[P1-A-0129] 片斜面の方向がT字杖静的立位バランスに与える影響
キーワード:片斜面, T字杖, 重心動揺
【はじめに,目的】
一般的な道路は水平面ではなく,道路勾配による高低差(以下,片斜面)がついている。こうした片斜面のなかには障害者の屋外移動動作を阻害しているものが存在する。T字杖は健常高齢者から要介護高齢者まで幅広く用いられる歩行補助具であり,主として支持基底面を健側に広げることで安定性に寄与する。しかし,杖を処方されても,その杖の役割が発揮される環境が整っているかが問題となり,片斜面は杖を使うものにとってはかなりの障害になる。そこで本研究では片斜面上でのT字杖静止立位姿勢における重心動揺を測定し,杖をつく方向と安定性の関係について検討することを目的とした。
【方法】
整形外科的,神経学的疾患を有していない健常大学生20名(男女各10名,平均年齢201±1.0歳,平均身長165.2±7.91cm,平均体重56.4±8.21kg)を対象とした。対象者の利き手,利き足は全員右であった。平地と片斜面での静止立位姿勢での重心動揺を測定した。T字杖はグリップを大転子の高さに合わせ,常に左手で把持して使用した。重心動揺測定にはアニマ社製可搬型フォースプレートMG-100(取り込み周期:50msec,取り込み時間:60sec)を用いた。フォースプレートを歩行路に設置し,片斜面は歩行路を10°傾けることで作成した。片斜面の条件は山側に杖をつく場合(以下,山側)と谷側に杖をつく場合(以下,谷側)とし,測定のたびに傾斜の向きを切り替えた。各条件の順番はランダムとし,平地・山側・谷側の3条件でそれぞれ1回ずつ行った。重心動揺の測定値は前方と右側を+,後方と左側を-とした。したがって山側の場合は+が谷側,-が山側となり,谷側の場合は+が山側,-が谷側となる。解析パラメータは総軌跡長(cm),矩形面積(cm2),外周面積(cm2),左右方向動揺平均中心変位(cm),前後方向動揺平均中心変位(cm),左右方向動揺中心変位(cm),前後方向動揺中心変位(cm)とした。各パラメータを3条件間で比較するために1元配置の分散分析を行い,多重比較検定にはTukeyのHSD,Games-Howellの方法を用いた。有意水準は5%未満とした。
【結果】
外周面積は平地と比較して山側・谷側が有意に高値を示した(2.48±0.87 vs 3.40±1.89 vs 3.59±1.42,p<0.05)。左右方向動揺平均中心変位は山側と比較して谷側が有意に低値を示した(-0.14±0.76 vs -1.06±1.15,p<0.05)。左右方向動揺中心変位は平地と比較して谷側が有意に低値を示した(-0.66±0.82 vs -1.41±1.12,p<0.05)。また,山側と比較して谷側が有意に低値を示した(-0.16±0.82 vs -1.41±1.12,p<0.05)。他の解析パラメータでは有意差は認められなかった。
【考察】
左右方向動揺平均中心変位の結果より,谷側に比較して山側は動揺が少ない。また,左右方向動揺中心変位の結果より山側では谷側と比較して重心の左方向への変位が小さい。このとき山側と谷側はともに左側に変位しており,それぞれ山方向,谷方向に左右方向動揺中心が変位していることになる。以上から,杖を片斜面山側についた場合,谷側についた場合と比較して動揺が少なくなり,重心の変位も少なく静的立位バランスの改善に寄与すると考えられる。一方,谷側は山側と比較して動揺と重心の変位ともに大きいということになる。したがって杖を片斜面谷側についた場合は静的立位バランスの改善に寄与しないと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
屋外歩行のための杖の処方や歩行指導,環境整備の一助となる。
一般的な道路は水平面ではなく,道路勾配による高低差(以下,片斜面)がついている。こうした片斜面のなかには障害者の屋外移動動作を阻害しているものが存在する。T字杖は健常高齢者から要介護高齢者まで幅広く用いられる歩行補助具であり,主として支持基底面を健側に広げることで安定性に寄与する。しかし,杖を処方されても,その杖の役割が発揮される環境が整っているかが問題となり,片斜面は杖を使うものにとってはかなりの障害になる。そこで本研究では片斜面上でのT字杖静止立位姿勢における重心動揺を測定し,杖をつく方向と安定性の関係について検討することを目的とした。
【方法】
整形外科的,神経学的疾患を有していない健常大学生20名(男女各10名,平均年齢201±1.0歳,平均身長165.2±7.91cm,平均体重56.4±8.21kg)を対象とした。対象者の利き手,利き足は全員右であった。平地と片斜面での静止立位姿勢での重心動揺を測定した。T字杖はグリップを大転子の高さに合わせ,常に左手で把持して使用した。重心動揺測定にはアニマ社製可搬型フォースプレートMG-100(取り込み周期:50msec,取り込み時間:60sec)を用いた。フォースプレートを歩行路に設置し,片斜面は歩行路を10°傾けることで作成した。片斜面の条件は山側に杖をつく場合(以下,山側)と谷側に杖をつく場合(以下,谷側)とし,測定のたびに傾斜の向きを切り替えた。各条件の順番はランダムとし,平地・山側・谷側の3条件でそれぞれ1回ずつ行った。重心動揺の測定値は前方と右側を+,後方と左側を-とした。したがって山側の場合は+が谷側,-が山側となり,谷側の場合は+が山側,-が谷側となる。解析パラメータは総軌跡長(cm),矩形面積(cm2),外周面積(cm2),左右方向動揺平均中心変位(cm),前後方向動揺平均中心変位(cm),左右方向動揺中心変位(cm),前後方向動揺中心変位(cm)とした。各パラメータを3条件間で比較するために1元配置の分散分析を行い,多重比較検定にはTukeyのHSD,Games-Howellの方法を用いた。有意水準は5%未満とした。
【結果】
外周面積は平地と比較して山側・谷側が有意に高値を示した(2.48±0.87 vs 3.40±1.89 vs 3.59±1.42,p<0.05)。左右方向動揺平均中心変位は山側と比較して谷側が有意に低値を示した(-0.14±0.76 vs -1.06±1.15,p<0.05)。左右方向動揺中心変位は平地と比較して谷側が有意に低値を示した(-0.66±0.82 vs -1.41±1.12,p<0.05)。また,山側と比較して谷側が有意に低値を示した(-0.16±0.82 vs -1.41±1.12,p<0.05)。他の解析パラメータでは有意差は認められなかった。
【考察】
左右方向動揺平均中心変位の結果より,谷側に比較して山側は動揺が少ない。また,左右方向動揺中心変位の結果より山側では谷側と比較して重心の左方向への変位が小さい。このとき山側と谷側はともに左側に変位しており,それぞれ山方向,谷方向に左右方向動揺中心が変位していることになる。以上から,杖を片斜面山側についた場合,谷側についた場合と比較して動揺が少なくなり,重心の変位も少なく静的立位バランスの改善に寄与すると考えられる。一方,谷側は山側と比較して動揺と重心の変位ともに大きいということになる。したがって杖を片斜面谷側についた場合は静的立位バランスの改善に寄与しないと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
屋外歩行のための杖の処方や歩行指導,環境整備の一助となる。