第50回日本理学療法学術大会

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Fri. Jun 5, 2015 11:20 AM - 12:20 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P1-A-0174] マスターズスイマーにおける泳法と疼痛部位の関係

中村拓成1,4, 濱中康治1,4, 地神裕史2,4, 加藤知生3,4 (1.JCHO東京新宿メディカルセンター, 2.東京工科大学, 3.桐蔭横浜大学, 4.日本水泳トレーナー会議)

Keywords:マスターズスイマー, 泳動作, 障害予防

【はじめに,目的】
近年,健康増進に対する意識の高まりにより水中運動を行う中高齢者が増加している。一般社団法人日本マスターズ水泳協会に登録している選手数も年々増加しており,競技会も頻繁に行われている。一方で水泳,特に競泳は肩関節や腰部の障害が多いスポーツとしても知られている。健康増進のために行っている水泳により運動器の障害を来し,QOLを低下させぬように理学療法士として適切な知識を持ってサポートすることは非常に意義深いと考える。
競泳における障害部位については様々な報告が行われている。半谷らの報告によると,トップスイマーの障害罹患部位を種目別に比較検討したところ,競泳では腰,肩,膝の順で発生数が多かったとされている。また,競泳はバタフライ,背泳ぎ,平泳ぎ,クロールの4泳法とそれを順に泳ぐ個人メドレーから構成されている。それぞれの泳法により推進メカニズムが大きく異なり,上肢による推進依存率も異なる。よって,力学的に負担のかかる部位に若干の違いが存在する。例えば,平泳ぎにおける推進力の発揮は約7割が下肢のキック動作によるものと言われており,平泳ぎ選手は膝痛が多いという報告もある。よってマスターズスイマーにおいても泳法別で疼痛発生部位の違いがあることも考えられる。
そこで本研究の目的は,マスターズスイマーの障害部位の実態を調査するとともに,泳法の違いにより疼痛部位に差があるかを検討することで,マスターズスイマーに対して適切なサポートを実施するための情報を得ることである。
【方法】
対象はアンケートを実施し,回答が得られた155名(男性66名,女性89名)とした。アンケートに記載された専門種目及び現在有している疼痛部位を集計し,対象者全員における疼痛部位の割合を算出した。また,カイ二乗検定を用いて各泳法間で疼痛部位に差があるかを検討した。また,検討は疼痛部位ごとに行い,危険率は5%未満とした。
【結果】
本研究の対象年齢は52.7±13.8歳(23-81歳),水泳歴は26.1±13.5年(2-75年)であった。専門種目は重複で自由形83名,平泳ぎ39名,バタフライ40名,背泳ぎ26名,個人メドレー22名であった。全対象者のうち疼痛の訴えがあった人数は96名,疼痛部位は重複ありで計261部位であった。そのうち「肩関節」が最も多く36%,次いで「腰部・骨盤帯」が22%,「頸部」が17%であった。また,各泳法間における疼痛部位の差は,「膝関節」と「股関節」において平泳ぎと他の泳法との間に差を認めた(p<0.05)。
【考察】
今回,全対象者における疼痛部位の割合は肩関節,腰部・骨盤帯,頸部に多い結果となった。肩関節,腰部・骨盤帯においてはトップスイマーと同様に疼痛の訴えが多い結果となったが,それに比べて頸部の疼痛の訴えが多かった。頸椎の退行性変化などがある場合,競泳における呼吸動作時の頸椎の回旋や伸展ストレスが誘因となって痛みを訴える可能性が推察される。また,各泳法間における疼痛部位の差については,股関節と膝関節において平泳ぎと他の泳法との間に差を認めた。これにより,平泳ぎは他の泳法に比べて股関節,膝関節の疼痛が発生しやすいことが明らかとなった。平泳ぎにおけるキック動作は股関節の外転を抑え,股関節を内旋し膝関節を外旋させた状態で下腿を鞭のようにしならせて行うウィップキックが用いられる。このようなフォームでキック動作を行うためには十分な股関節,膝関節の可動域が必要になる。トップスイマーにおいても股関節の回旋制限により,膝関節の過外旋が生じ膝痛を発生するものも多いとされている。今回のマスターズスイマーにおいても退行性変化による関節そのものの痛みや,筋の短縮の影響による二次的な膝の痛みが出現したのではと考える。今後もマスターズスイマーは増加することが予想される。今回のような調査を継続していき,障害予防のための正確な情報を収集しながらサポートを行うことが必要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
理学療法士はスポーツ領域において障害予防のサポートを行うスペシャリストとなる必要がある。今回,マスターズスイマーにおける泳法と疼痛部位の関係を明らかにしたことにより,理学療法士がコンディショニング等を行う際の一助となる。