第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター1

身体運動学3

Fri. Jun 5, 2015 11:20 AM - 12:20 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P1-A-0114] リズム刺激によるペーシングと指タッピングの同調がその後の運動リズムに及ぼす影響

2秒間隔の運動による検討

伊藤正憲1, 高橋優基1, 藤原聡1, 嘉戸直樹1, 鈴木俊明2 (1.神戸リハビリテーション福祉専門学校理学療法学科, 2.関西医療大学大学院保健医療学研究科)

Keywords:聴覚刺激, タッピング, リズム

【はじめに】我々は先行研究において,リズム刺激によるペーシングと指タッピングの同調が,その後に継続する運動のリズムに及ぼす影響を1000ms間隔の運動を用いて検討した。リズム刺激によるペーシングに対して,同期タッピングまたは裏打ちタッピングのどちらでリズムをとってもオートマチックな周期運動がなされ,ペーシングがなくなった後のリズミカルな運動が容易となり,運動リズムの正確性が向上することを報告した。本研究では2000ms間隔の運動について同様の検討をおこない,リズム刺激によるペーシングがその後に継続する運動のリズムに及ぼす影響を考察した。また,先行研究で検討した1000ms間隔の自己ペース運動の能力と本研究の2000ms間隔の運動の関連についても検討した。
【方法】対象は右ききの健常者18名(平均年齢23.9歳)とした。被験者は3つの課題を実施した。課題1は自己ペースタッピングであり,外的刺激がない状況で2000ms間隔の15回の連続的なタッピングをおこなった。課題2は同期タッピングの継続パラダイムであり,15回の周期的な聴覚刺激に同期してタッピングをおこない(ペーシング相),その後に聴覚刺激がない状況で同じペースで15回のタッピングを継続した(継続相)。課題3は裏打ちタッピングの継続パラダイムであり,15回の周期的な聴覚刺激のそれぞれの中間時点に同期してタッピングをおこない(ペーシング相),その後に聴覚刺激がない状況で同じペースで15回のタッピングを継続した(継続相)。課題2,3で用いた聴覚刺激は,刺激強度65dB,刺激周波数750Hz,持続時間25ms,2つの連続する刺激の開始時点の時間間隔は2000msとした。聴覚刺激の入力はViking Quest(Nicolet),聴覚刺激とタッピングの記録はVitalRecorder2(KISSEICOMTEC)を使用した。分析するパラメータは,連続するタッピングの開始時点の時間間隔(ITI:inter-tap interval)の平均値および変動係数とした。課題2と3のペーシング相の比較には対応のあるt検定を用いた。課題1と課題2,3の継続相の比較には反復測定一元配置分散分析とBonferroni法による多重比較を用いた。ITIの時系列データの分析には自己相関係数を用いた。有意水準は5%に設定し,統計学的な有意差を判定した。
【結果】課題1はITIの平均値が1847.9±66.3ms,変動係数が3.6±1.1%であった。ペーシング相のITIの平均値は課題2が1999.2±10.9ms,課題3が1994.1±15.6ms,変動係数は課題2が3.8±1.4%,課題3が4.2±2.5%であり,課題2と3に有意差は認めなかった。継続相のITIの平均値は課題2が1982.5±187.2ms,課題3が2077.6±325.5ms,変動係数は課題2が4.1±1.9%,課題3が4.9±1.5%であった。課題1と課題2,3の継続相の比較では,課題3の変動係数が課題1より有意に大きかった。時系列データの分析の結果,課題2の継続相では18名中6名,課題3の継続相では18名中9名のITI系列が目標とする2000msからドリフトしていることが判明した。課題3の付加的な検討として,ITI系列がドリフトする9名とドリフトしない9名に群分けし,2群間で継続相の変動係数を比較した。その結果,ドリフトする群の変動係数はドリフトしない群より有意に大きかった。また,本研究と同被験者で検討した1000ms間隔を用いた先行研究では,自己ペースタッピングのITIの平均値が1137.0±202.9msであった。先行研究で検討した1000msの自己ペースタッピングのITIの平均値と本研究の課題3の継続相のITIの平均値は正の相関を示していた。
【考察】運動に対する注意を必要とせず自動化された周期運動は,1800msより短いインターバルで可能になるとされている。2000msはこのインターバルに近い間隔であり,個人によって運動の難度が異なっていた可能性が考えられ,継続相での2000msからのドリフトの有無をきたしたと推察される。同期タッピングはまさに予測に基づく運動であるが,裏打ちタッピングは反応的要素を含み,本研究では聴覚刺激とタッピングを1000ms間隔で繰り返すことでもリズムをとることが成し得ると推測される。1000msの自己ペースタッピングとの相関が示されたことからも,1000msの間隔の見積もり能力が裏打ちタッピングの継続相の運動に影響していた可能性も考えられた。
【理学療法学研究としての意義】裏打ちによるリズム運動は,刺激と運動の誤差を気にすることなく運動を遂行できる。一方で2秒間隔のリズム刺激では,その後の運動の変動が大きくなってしまうかもしれない。この変動には1秒間隔の見積もり能力が関与している可能性もあり,今後のさらなる検討が必要である。