[P1-A-0123] 脊柱の分節的運動による
脊椎可動域改善効果の検討
Keywords:脊柱, ローカル筋, グローバル筋
【はじめに,目的】
ヒトの体幹筋は,動的活動時における主動筋としての作用のみならず,常に抗重力位に晒される脊柱の安定化筋としての作用も有する。体幹筋は,機能や構造などの違いから,ローカル筋とグローバル筋とに大別される。ローカル筋は個々の腰椎に分節的に付着し,分節的な動きの制御において重要な役割を持つ体幹深層筋である。一方,グローバル筋は原則的に腰椎をまたいで付着し,大きなトルクを発生させる体幹浅層筋である。
通常ローカル筋とグローバル筋は互いに協調し,脊柱の安定性を維持・調節していると報告されている。一方,高齢者や腰痛患者に多く認められるグローバル筋の過活動は,ローカル筋が担う脊柱の分節的安定性を阻害する因子となりうる。しかしながら,随意的に分節的な脊柱の運動を得ることは難しく,ローカル筋とグローバル筋の協調性を再教育させるための有効な運動療法の報告はほとんどない。我々は,ピラティスの体幹のコアマッスルの活動を刺激するとされる「ショルダーブリッジ」というエクササイズに着目した。ショルダーブリッジによってローカル筋の活動が賦活されれば,不要な代償活動から解放されたグローバル筋のスティフネスが抑制され,結果的に脊柱の可動性が高まる可能性がある。
本研究の目的は,ショルダーブリッジが,グローバル筋のスティフネスに与える影響を明らかにすることである。
【方法】
対象:腰部および下肢に整形外科的既往のない大学生17名を対象とした。
運動課題:通常のブリッジ(以下,N-Bridge)と脊柱を分節的に動かすショルダーブリッジ(以下,S-Bridge)を運動課題とした。各運動課題の開始肢位は,セミファーラー肢位とした(膝屈曲120°)。N-Bridgeは,脊柱を直線状に保持した状態で臀部を挙上・下制するものとし,挙上・下制は各々1秒で行わせた。S-Bridgeは,脊柱を分節的に動かすことを意識させたブリッジ動作とし,挙上・下制ともに各8秒間かけて行わせた。挙上は,先ず骨盤を後傾させ,下部腰椎から上部頚椎に向けて椎体を順に床からはがしていくようにして臀部を挙上させた。下制は,逆に上部頚椎から下部腰椎に向けて椎体を順に床に降ろしていき,最後に骨盤をニュートラル肢位にさせる。両課題は挙上・下制を1セットとし,8セット行わせた。
評価課題:脊柱柔軟性の評価は,指床間距離(Finger Floor Distance:FFD),胸椎および腰椎の前屈可動域とし,胸椎および腰椎の前屈可動域の計測にはスパイナルマウス(Index Co, Ltd)を用いた。測定は直立位,前屈位にて行った。胸椎後弯角および腰椎前弯角について,それぞれ前屈位と直立位における角度の差【前屈-直立(°)】を求め,胸椎および腰椎の前屈可動域の指標とした。
統計処理:N-Bridge群とS-Bridge群との比較にはMann-Whitney U testを用いた。統計処理にはStatView 5.0を用い,検定の有意水準は5%とした。
【結果】
FFDは,運動課題実施前でN-Bridge群3.8±7.2cm(Mean±SD),S-Bridge群1.0±5.4cm(N.S.:no significant),運動課題実施後でN-Bridge群4.5±7.5cm,S-Bridge群3.0±6.4cmとなった(N.S.)。胸椎前屈可動域は,運動課題実施前にN-Bridge群39.1±23.9°,S-Bridge群30.0±25.3°で,運動課題実施後にN-Bridge群41.8±18.9°,S-Bridge群16.8±8.9°となりS-Bridge群で有意に大きい値を示した(P=0.0033)。腰椎前屈可動域は,運動課題実施前にN-Bridge群69.4±12.9°,S-Bridge群66.6±13.4°となった(N.S.)。運動課題実施後にN-Bridge群69.3±13.5°,S-Bridge群69.3±14.2°となった(N.S.)。
【考察】
本結果から,脊柱を分節的にコントロールするS-Bridgeを行うことにより胸椎前屈可動域が増加することが明らかとなった。FFDにおいて両群間に差が見られなかったのは,FFDが胸腰椎の前屈可動性の因子に加えてハムストリングスの伸張性因子を含んでいることによると考える。胸椎前屈可動域に差はあったが腰椎前屈可動域に差がなかったのは,S-Bridgeにおいて腰椎よりも胸椎の動きが大きいことによると考える。
随意的に脊柱の分節的コントロールを最大限に要求される運動を行うことで体幹のグローバル筋とローカル筋の協調的制御能が賦活されグローバル筋の過緊張が修正されたのではないかと考える。
【理学療法学研究としての意義】
脊柱の分節的運動による筋緊張調整効果が明らかとなれば腰痛や頸部捻挫における筋緊張亢進に対する新たなアプローチ方法の開発につながる。
ヒトの体幹筋は,動的活動時における主動筋としての作用のみならず,常に抗重力位に晒される脊柱の安定化筋としての作用も有する。体幹筋は,機能や構造などの違いから,ローカル筋とグローバル筋とに大別される。ローカル筋は個々の腰椎に分節的に付着し,分節的な動きの制御において重要な役割を持つ体幹深層筋である。一方,グローバル筋は原則的に腰椎をまたいで付着し,大きなトルクを発生させる体幹浅層筋である。
通常ローカル筋とグローバル筋は互いに協調し,脊柱の安定性を維持・調節していると報告されている。一方,高齢者や腰痛患者に多く認められるグローバル筋の過活動は,ローカル筋が担う脊柱の分節的安定性を阻害する因子となりうる。しかしながら,随意的に分節的な脊柱の運動を得ることは難しく,ローカル筋とグローバル筋の協調性を再教育させるための有効な運動療法の報告はほとんどない。我々は,ピラティスの体幹のコアマッスルの活動を刺激するとされる「ショルダーブリッジ」というエクササイズに着目した。ショルダーブリッジによってローカル筋の活動が賦活されれば,不要な代償活動から解放されたグローバル筋のスティフネスが抑制され,結果的に脊柱の可動性が高まる可能性がある。
本研究の目的は,ショルダーブリッジが,グローバル筋のスティフネスに与える影響を明らかにすることである。
【方法】
対象:腰部および下肢に整形外科的既往のない大学生17名を対象とした。
運動課題:通常のブリッジ(以下,N-Bridge)と脊柱を分節的に動かすショルダーブリッジ(以下,S-Bridge)を運動課題とした。各運動課題の開始肢位は,セミファーラー肢位とした(膝屈曲120°)。N-Bridgeは,脊柱を直線状に保持した状態で臀部を挙上・下制するものとし,挙上・下制は各々1秒で行わせた。S-Bridgeは,脊柱を分節的に動かすことを意識させたブリッジ動作とし,挙上・下制ともに各8秒間かけて行わせた。挙上は,先ず骨盤を後傾させ,下部腰椎から上部頚椎に向けて椎体を順に床からはがしていくようにして臀部を挙上させた。下制は,逆に上部頚椎から下部腰椎に向けて椎体を順に床に降ろしていき,最後に骨盤をニュートラル肢位にさせる。両課題は挙上・下制を1セットとし,8セット行わせた。
評価課題:脊柱柔軟性の評価は,指床間距離(Finger Floor Distance:FFD),胸椎および腰椎の前屈可動域とし,胸椎および腰椎の前屈可動域の計測にはスパイナルマウス(Index Co, Ltd)を用いた。測定は直立位,前屈位にて行った。胸椎後弯角および腰椎前弯角について,それぞれ前屈位と直立位における角度の差【前屈-直立(°)】を求め,胸椎および腰椎の前屈可動域の指標とした。
統計処理:N-Bridge群とS-Bridge群との比較にはMann-Whitney U testを用いた。統計処理にはStatView 5.0を用い,検定の有意水準は5%とした。
【結果】
FFDは,運動課題実施前でN-Bridge群3.8±7.2cm(Mean±SD),S-Bridge群1.0±5.4cm(N.S.:no significant),運動課題実施後でN-Bridge群4.5±7.5cm,S-Bridge群3.0±6.4cmとなった(N.S.)。胸椎前屈可動域は,運動課題実施前にN-Bridge群39.1±23.9°,S-Bridge群30.0±25.3°で,運動課題実施後にN-Bridge群41.8±18.9°,S-Bridge群16.8±8.9°となりS-Bridge群で有意に大きい値を示した(P=0.0033)。腰椎前屈可動域は,運動課題実施前にN-Bridge群69.4±12.9°,S-Bridge群66.6±13.4°となった(N.S.)。運動課題実施後にN-Bridge群69.3±13.5°,S-Bridge群69.3±14.2°となった(N.S.)。
【考察】
本結果から,脊柱を分節的にコントロールするS-Bridgeを行うことにより胸椎前屈可動域が増加することが明らかとなった。FFDにおいて両群間に差が見られなかったのは,FFDが胸腰椎の前屈可動性の因子に加えてハムストリングスの伸張性因子を含んでいることによると考える。胸椎前屈可動域に差はあったが腰椎前屈可動域に差がなかったのは,S-Bridgeにおいて腰椎よりも胸椎の動きが大きいことによると考える。
随意的に脊柱の分節的コントロールを最大限に要求される運動を行うことで体幹のグローバル筋とローカル筋の協調的制御能が賦活されグローバル筋の過緊張が修正されたのではないかと考える。
【理学療法学研究としての意義】
脊柱の分節的運動による筋緊張調整効果が明らかとなれば腰痛や頸部捻挫における筋緊張亢進に対する新たなアプローチ方法の開発につながる。