[P1-A-0126] 頸部回旋可動域と股関節可動域の関係
―非対称性に着目して―
Keywords:頸部回旋可動域, 股関節可動域, 非対称性
【目的】
臨床において,一側の股関節に可動域制限がある患者には頸部にも一側性の回旋制限を認めることを経験する。その特性には一貫性を認め,我々は先天性股関節脱臼や発育性股関節形成不全(developmental dysplasia of hip joint;以下,DDH)の特徴との共通点に着目している。DDHでは,同側の筋性斜頸が共通発生素因として挙げられると言われており,さらに,DDHの先天性素因になりうる可能性として,新生児のある非対称姿勢が報告されている。その非対称姿勢とは,一側の股関節内転拘縮(開排制限)と反対側への強い向き癖である。この特徴的な非対称姿勢は母親の子宮内での姿勢矯正によって引き起こされるとされているが,成人においても向き癖,すなわち,頸部の非対称な動きは股関節可動域に影響しうるのではないかと考えた。先行研究では,矢状面上での脊柱と股関節の関係についての報告はなされているが,頸部回旋可動域と股関節可動域の関係についての報告は少ない。そこで,本研究は頸部回旋可動域と股関節可動域の関係を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は,健常成人男性5名,女性5名(年齢24.4±1.7歳,身長166.3±9.3cm,体重59.8±11.4kg)の計10名であった。日本整形外科学会,日本リハビリテーション医学会の「関節可動域表示ならびに測定法」を参考に,ベッド上にて,背臥位で頸部回旋,股関節屈曲・内外転,腹臥位で股関節伸展・内外旋の関節可動域を測定した。頭頂,両肩峰,両上前腸骨棘,両大腿骨大転子,両膝関節裂隙,両脛骨粗面,両外内果の計15点にマーキングをし,デジタルカメラにて静止画を撮影した。得られた静止画からフリーソフトimage-Jを用いて各関節角度を測定した。測定者は,正確性を期すため熟練者とし,他動的関節運動実施者と写真撮影者の2名とした。頸部回旋優位側(以下,優位側)と頸部回旋非優位側(以下,非優位側)の股関節可動域の群間比較に,対応のあるt検定を用いて分析検討した。統計処理はSPSS ver.21.0J for Windowsを使用し,有意水準は危険率1%とした。
【結果】
優位側,非優位側の群間比較において,股関節可動域の全ての角度で有意差を認めた(p<0.01)。優位側の股関節可動域は,屈曲112.9±9.6°,伸展9.7±4.0°,外転35.1±7.9°,内転8.2±2.7°,外旋31.5±9.0°,内旋34.6±13.7°であり,非優位側は,屈曲108.6±8.8°,伸展11.3±3.3°,外転30.8±9.1°,内転9.3±2.6°,外旋25.7±9.0°,内旋36.8±14.9°であった。
【考察】
本研究によって,優位側の股関節は伸展・内転・内旋の可動域は小さく,非優位側の股関節は屈曲・外転・外旋の可動域は小さくなることが明らかとなった。これは,新生児にみられる一側の股関節内転拘縮と反対側への強い向き癖という非対称姿勢と同様の特徴が,成人においては非優位側の股関節外転可動域制限という形でみられることを示している。さらに,頸部回旋可動域と股関節可動域の関係において,股関節は,屈曲・外転・外旋,伸展・内転・内旋の組合せで可動域制限となることも明らかとなった。優位側への頸部回旋に従い,上部胸郭は対側回旋,下部胸郭は同側回旋,腰椎は対側回旋,骨盤は同側回旋となることが触診により確認された。それに伴い,優位側臼蓋は後内方へ向き股関節は屈曲・外転・外旋位へ,非優位側臼蓋は前外方へ向き股関節は伸展・内転・内旋位へ変位すると考えられる。すなわち,頸部回旋可動域と股関節可動域の関係は,臼蓋の向きの変位による股関節可動域への反映によってもたらされると考える。また,頸部回旋は上半身質量中心位置の対側移動を伴うと可動域が優位に増加することが報告されている。非優位側への上半身質量中心位置の移動は脊柱の優位側への側屈を伴うため,優位側股関節は屈曲外転外旋位へ,非優位側股関節は伸展内転内旋位へ変位したとも考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,頸部回旋可動域と股関節可動域の関係が認められた。股関節に可動域制限を有する症例に対して,頸部からの間接的評価・治療展開の応用の可能性を示唆できると考える。
臨床において,一側の股関節に可動域制限がある患者には頸部にも一側性の回旋制限を認めることを経験する。その特性には一貫性を認め,我々は先天性股関節脱臼や発育性股関節形成不全(developmental dysplasia of hip joint;以下,DDH)の特徴との共通点に着目している。DDHでは,同側の筋性斜頸が共通発生素因として挙げられると言われており,さらに,DDHの先天性素因になりうる可能性として,新生児のある非対称姿勢が報告されている。その非対称姿勢とは,一側の股関節内転拘縮(開排制限)と反対側への強い向き癖である。この特徴的な非対称姿勢は母親の子宮内での姿勢矯正によって引き起こされるとされているが,成人においても向き癖,すなわち,頸部の非対称な動きは股関節可動域に影響しうるのではないかと考えた。先行研究では,矢状面上での脊柱と股関節の関係についての報告はなされているが,頸部回旋可動域と股関節可動域の関係についての報告は少ない。そこで,本研究は頸部回旋可動域と股関節可動域の関係を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は,健常成人男性5名,女性5名(年齢24.4±1.7歳,身長166.3±9.3cm,体重59.8±11.4kg)の計10名であった。日本整形外科学会,日本リハビリテーション医学会の「関節可動域表示ならびに測定法」を参考に,ベッド上にて,背臥位で頸部回旋,股関節屈曲・内外転,腹臥位で股関節伸展・内外旋の関節可動域を測定した。頭頂,両肩峰,両上前腸骨棘,両大腿骨大転子,両膝関節裂隙,両脛骨粗面,両外内果の計15点にマーキングをし,デジタルカメラにて静止画を撮影した。得られた静止画からフリーソフトimage-Jを用いて各関節角度を測定した。測定者は,正確性を期すため熟練者とし,他動的関節運動実施者と写真撮影者の2名とした。頸部回旋優位側(以下,優位側)と頸部回旋非優位側(以下,非優位側)の股関節可動域の群間比較に,対応のあるt検定を用いて分析検討した。統計処理はSPSS ver.21.0J for Windowsを使用し,有意水準は危険率1%とした。
【結果】
優位側,非優位側の群間比較において,股関節可動域の全ての角度で有意差を認めた(p<0.01)。優位側の股関節可動域は,屈曲112.9±9.6°,伸展9.7±4.0°,外転35.1±7.9°,内転8.2±2.7°,外旋31.5±9.0°,内旋34.6±13.7°であり,非優位側は,屈曲108.6±8.8°,伸展11.3±3.3°,外転30.8±9.1°,内転9.3±2.6°,外旋25.7±9.0°,内旋36.8±14.9°であった。
【考察】
本研究によって,優位側の股関節は伸展・内転・内旋の可動域は小さく,非優位側の股関節は屈曲・外転・外旋の可動域は小さくなることが明らかとなった。これは,新生児にみられる一側の股関節内転拘縮と反対側への強い向き癖という非対称姿勢と同様の特徴が,成人においては非優位側の股関節外転可動域制限という形でみられることを示している。さらに,頸部回旋可動域と股関節可動域の関係において,股関節は,屈曲・外転・外旋,伸展・内転・内旋の組合せで可動域制限となることも明らかとなった。優位側への頸部回旋に従い,上部胸郭は対側回旋,下部胸郭は同側回旋,腰椎は対側回旋,骨盤は同側回旋となることが触診により確認された。それに伴い,優位側臼蓋は後内方へ向き股関節は屈曲・外転・外旋位へ,非優位側臼蓋は前外方へ向き股関節は伸展・内転・内旋位へ変位すると考えられる。すなわち,頸部回旋可動域と股関節可動域の関係は,臼蓋の向きの変位による股関節可動域への反映によってもたらされると考える。また,頸部回旋は上半身質量中心位置の対側移動を伴うと可動域が優位に増加することが報告されている。非優位側への上半身質量中心位置の移動は脊柱の優位側への側屈を伴うため,優位側股関節は屈曲外転外旋位へ,非優位側股関節は伸展内転内旋位へ変位したとも考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,頸部回旋可動域と股関節可動域の関係が認められた。股関節に可動域制限を有する症例に対して,頸部からの間接的評価・治療展開の応用の可能性を示唆できると考える。