[P1-A-0144] 上肢挙上および下制時の肩関節動態解析
―性差の検討―
キーワード:三次元動作解析, 肩甲骨面挙上, 性差
【はじめに,目的】
上肢挙上運動時の肩関節の動態解析はCodmanが「肩甲上腕リズム」として紹介し,その後Inmanらにより前方および側方挙上において,健常人における上腕骨の挙上と肩甲骨の上方回旋運動の比率が2:1であることが報告された。以降,様々な計測機器により肩甲上腕リズムの研究が行われ,近年においては,上肢挙上運動に伴う肩甲骨の三次元動作解析が種々の条件下で盛んに行われ報告されている。しかし,これらの研究は被験者を男性に限定,もしくは男女混合で行われているものがほとんどであり,現在までに男女間の差に言及した報告はない。本研究の目的は,上肢挙上および下制運動における肩甲上腕関節および肩甲骨運動の性差を調査することである。
【方法】
対象は肩に愁訴や既往の無い健常男性18例18肩,女性19例19肩の利き手側とした。男性群は平均身長172±5.5cm,平均体重64.6±4.5kg,平均年齢20.9±1.4歳,女性群は平均身長157.9±5.2cm,平均体重52.5±8.3kg,平均年齢20.5±0.9歳であった。運動課題は端座位での上肢肩甲骨面挙上および下制運動とし,下垂位から3秒かけて最大挙上位,最大挙上位から3秒かけて下垂位となるように指示した。対象者には挙上スピードの増減が起こらないよう計測前に十分に練習を行わせた後,2回計測を行った。課題時の運動学的データの収集は電磁気式三次元動作解析装置LIBERTY(Polhemus社製)とMotion Monitor software® version 8.43(Innovative Sports Training社製)を用いた。記録した三次元データからオイラー角を用いて,肩甲上腕関節挙上角(GHE),肩甲骨上方回旋角(SUR)についての角度を算出した。測定再現性は級内相関係数(ICC(1,1))を用い確認した。挙上・下制運動ともに体幹に対する上腕骨挙上角20°から120°までを10°間隔の相に分け,各相でのGHEとSURの変化量を男女間で比較した。統計学的解析にはPASW Statistics for Windows version 17.0(SPSS Japan)を使用し,二元配置分散分析およびBonferroniの多重比較検定を用いた。全ての解析おける有意水準を5%未満に設定した。
【結果】
測定再現性はGHEがICC(1,1):0.994,SURがICC(1,1):0.982であり高い再現性が確認された。挙上・下制時のGHEおよびSUR変化量すべてにおいて性別と挙上相との間に有意な交互作用効果を認めた(p<0.01)。挙上時のGHE変化量は挙上20°から50°までの各相で女性が有意に大きく(p<0.05),90°から120°の各相では男性が有意に大きかった(p<0.01)。下制時のGHE変化量は挙上50°から20°の各相で女性が有意に大きかった(p<0.05)。挙上時のSUR変化量は挙上20°から40°の各相で男性が有意に大きく(p<0.001),80°から120°の各相では女性が有意に大きかった(p<0.05)。下制時のSUR変化量は挙上120°から100°の各相で女性が有意に大きく(p<0.01),50°から20°の各相で男性が有意に大きかった(p<0.05)。
【考察】
本研究において上肢肩甲骨面挙上および下制運動における肩甲上腕関節および肩甲骨運動の変化量に性差が存在することが明らかとなった。女性において上肢挙上角度50°以下では挙上,下制ともに肩甲上腕関節の運動が優位であり,上肢挙上が80°以上では肩甲骨運動が優位になる。男性は女性と対照的なパターンを示した。本研究の対象者は肩に愁訴のない健常人であり,本結果はあくまで男女間のnormal varianceとして理解すべきであるが,女性の運動パターンは過去に報告されている肩峰下インピンジメントや多方向性不安定症患者の運動パターンに類似している。今後,男女の違いが何に由来するのか,またパターンの違いによる肩へのストレスの変化を調査し肩疾患へのリスクと成り得るのかを検討していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果は上肢肩甲骨面挙上に伴う肩甲骨運動の基礎データとなる。臨床において上肢挙上・下制時の肩甲骨運動を評価する際には男女のパターンの違いを念頭に置く必要があることを示唆する。
上肢挙上運動時の肩関節の動態解析はCodmanが「肩甲上腕リズム」として紹介し,その後Inmanらにより前方および側方挙上において,健常人における上腕骨の挙上と肩甲骨の上方回旋運動の比率が2:1であることが報告された。以降,様々な計測機器により肩甲上腕リズムの研究が行われ,近年においては,上肢挙上運動に伴う肩甲骨の三次元動作解析が種々の条件下で盛んに行われ報告されている。しかし,これらの研究は被験者を男性に限定,もしくは男女混合で行われているものがほとんどであり,現在までに男女間の差に言及した報告はない。本研究の目的は,上肢挙上および下制運動における肩甲上腕関節および肩甲骨運動の性差を調査することである。
【方法】
対象は肩に愁訴や既往の無い健常男性18例18肩,女性19例19肩の利き手側とした。男性群は平均身長172±5.5cm,平均体重64.6±4.5kg,平均年齢20.9±1.4歳,女性群は平均身長157.9±5.2cm,平均体重52.5±8.3kg,平均年齢20.5±0.9歳であった。運動課題は端座位での上肢肩甲骨面挙上および下制運動とし,下垂位から3秒かけて最大挙上位,最大挙上位から3秒かけて下垂位となるように指示した。対象者には挙上スピードの増減が起こらないよう計測前に十分に練習を行わせた後,2回計測を行った。課題時の運動学的データの収集は電磁気式三次元動作解析装置LIBERTY(Polhemus社製)とMotion Monitor software® version 8.43(Innovative Sports Training社製)を用いた。記録した三次元データからオイラー角を用いて,肩甲上腕関節挙上角(GHE),肩甲骨上方回旋角(SUR)についての角度を算出した。測定再現性は級内相関係数(ICC(1,1))を用い確認した。挙上・下制運動ともに体幹に対する上腕骨挙上角20°から120°までを10°間隔の相に分け,各相でのGHEとSURの変化量を男女間で比較した。統計学的解析にはPASW Statistics for Windows version 17.0(SPSS Japan)を使用し,二元配置分散分析およびBonferroniの多重比較検定を用いた。全ての解析おける有意水準を5%未満に設定した。
【結果】
測定再現性はGHEがICC(1,1):0.994,SURがICC(1,1):0.982であり高い再現性が確認された。挙上・下制時のGHEおよびSUR変化量すべてにおいて性別と挙上相との間に有意な交互作用効果を認めた(p<0.01)。挙上時のGHE変化量は挙上20°から50°までの各相で女性が有意に大きく(p<0.05),90°から120°の各相では男性が有意に大きかった(p<0.01)。下制時のGHE変化量は挙上50°から20°の各相で女性が有意に大きかった(p<0.05)。挙上時のSUR変化量は挙上20°から40°の各相で男性が有意に大きく(p<0.001),80°から120°の各相では女性が有意に大きかった(p<0.05)。下制時のSUR変化量は挙上120°から100°の各相で女性が有意に大きく(p<0.01),50°から20°の各相で男性が有意に大きかった(p<0.05)。
【考察】
本研究において上肢肩甲骨面挙上および下制運動における肩甲上腕関節および肩甲骨運動の変化量に性差が存在することが明らかとなった。女性において上肢挙上角度50°以下では挙上,下制ともに肩甲上腕関節の運動が優位であり,上肢挙上が80°以上では肩甲骨運動が優位になる。男性は女性と対照的なパターンを示した。本研究の対象者は肩に愁訴のない健常人であり,本結果はあくまで男女間のnormal varianceとして理解すべきであるが,女性の運動パターンは過去に報告されている肩峰下インピンジメントや多方向性不安定症患者の運動パターンに類似している。今後,男女の違いが何に由来するのか,またパターンの違いによる肩へのストレスの変化を調査し肩疾患へのリスクと成り得るのかを検討していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果は上肢肩甲骨面挙上に伴う肩甲骨運動の基礎データとなる。臨床において上肢挙上・下制時の肩甲骨運動を評価する際には男女のパターンの違いを念頭に置く必要があることを示唆する。