[P1-A-0138] 健常成人における映像傾斜と体外離脱体験(Out-of-body experience)付与が姿勢反応に及ぼす影響
キーワード:映像傾斜, 体外離脱体験, 重心動揺
【はじめに,目的】主観的視覚垂直(Subjective visual vertical;以下SVV)は視覚的に認知される垂直方向を指し,垂直認知能力は姿勢制御において重要な役割を果たす。先行研究では半側空間無視症例の頭部右傾斜により偏倚したSVVが正中に近づいたと報告している(Funk,2010)。一方で近年,バーチャルリアリティを実現するツールとしてヘッドマウントディスプレイ(以下HMD)が市販され,HMDを利用して映像を傾斜させることができる。またディスプレイ上に対象者の後ろ姿を映すことで,体外離脱体験(Out-of-body experience;以下OBE)を利用することもできる。OBEとは被験者の後方から撮影した映像をHMDに映し,映像内で背部に一定の触覚刺激を与えることで起こる自己意識の錯覚を指し(Ehrsson,2007),OBE生起時には映像で見ている身体に自己意識が移る錯覚を生じる(Lenggenhager,2007)。これらHMDの傾斜映像やOBEによる錯覚がさらに姿勢反応に影響を与える可能性があるがその報告は少なく,本研究から視覚的・触覚的な操作が姿勢反応に及ぼす影響が明らかになると予想される。そこで健常成人を対象に重心動揺計を用い,映像傾斜とOBE付与が閉脚立位バランスに及ぼす影響を検討した。
【方法】対象は右手利き健常成人19名(男性10名,女性9名,平均年齢±標準偏差:26.4±2.4歳)とした。対象者は閉脚立位をとり,HMDを装着してHMD映像を注視した。HMDの映像は条件1:対象者を映していない壁映像,条件2:対象者を映していない壁の傾斜映像,条件3:対象者の後ろ姿を映した映像,条件4:対象者の後ろ姿を映した傾斜映像,条件5:対象者の後ろ姿を映しOBEを付与した傾斜映像の5条件を無作為に実施した。条件間は閉眼したまま1分の休息をとった。映像の傾斜はビデオカメラを30°時計回りに傾斜した。OBE付与方法は対象者の背部に2Hzで一定の触覚刺激を与えた。姿勢反応分析には重心動揺計(アニマ社製グラビコーダGS-31)を使用し,各条件60秒間の測定項目に差があるか反復測定の一元配置分散分析とFriedman検定を実施し,多重比較としてBonferroni法を実施した。統計処理はIBM SPSSver.22を使用し,有意水準は5%とした。
【結果】多重比較の結果,重心動揺項目(平均値±標準偏差)において,総軌跡長では条件3(84.7±25.9cm)と5(92.9±23.7cm)に,単位軌跡長でも条件3(1.4±0.4cm/s)と条件5(1.5±0.4cm/s)に有意差がみられ,条件3に比べ条件5で有意に高かった(p<0.05)。単位面積軌跡長は条件1と2,条件3と4,条件5の順に増加する傾向にあった。一方で外周面積,矩形面積,実効値面積は条件間で有意差がみられなかった。X平均中心変位は条件2(-0.1±0.4cm)と条件5(0.2±0.3cm)において有意差がみられ(p<0.05),条件2は映像の傾斜方向へ,条件5では映像の傾斜と反対方向への変位がみられた。Y平均中心変位は条件間で有意差は認めなかった。
【考察】単位軌跡長は総軌跡長から測定時間を除した値であり,足圧中心の平均移動速度を表している。また単位面積軌跡長は1cm2面積内にある移動距離の平均値であり,値が大きいと早い揺れになり,小さいとゆっくりとした揺れの姿勢制御であることを示している(山本ら,2011)。本研究の結果では,映像傾斜とOBE付与による重心動揺面積は条件間で変化が少なく,条件3に比べ条件5で単位軌跡長が有意に増加したことから,映像傾斜とOBE付与が身体を映像傾斜方向に傾け,それに対応した姿勢反応がみられたと考えた。またX平均中心変位では同じ傾斜映像(条件2と5)でも重心の変位方向は逆であり,これはOBE付与による傾斜映像がより映像の傾斜方向への傾きを助長し,それに対応した姿勢反応が重心変位に影響したことを示している。本研究の限界として,下肢の筋活動の変化など対象者の具体的な姿勢制御戦略は測定していないため,映像傾斜やOBE付与に対する反応は重心動揺でしか検討できない。また映像傾斜やOBE付与前後の垂直認知能力の変化が測定できていないことも今後の課題である。
【理学療法学研究としての意義】Pusher症候群や半側空間無視などにより姿勢制御能力や垂直認知能力が低下している症例もあり,映像傾斜やOBE付与がこれらの能力低下に対する治療アプローチとして応用できる可能性がある。
【方法】対象は右手利き健常成人19名(男性10名,女性9名,平均年齢±標準偏差:26.4±2.4歳)とした。対象者は閉脚立位をとり,HMDを装着してHMD映像を注視した。HMDの映像は条件1:対象者を映していない壁映像,条件2:対象者を映していない壁の傾斜映像,条件3:対象者の後ろ姿を映した映像,条件4:対象者の後ろ姿を映した傾斜映像,条件5:対象者の後ろ姿を映しOBEを付与した傾斜映像の5条件を無作為に実施した。条件間は閉眼したまま1分の休息をとった。映像の傾斜はビデオカメラを30°時計回りに傾斜した。OBE付与方法は対象者の背部に2Hzで一定の触覚刺激を与えた。姿勢反応分析には重心動揺計(アニマ社製グラビコーダGS-31)を使用し,各条件60秒間の測定項目に差があるか反復測定の一元配置分散分析とFriedman検定を実施し,多重比較としてBonferroni法を実施した。統計処理はIBM SPSSver.22を使用し,有意水準は5%とした。
【結果】多重比較の結果,重心動揺項目(平均値±標準偏差)において,総軌跡長では条件3(84.7±25.9cm)と5(92.9±23.7cm)に,単位軌跡長でも条件3(1.4±0.4cm/s)と条件5(1.5±0.4cm/s)に有意差がみられ,条件3に比べ条件5で有意に高かった(p<0.05)。単位面積軌跡長は条件1と2,条件3と4,条件5の順に増加する傾向にあった。一方で外周面積,矩形面積,実効値面積は条件間で有意差がみられなかった。X平均中心変位は条件2(-0.1±0.4cm)と条件5(0.2±0.3cm)において有意差がみられ(p<0.05),条件2は映像の傾斜方向へ,条件5では映像の傾斜と反対方向への変位がみられた。Y平均中心変位は条件間で有意差は認めなかった。
【考察】単位軌跡長は総軌跡長から測定時間を除した値であり,足圧中心の平均移動速度を表している。また単位面積軌跡長は1cm2面積内にある移動距離の平均値であり,値が大きいと早い揺れになり,小さいとゆっくりとした揺れの姿勢制御であることを示している(山本ら,2011)。本研究の結果では,映像傾斜とOBE付与による重心動揺面積は条件間で変化が少なく,条件3に比べ条件5で単位軌跡長が有意に増加したことから,映像傾斜とOBE付与が身体を映像傾斜方向に傾け,それに対応した姿勢反応がみられたと考えた。またX平均中心変位では同じ傾斜映像(条件2と5)でも重心の変位方向は逆であり,これはOBE付与による傾斜映像がより映像の傾斜方向への傾きを助長し,それに対応した姿勢反応が重心変位に影響したことを示している。本研究の限界として,下肢の筋活動の変化など対象者の具体的な姿勢制御戦略は測定していないため,映像傾斜やOBE付与に対する反応は重心動揺でしか検討できない。また映像傾斜やOBE付与前後の垂直認知能力の変化が測定できていないことも今後の課題である。
【理学療法学研究としての意義】Pusher症候群や半側空間無視などにより姿勢制御能力や垂直認知能力が低下している症例もあり,映像傾斜やOBE付与がこれらの能力低下に対する治療アプローチとして応用できる可能性がある。