[P1-A-0105] 高齢者の後方ステップ成否に関与する骨盤回旋角速度と重心変位量との関連性
キーワード:高齢者, ステップ反応, 運動学的分析
【はじめに】高齢者の転倒を防止する,または転倒による外傷の程度を軽減させる姿勢方略として,支持基底面を拡大して身体の安定性を得るステップ反応が重要と考える。筆者らは第48回本学術大会において,後方へのステップ反応の成否要因として,ステップ着地時に身体重心(Center of mass;COM)に対してステップ足の圧中心をより後方へ位置させることの重要性を報告した。後方への外乱負荷時にCOMを前方へ留めておくためには支持脚の股関節屈曲モーメントが関与することが明らかにされており(竹内,2013),合わせてステップ脚の後方移動時の運動学的特性を明らかにしていく必要があると思われる。本研究の目的は,高齢者の後方へのステップ反応の成否要因を骨盤回旋と股関節伸展の角速度,およびCOM変位量との関連性から検討することである。
【方法】対象は地域在住高齢者19名のうち,初回の後方への外乱負荷においてステップ着地後に1歩または複数歩のステップの出現を認めた8名とした(平均年齢67.8±3.7歳)。骨盤とステップ脚の運動およびCOMの計測には,カメラ8台で構成される3次元動作解析装置(Motion Analysis社製)を用い,反射マーカを計25ヶ所,被験者の体表に貼布し標点とした。被験者は前方2枚,後方2枚に設置された床反力計(AMTI社製)の前列に左右の足部を踏み分けて,立位姿勢を保持した。続いて,随意的に後方へ重心を移動し,寄りかかった検者の手掌を離すことで外乱を加え(Push and Release test:Horak, 2004),後方へのステップ反応を誘発した。その際,ステップ足が後列の床反力計上に接地することを確認した。データのサンプリング周波数はカメラ200Hz,床反力計1000Hzとし,AD変換器を介してパーソナルコンピュータへの取り込み時に同期した。外乱負荷後に生じるステップ足の離地時を前列の床反力値から,接地直前を後列の床反力値から同定し,片脚立位期と定義した。片脚立位期における骨盤の後方回旋角速度とステップ側の股関節伸展角速度,および側方へのCOM位置変化を標点データから算出した。複数歩のステップ(Multi Step;Multi)が出現した際の反応を測定後,後方への外乱負荷を数回繰り返し,1歩(Single Step;Single)で踏みとどまれた際のデータと比較した。統計処理は片脚立位期における骨盤の後方回旋角速度,股関節の伸展角速度および側方向(支持脚側)へのCOM位置変化について,対応のあるt検定を用いてMultiとSingle間で比較した。加えて,ステップ反応成功(Single)の要因を検討するために,MultiとSingle間で有意な差を認めた骨盤の後方回旋角速度を目的変数,COMの側方変位量を説明変数として単回帰分析を行った。
【結果】片脚立位期における骨盤の後方回旋角速度はMulti:50.8±24.7[deg/s],Single:68.5±30.0[deg/s]であり,Multiで有意に低値を示した(p<0.01)。股関節の伸展角速度はMulti:219.7±51.7[deg/s],Single:243.0±67.1[deg/s]でMulti-Single間で有意差は認めなかった(p=0.16)。COM位置変化はMulti:7.5±3.2[cm],Single:10.0±8.3[cm]でMulti-Single間で有意な差は認めなかった(p=0.33)。また,Singleにおける骨盤回旋角速度を目的変数,COM変位量を説明変数とした回帰分析の結果,有意な回帰式が得られた(y=7.0x+16.1,R2=0.59,p<0.05)。
【考察】本研究では,ステップ直後の複数歩のステップ出現と転倒リスクとの関係を明らかにしているMakiら(2004)の報告から,Multi stepをステップ「失敗(否)」,Single stepを「成功」と定義して,MultiとSingleの違いが片脚立位期における骨盤の後方回旋角速度にあることを明らかにした。ステップ脚の後方移動に関与すると考えられる股関節の伸展角速度においてはMultiとSingle間で有意な差は認めていないため,後方へのステップ成否要因としては,骨盤をより速くステップ側後方へ回旋させることが重要であることが考えられる。また,Singleにおける単回帰分析の結果,骨盤の後方回旋角速度の説明変数として,支持脚へのCOM変位量で有意な回帰式(正の傾き)を得た。このことは,片脚立位期において支持脚側へのCOM変位量を大きくすることで,ステップ足がより免荷され,結果的に骨盤の後方への回旋速度が速くなる関係性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】本研究で得た,高齢者の後方ステップ成否要因としての骨盤回旋角速度とCOM変位量との関係についての知見は,高齢者の転倒予防事業における理学療法介入において,科学的根拠に基づくプログラム作成に活用可能と考える。
【方法】対象は地域在住高齢者19名のうち,初回の後方への外乱負荷においてステップ着地後に1歩または複数歩のステップの出現を認めた8名とした(平均年齢67.8±3.7歳)。骨盤とステップ脚の運動およびCOMの計測には,カメラ8台で構成される3次元動作解析装置(Motion Analysis社製)を用い,反射マーカを計25ヶ所,被験者の体表に貼布し標点とした。被験者は前方2枚,後方2枚に設置された床反力計(AMTI社製)の前列に左右の足部を踏み分けて,立位姿勢を保持した。続いて,随意的に後方へ重心を移動し,寄りかかった検者の手掌を離すことで外乱を加え(Push and Release test:Horak, 2004),後方へのステップ反応を誘発した。その際,ステップ足が後列の床反力計上に接地することを確認した。データのサンプリング周波数はカメラ200Hz,床反力計1000Hzとし,AD変換器を介してパーソナルコンピュータへの取り込み時に同期した。外乱負荷後に生じるステップ足の離地時を前列の床反力値から,接地直前を後列の床反力値から同定し,片脚立位期と定義した。片脚立位期における骨盤の後方回旋角速度とステップ側の股関節伸展角速度,および側方へのCOM位置変化を標点データから算出した。複数歩のステップ(Multi Step;Multi)が出現した際の反応を測定後,後方への外乱負荷を数回繰り返し,1歩(Single Step;Single)で踏みとどまれた際のデータと比較した。統計処理は片脚立位期における骨盤の後方回旋角速度,股関節の伸展角速度および側方向(支持脚側)へのCOM位置変化について,対応のあるt検定を用いてMultiとSingle間で比較した。加えて,ステップ反応成功(Single)の要因を検討するために,MultiとSingle間で有意な差を認めた骨盤の後方回旋角速度を目的変数,COMの側方変位量を説明変数として単回帰分析を行った。
【結果】片脚立位期における骨盤の後方回旋角速度はMulti:50.8±24.7[deg/s],Single:68.5±30.0[deg/s]であり,Multiで有意に低値を示した(p<0.01)。股関節の伸展角速度はMulti:219.7±51.7[deg/s],Single:243.0±67.1[deg/s]でMulti-Single間で有意差は認めなかった(p=0.16)。COM位置変化はMulti:7.5±3.2[cm],Single:10.0±8.3[cm]でMulti-Single間で有意な差は認めなかった(p=0.33)。また,Singleにおける骨盤回旋角速度を目的変数,COM変位量を説明変数とした回帰分析の結果,有意な回帰式が得られた(y=7.0x+16.1,R2=0.59,p<0.05)。
【考察】本研究では,ステップ直後の複数歩のステップ出現と転倒リスクとの関係を明らかにしているMakiら(2004)の報告から,Multi stepをステップ「失敗(否)」,Single stepを「成功」と定義して,MultiとSingleの違いが片脚立位期における骨盤の後方回旋角速度にあることを明らかにした。ステップ脚の後方移動に関与すると考えられる股関節の伸展角速度においてはMultiとSingle間で有意な差は認めていないため,後方へのステップ成否要因としては,骨盤をより速くステップ側後方へ回旋させることが重要であることが考えられる。また,Singleにおける単回帰分析の結果,骨盤の後方回旋角速度の説明変数として,支持脚へのCOM変位量で有意な回帰式(正の傾き)を得た。このことは,片脚立位期において支持脚側へのCOM変位量を大きくすることで,ステップ足がより免荷され,結果的に骨盤の後方への回旋速度が速くなる関係性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】本研究で得た,高齢者の後方ステップ成否要因としての骨盤回旋角速度とCOM変位量との関係についての知見は,高齢者の転倒予防事業における理学療法介入において,科学的根拠に基づくプログラム作成に活用可能と考える。