第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター1

身体運動学2

Fri. Jun 5, 2015 11:20 AM - 12:20 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P1-A-0111] 立ち上がり動作における半側視野制限の影響

我妻真里1, 五十嵐ふみ2, 大島広実3, 高橋俊章4 (1.三友堂リハビリテーションセンター, 2.仙台北部整形外科, 3.相澤病院, 4.山形県立保健医療大学)

Keywords:半側空間無視, 視野, 立ち上がり

【はじめに,目的】
半側空間無視は,病側と反対側の刺激に反応しない,またそちらを向こうとしない現象と定義される。この現象について多くの症例報告がある。しかし,半側視野制限で行われる動作中の各体節の動きに関する報告は見当たらない。また半側の視覚と視野を遮断した場合の動作を比較検討したものや,非無視側に頸部を回旋固定した時の立ち上がり動作を報告したものは見当たらない。そこで本研究では,半側の視覚及び視野制限下での立ち上がり動作における関節運動角,筋活動および床反力を明らかにし,半側空間無視患者の介入方法の基礎資料を得ることを目的とした。
【方法】
対象は整形外科的及び神経学的疾患を有さない健常成人12名(男性6名,女性6名,年齢21.3±1.0歳,身長163.4±9.3 cm,体重58.0±8.1 kg)であった。課題は,左半側の視覚及び視野を制限した異なる4条件での立ち上がり動作とした。条件は,①視覚及び視野の制限がない状態,②視覚遮断,③視覚遮断と視野を制限した状態,④視覚遮断と視覚制限下で,頸部を右回旋固定した状態,の4条件とした。視覚は黒眼帯を左眼に装着し遮断し,視野は顔の正中に厚紙を貼付し制限した。②と③では頸部の回旋は自由とし,④のみ20°前方に目標物を置き,その方向を注視するよう指示した。関節運動角及び質量中心(COM)の移動を,三次元動作解析装置(VMS社製VICON-MX)にて赤外線マーカーをPlug-in-Gaitモデルに基づき貼付し,サンプリング周波数50Hzで計測した。筋活動は表面筋電計(DELSYS社製TRIGNO WIRERESS),表面電極(DELSYS社製Trigno wireless sensor)を用い,被験筋は左右の大腿直筋,大殿筋,脊柱起立筋としてサンプリング周波数1kHzで記録した。また動作中の左右下肢床反力を,床反力計(Kistler社製Type9207A)を用い,サンプリング周波数1kHzで記録した。関節運動角は動作開始からの最大運動角を求めた。また,離殿時の垂直方向の床反力を下肢荷重量とし,左右の和を100%として条件ごとに左右の偏りを施行数で表した。統計処理は,4条件間の各パラメーターの比較に反復測定分散分析及びTukey法を,同条件間のパラメーターの比較には対応のあるt検定を,荷重量の左右の偏りの比較にはχ2検定を用いた。有意水準はいずれも5%に設定した。
【結果】
前額面上では,頸部回旋固定条件で他の3条件よりも頸部と下部体幹が有意に右に側屈し(p<0.05),上部体幹は有意に左側屈(p<0.01),骨盤は有意に右に側方傾斜した(p<0.05)。水平面では,頸部回旋固定条件で他の3条件に比べて下部体幹と骨盤が有意に右に回旋した(p<0.05)。矢状面では頸部,上部体幹,下部体幹,骨盤の運動角に有意な差はなかった。COM移動距離は,頸部回旋固定条件で他の3条件よりも有意に右へ移動した(p<0.01)。荷重量は,頸部回旋固定条件で起立時の右下肢荷重量が54.2±4.3%と,左に比べ有意に偏りがあった(p<0.01)。大腿直筋,大殿筋,脊柱起立筋の筋活動の左右差に条件間で有意な差はなかった。
【考察】
半側視覚遮断や半側視野制限の状態であっても,頸部を制限側へ回旋させることが可能であれば,立ち上がり動作は制限のない状態とほとんど変わらない。完全な半側視野制限では,健常者においても体幹の回旋や荷重量の偏りなど,非制限側を優位に使った立ち上がりを行うことが明らかになった。このことから,半側視野制限を呈する片麻痺患者は,非麻痺側優位の立ち上がりに加え,半側の視野が制限されることによる非制限側優位の立ち上がりが生じることになり,非麻痺側優位の動作を助長することが考えられた。そこで,半側視野制限がある場合でも,頸部を制限側へ回旋させることでより左右対称的な立ち上がりができることが考えられる。運動学的視点から頸部を制限側へ回旋し体幹を正中へ向ける立ち上がり練習を行うことで荷重が左右対称となりやすくなり,非麻痺側への荷重の偏りを軽減させ,過剰努力を減弱させることができると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
健常者を対象とした本研究で,完全な半側の視野制限を行った状態では,非制限側をより使った特徴的な立ち上がりがみられた。しかし,視野制限を頸部の制限側回旋で代償することで,より左右対称的な立ち上がりを行うことが確認された。本研究により得られた運動学的視点を用いて,半側空間無視症例の無視側の認知を高めるプログラムの開発に寄与すると考えられる。