[P1-A-0150] 膝深屈曲における脛骨傾斜角と後方すべりの関係
~X線画像を用いた運動療法の即時効果の分析~
キーワード:膝関節, 脛骨傾斜角, 脛骨後方すべり
【はじめに,目的】
正座などに代表される膝関節深屈曲運動は,膝関節に過負荷を与え,変形性膝関節症の原因の一つと考えられている。しかし膝関節の屈曲可動域制限を有する症例では最終屈曲までの可動域改善を望まれる機会も多い。このような症例に対する関節可動域治療では,従来は筋を含めた軟部組織の可動性を改善させた後,膝屈曲運動時の構成運動として,大腿骨に対し脛骨の後方すべりを誘導することや,スクリューホーム・ムーブメントから大腿骨に対する脛骨の内旋,すなわち大腿骨に対し脛骨内側顆は後方すべりを誘導することなどの凹凸の法則を中心とした関節運動学から考えられる治療が行われてきた。
しかし一方で,膝関節深屈曲位における脛骨の過度な後方すべりは半月板の後方転位を招き,関節内組織の損傷を助長する可能性が指摘されている。
今回,我々は膝窩部誘導物(以下,誘導物)を用いることで脛骨後方すべりを助長することなく膝関節深屈曲の獲得ができるものと考え運動を実施した。そして,単純X線画像を用い誘導物使用中ならびに使用前後の脛骨傾斜角度ならびに脛骨後方すべりを計測し,膝関節深屈曲可動域治療の即時効果についてその根拠を検証することを本発表の目的とする。
【方法】
対象は膝に通院歴のない無症候健常男性5名(27.0±2.2歳)。対象はベッド上に背臥位にて右全足底がベッドに接触し,かつ右踵が右殿部に接触する右膝深屈曲位(以下,膝深屈位)をとり単純X線画像装置(日立メディコ社製UH-6GE-31E)にて官球から100cmの位置で照射し診療放射線技師が撮影した。
まず膝深屈位を撮影した。また古典的な膝屈曲運動を20秒5回10秒間隔で実施後に膝深屈位(以下,古典運動後膝深屈位)にて撮影した。その後,直径5cmの木製円柱状の誘導物を下腿の可及的近位部に保持し膝屈曲運動を20秒5回10秒間隔に実施後に誘導物使用下で膝深屈位(以下,誘導膝深屈位)を撮影した。そして,誘導物を除去した状態での膝深屈位(誘導後膝深屈位)を撮影した。撮影フィルムより大腿骨顆部遠位端から10cmならびに25cmの位置での大腿骨骨幹部のそれぞれの中点を結ぶ線(以下,大腿骨軸)と脛骨上前縁と脛骨上後縁を結ぶ線(以下,脛骨上端線)のなす角(以下,脛骨傾斜角)により膝深屈曲に必要な脛骨傾斜を計測した。また脛骨上端線の延長上かつ脛骨上後縁から大腿骨軸に接する距離(以下,脛骨大腿間距離)により脛骨の後方すべりを計測した。
また撮影時に,それぞれの膝深屈位において自覚的易屈曲感をNumerical Rating Scale(以下,NRS)にて「全く違和感や抵抗感がなく曲げやすい状態」を0,「これ以上にない曲がりにくい状態」を10として聴取した。
【結果】
脛骨傾斜角は膝深屈位58.0±4.40°,古典運動後膝深屈位58.9±4.94°,誘導膝深屈位56.6±5.03°,誘導後膝深屈位59.2±4.72°。脛骨大腿軸間距離は膝深屈位3.96±0.36cm,古典運動後膝深屈位3.92±0.37cm,誘導膝深屈位4.13±0.25cm,誘導後膝深屈位3.93±0.43cmであった。膝深屈位との比較では,脛骨傾斜角が古典運動後膝深屈位0.90±1.19°,誘導膝深屈位-1.40±1.19°,誘導後膝深屈位1.20±0.97°。脛骨大腿軸間距離は古典運動後膝深屈-0.04±0.16cm,誘導膝深屈位0.17±0.18cm,誘導後膝深屈位-0.03±0.11cmであった。
NRSでは,膝深屈位2.0±0.71,古典運動後膝深屈位1.4±0.55,誘導膝深屈位6.6±2.51,誘導後膝深屈位0.2±0.45であった。
【考察】
誘導膝深屈位は脛骨大腿軸間距離が最も長いことから脛骨の後方すべりを制御しつつ膝屈曲が出来るが,誘導後膝深屈位では再び後方滑りが生じてしまう可能性があり誘導物使用前後における脛骨後方すべりの即時効果は認めなかった。また誘導膝深屈位は膝深屈位と比較すると脛骨傾斜角が減少しており誘導物使用における脛骨傾斜角への影響は少ないと思われる。以上の事から誘導膝深屈位においては脛骨後方滑りが制御でき,半月板などの膝関節周囲組織への過負荷を軽減する可能性があると考える。また興味深いことに誘導物除去後の即時効果として脛骨傾斜角が増大しNRSが最も低値を示した。しかし,誘導膝深屈位における脛骨傾斜角が減少していることから誘導物による傾斜角の増加の影響については断定できないという結果となった。今後,対象者を増やし統計学的検討も加えたい。
【理学療法学研究としての意義】
膝関節可動域の再獲得に向けた徒手理学療法の根拠の証明につながる。また,変形性膝関節症の予防や進行を遅らせるための治療として理論的な徒手理学療法の構築の一助となるものと考える。
正座などに代表される膝関節深屈曲運動は,膝関節に過負荷を与え,変形性膝関節症の原因の一つと考えられている。しかし膝関節の屈曲可動域制限を有する症例では最終屈曲までの可動域改善を望まれる機会も多い。このような症例に対する関節可動域治療では,従来は筋を含めた軟部組織の可動性を改善させた後,膝屈曲運動時の構成運動として,大腿骨に対し脛骨の後方すべりを誘導することや,スクリューホーム・ムーブメントから大腿骨に対する脛骨の内旋,すなわち大腿骨に対し脛骨内側顆は後方すべりを誘導することなどの凹凸の法則を中心とした関節運動学から考えられる治療が行われてきた。
しかし一方で,膝関節深屈曲位における脛骨の過度な後方すべりは半月板の後方転位を招き,関節内組織の損傷を助長する可能性が指摘されている。
今回,我々は膝窩部誘導物(以下,誘導物)を用いることで脛骨後方すべりを助長することなく膝関節深屈曲の獲得ができるものと考え運動を実施した。そして,単純X線画像を用い誘導物使用中ならびに使用前後の脛骨傾斜角度ならびに脛骨後方すべりを計測し,膝関節深屈曲可動域治療の即時効果についてその根拠を検証することを本発表の目的とする。
【方法】
対象は膝に通院歴のない無症候健常男性5名(27.0±2.2歳)。対象はベッド上に背臥位にて右全足底がベッドに接触し,かつ右踵が右殿部に接触する右膝深屈曲位(以下,膝深屈位)をとり単純X線画像装置(日立メディコ社製UH-6GE-31E)にて官球から100cmの位置で照射し診療放射線技師が撮影した。
まず膝深屈位を撮影した。また古典的な膝屈曲運動を20秒5回10秒間隔で実施後に膝深屈位(以下,古典運動後膝深屈位)にて撮影した。その後,直径5cmの木製円柱状の誘導物を下腿の可及的近位部に保持し膝屈曲運動を20秒5回10秒間隔に実施後に誘導物使用下で膝深屈位(以下,誘導膝深屈位)を撮影した。そして,誘導物を除去した状態での膝深屈位(誘導後膝深屈位)を撮影した。撮影フィルムより大腿骨顆部遠位端から10cmならびに25cmの位置での大腿骨骨幹部のそれぞれの中点を結ぶ線(以下,大腿骨軸)と脛骨上前縁と脛骨上後縁を結ぶ線(以下,脛骨上端線)のなす角(以下,脛骨傾斜角)により膝深屈曲に必要な脛骨傾斜を計測した。また脛骨上端線の延長上かつ脛骨上後縁から大腿骨軸に接する距離(以下,脛骨大腿間距離)により脛骨の後方すべりを計測した。
また撮影時に,それぞれの膝深屈位において自覚的易屈曲感をNumerical Rating Scale(以下,NRS)にて「全く違和感や抵抗感がなく曲げやすい状態」を0,「これ以上にない曲がりにくい状態」を10として聴取した。
【結果】
脛骨傾斜角は膝深屈位58.0±4.40°,古典運動後膝深屈位58.9±4.94°,誘導膝深屈位56.6±5.03°,誘導後膝深屈位59.2±4.72°。脛骨大腿軸間距離は膝深屈位3.96±0.36cm,古典運動後膝深屈位3.92±0.37cm,誘導膝深屈位4.13±0.25cm,誘導後膝深屈位3.93±0.43cmであった。膝深屈位との比較では,脛骨傾斜角が古典運動後膝深屈位0.90±1.19°,誘導膝深屈位-1.40±1.19°,誘導後膝深屈位1.20±0.97°。脛骨大腿軸間距離は古典運動後膝深屈-0.04±0.16cm,誘導膝深屈位0.17±0.18cm,誘導後膝深屈位-0.03±0.11cmであった。
NRSでは,膝深屈位2.0±0.71,古典運動後膝深屈位1.4±0.55,誘導膝深屈位6.6±2.51,誘導後膝深屈位0.2±0.45であった。
【考察】
誘導膝深屈位は脛骨大腿軸間距離が最も長いことから脛骨の後方すべりを制御しつつ膝屈曲が出来るが,誘導後膝深屈位では再び後方滑りが生じてしまう可能性があり誘導物使用前後における脛骨後方すべりの即時効果は認めなかった。また誘導膝深屈位は膝深屈位と比較すると脛骨傾斜角が減少しており誘導物使用における脛骨傾斜角への影響は少ないと思われる。以上の事から誘導膝深屈位においては脛骨後方滑りが制御でき,半月板などの膝関節周囲組織への過負荷を軽減する可能性があると考える。また興味深いことに誘導物除去後の即時効果として脛骨傾斜角が増大しNRSが最も低値を示した。しかし,誘導膝深屈位における脛骨傾斜角が減少していることから誘導物による傾斜角の増加の影響については断定できないという結果となった。今後,対象者を増やし統計学的検討も加えたい。
【理学療法学研究としての意義】
膝関節可動域の再獲得に向けた徒手理学療法の根拠の証明につながる。また,変形性膝関節症の予防や進行を遅らせるための治療として理論的な徒手理学療法の構築の一助となるものと考える。