(75.1±3.8歳,男性1名,女性19名)とした。除外条件は歩行が困難な疾患を有するもの,研究内容が十分に理解できないものとした。使用機器は三次元動作解析装置(VICON NEXUS,サンプリング周波数100Hz),赤外線反射マーカー(14mm)16個とした。測定条件は,裸足で5mの歩行路を歩くこととした。歩行速度は快適速度とし,測定下肢は利き足とした。実験手順は,測定前に快適歩行速度を計測し,その後,5回の測定を行った。なお,測定中の歩行速度は事前に計測した速度の±10%とし,範囲を外れたデータは除外した。測定項目は基本情報,遊脚期時間(つま先離地(TO)~踵接地(HC)),遊脚期における関節可動範囲,TO,HC時の関節角度とした。また,下肢各関節角速度からDI(股関節―膝関節(H-K),膝関節―足関節(K-A),股関節-足関節(H-A)),下肢各関節の角速度5°/sec未満の遊脚期に占める割合を求めた。データ解析区間は歩行開始から2歩行周期後の遊脚期とした。統計解析はIBM SPSS Statistics.ver22を用い,各測定項目に対し,対応のないt検定を実施した。統計学的有意水準は5%とした。
【結果】
結果は(高齢者群vs若年者群)で示す。DIでは,H-K,H-Aにおいて高齢者群で有意に低い値を示した(H-K:4.0±3.1% vs 6.2±4.1%,H-A:5.9±4.3% vs 8.4±4.7%,p<0.05)。角速度5°/sec未満の割合では,股関節において高齢者群で有意に低い値を示した(2.7±2.7% vs 4.9±4.0%,p<0.05)。遊脚期中の関節可動範囲は,股関節では高齢者群で有意に増加し,膝関節,足関節では高齢者群で有意に減少していた(股関節:42.4±5.1°vs 38.1±5.2°,膝関節:55.8±5.3°vs 57.8±3.7°,足関節:21.0±7.4°vs 23.7±5.2°,p<0.05)。TO時の関節角度では,膝関節屈曲角度,足関節底屈角度が高齢者群で有意に減少していた(膝関節屈曲角度:31.9±5.5°vs 35.2±7.0°,足関節底屈角度:13.0±6.8°vs 15.4±7.1°,p<0.05)。HC時の股関節屈曲角度,足関節底屈角度が高齢者群で有意に増加していた(股関節屈曲角度:32.3±8.2°vs 29.3±4.2°,足関節底屈角度:2.3±3.5°vs 0.8±4.6°,p<0.05)。
【考察】
本研究の結果,加齢により下肢関節間の協調性が変化する可能性が示唆された。また,先行研究において,小脳障害者でDIが高くなることが報告されている。しかし,本研究の結果,高齢者は小脳障害者とは異なる下肢関節間の協調性の変化が存在する可能性が示唆された。DIは運動中における複数関節の自由度の減少による戦略を明らかにする特徴がある。本研究の結果,若年者は歩行遊脚期において股関節を中心とした,自由度の減少による戦略によって下肢全体を制御し,高齢者では自由度を減少させる機能的構造が変化している可能性が示唆された。この違いが加齢による下肢協調性の変化の原因である可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,加齢による歩行遊脚期における下肢関節間協調性の変化を示した。また,加齢による遊脚期中の下肢関節間の制御戦略の変化が存在する可能性を示した。このことは,加齢による歩行中下肢協調性の変化を解明し,高齢者の転倒原因の検討を行う上で一助となる。
高齢者の転倒原因に関しは様々な報告がある。近年,高齢者の転倒関連因子の一つとして,歩行時下肢の協調性の変化が報告されている。先行研究では歩行立脚期において,下肢関節間の協調パターンに加齢による変化があったと報告している(Byrne et al,2002)。一方,歩行周期における下肢関節間の協調パターンに加齢による変化は見られないとする報告もある(Matsuo et al,2008)。このことから,歩行中の下肢関節パターンに対する加齢の影響については一定の見解が得られていないといえる。下肢関節間の協調性を評価する指標の一つとしてDecomposition Index(以下,DI)がある。これは下肢の2つの関節をペアとし,一方の関節のみが角速度5°/sec未満となる時間が歩行遊脚期中に占める割合を示したものである。小脳障害者を対象とした先行研究では,健常成人に対して小脳障害者はDI値が増加することが報告されている(Earhart et al,2001)。そこで本研究はDIを評価指標として,加齢が歩行遊脚期における下肢関節間の協調性に及ぼす影響を明らかにすることを目的として行った。
【方法】
対象は健常若年成人20名(23.3±3.2歳,男性10名,女性10名)と地域在住の65歳以上の健常高齢者20名(75.1±3.8歳,男性1名,女性19名)とした。除外条件は歩行が困難な疾患を有するもの,研究内容が十分に理解できないものとした。使用機器は三次元動作解析装置(VICON NEXUS,サンプリング周波数100Hz),赤外線反射マーカー(14mm)16個とした。測定条件は,裸足で5mの歩行路を歩くこととした。歩行速度は快適速度とし,測定下肢は利き足とした。実験手順は,測定前に快適歩行速度を計測し,その後,5回の測定を行った。なお,測定中の歩行速度は事前に計測した速度の±10%とし,範囲を外れたデータは除外した。測定項目は基本情報,遊脚期時間(つま先離地(TO)~踵接地(HC)),遊脚期における関節可動範囲,TO,HC時の関節角度とした。また,下肢各関節角速度からDI(股関節―膝関節(H-K),膝関節―足関節(K-A),股関節-足関節(H-A)),下肢各関節の角速度5°/sec未満の遊脚期に占める割合を求めた。データ解析区間は歩行開始から2歩行周期後の遊脚期とした。統計解析はIBM SPSS Statistics.ver22を用い,各測定項目に対し,対応のないt検定を実施した。統計学的有意水準は5%とした。
【結果】
結果は(高齢者群vs若年者群)で示す。DIでは,H-K,H-Aにおいて高齢者群で有意に低い値を示した(H-K:4.0±3.1% vs 6.2±4.1%,H-A:5.9±4.3% vs 8.4±4.7%,p<0.05)。角速度5°/sec未満の割合では,股関節において高齢者群で有意に低い値を示した(2.7±2.7% vs 4.9±4.0%,p<0.05)。遊脚期中の関節可動範囲は,股関節では高齢者群で有意に増加し,膝関節,足関節では高齢者群で有意に減少していた(股関節:42.4±5.1°vs 38.1±5.2°,膝関節:55.8±5.3°vs 57.8±3.7°,足関節:21.0±7.4°vs 23.7±5.2°,p<0.05)。TO時の関節角度では,膝関節屈曲角度,足関節底屈角度が高齢者群で有意に減少していた(膝関節屈曲角度:31.9±5.5°vs 35.2±7.0°,足関節底屈角度:13.0±6.8°vs 15.4±7.1°,p<0.05)。HC時の股関節屈曲角度,足関節底屈角度が高齢者群で有意に増加していた(股関節屈曲角度:32.3±8.2°vs 29.3±4.2°,足関節底屈角度:2.3±3.5°vs 0.8±4.6°,p<0.05)。
【考察】
本研究の結果,加齢により下肢関節間の協調性が変化する可能性が示唆された。また,先行研究において,小脳障害者でDIが高くなることが報告されている。しかし,本研究の結果,高齢者は小脳障害者とは異なる下肢関節間の協調性の変化が存在する可能性が示唆された。DIは運動中における複数関節の自由度の減少による戦略を明らかにする特徴がある。本研究の結果,若年者は歩行遊脚期において股関節を中心とした,自由度の減少による戦略によって下肢全体を制御し,高齢者では自由度を減少させる機能的構造が変化している可能性が示唆された。この違いが加齢による下肢協調性の変化の原因である可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,加齢による歩行遊脚期における下肢関節間協調性の変化を示した。また,加齢による遊脚期中の下肢関節間の制御戦略の変化が存在する可能性を示した。このことは,加齢による歩行中下肢協調性の変化を解明し,高齢者の転倒原因の検討を行う上で一助となる。