[P1-A-0177] 大学アメリカンフットボール選手の脳振盪既往がバランス能力に及ぼす影響
キーワード:アメリカンフットボール, 脳振盪, バランス能力
【はじめに,目的】
脳振盪は頭部への衝撃により生じ,自覚症状や認知機能の低下をきたす外傷であり,発生頻度はアメリカンフットボールなどのコンタクトスポーツで高い(Deneshvar, et al. 2012)。脳振盪の症状は非特異的であり,軽度であれば意識消失などの重篤な症状が出現しないため受傷を見落としやすい。しかし,たとえ重症度が軽度であっても,繰り返すことで致命的な脳損傷に至ることがある。そのため,受傷から競技復帰までの経過観察はきわめて重要である。
脳振盪を受傷した者では中枢神経系の障害からバランス能力の低下が生じるとされている(Furman, et al. 2013)。Riemann(1999)らは,静的姿勢保持の安定性を点数化するバランス評価としてBalance Error Scoring System(BESS)を作成した。このスケールは脳振盪受傷前後のバランス能力を比較することにも用いられる。一般に,頭痛,めまいなどの脳振盪の症状の90%は7~10日で消失するとされており(Echemendia, et al. 2001),受傷後の短期的な変化については多数報告されている。しかし,脳振盪受傷によって低下したバランス能力が,脳振盪の既往のない者と同じ水準であるかどうかは不明である。
本研究の目的は,大学アメリカンフットボール選手のオフシーズン期のバランス能力を測定し,脳振盪の既往がバランス能力に影響を及ぼすかどうかを確認することとした。仮説は,2週間以上前に発生した脳振盪の既往はバランス能力に影響を及ぼさないとした。
【方法】
対象は,筆者らがメディカルサポートを行っている某大学アメリカンフットボール部に所属する2年生から4年生までの選手27名(年齢20.3±1.1歳,身長174.4±6.1cm,体重81.7±14.2kg,BMI 26.8±4.1kg/m2)とした。測定日の2週間より前の脳振盪既往の有無について聴取し,既往があると回答した者を「あり群」,ないと回答した者を「なし群」として2群に分けた。
バランス能力の測定はBESSに準じて行った。測定条件は「両足立ち」として対象が両手を腸骨稜に当て,両足部を揃えた立位を保持するもの,「片脚立ち」として非利き脚をおおよそ股関節30°屈曲,膝関節45°屈曲位に挙上した姿勢を保持するもの,「タンデム立位」として両脚立ちから非利き脚を後ろにして,非利き脚の足尖と利き脚の踵をつけた状態を保持するものの3条件で行った。利き脚はボールを蹴る脚とした。いずれの条件も閉眼で測定姿勢を20秒間保持するように指示した。測定は各1回行った。各測定の得点は10点満点とし,エラーが1回生じるごとに1点を減じた。エラー項目は(1)手が腸骨稜から離れる,(2)目が開く,(3)よろめく,(4)股関節が30度以上外転する,(5)前足部と踵が床から離れる,の5項目とした。測定時のエラーの判断は同一の測定者が行った。
統計学的解析にはSPSS statistics version 21(IBM社)を用いた。得られた3条件の得点を,「あり群」と「なし群」の2群間で比較するためMann-WhitneyのU検定を行った。危険率5%未満を有意とした。
【結果】
対象を群分けした結果,「あり群」が8名(年齢19.9±1.2歳,身長172.0±5.7cm,体重79.6±9.4kg,BMI 27.1±4.1kg/m2),「なし群」が19名(年齢20.4±1.0歳,身長175.5±6.1cm,体重82.5±16.0kg,BMI 26.7±4.3kg/m2)であった。
各条件での「あり群」と「なし群」の平均点は,「両脚立ち」ではともに満点の10.0点,「片脚立ち」ではそれぞれ6.8点,7.9点であり,両群間に有意差は認められなかった。「タンデム立位」ではそれぞれ7.5点,9.6点で,「あり群」は「なし群」に比べて有意に低かった(p<0.05)。
【考察】
本研究の結果では,「両脚立ち」での得点は満点であったが,支持基底面が「両脚立ち」よりも狭い「片脚立ち」と「タンデム立位」では,両群ともエラーが生じていた。特に「タンデム立位」では,「あり群」で際立ってエラーの数が多く,「なし群」と比較して有意に点数が低かった。「あり群」でのエラーの内容をみると,よろめきが最も多く観察された。これは,「タンデム立位」が「片脚立ち」に比べて,より協調性が要求される課題であることが要因と考えられる。そのため脳振盪の既往のある者では,協調性の低下をきたしている可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】
「タンデム立位」のような協調性が必要な動作では,脳振盪の影響が長期に及ぶ可能性が示唆された。脳振盪の再受傷者にBESSを使用する際は前回の脳振盪の症状が影響している可能性があり,注意が必要であるという知見を得たことに本研究の意義がある。
脳振盪は頭部への衝撃により生じ,自覚症状や認知機能の低下をきたす外傷であり,発生頻度はアメリカンフットボールなどのコンタクトスポーツで高い(Deneshvar, et al. 2012)。脳振盪の症状は非特異的であり,軽度であれば意識消失などの重篤な症状が出現しないため受傷を見落としやすい。しかし,たとえ重症度が軽度であっても,繰り返すことで致命的な脳損傷に至ることがある。そのため,受傷から競技復帰までの経過観察はきわめて重要である。
脳振盪を受傷した者では中枢神経系の障害からバランス能力の低下が生じるとされている(Furman, et al. 2013)。Riemann(1999)らは,静的姿勢保持の安定性を点数化するバランス評価としてBalance Error Scoring System(BESS)を作成した。このスケールは脳振盪受傷前後のバランス能力を比較することにも用いられる。一般に,頭痛,めまいなどの脳振盪の症状の90%は7~10日で消失するとされており(Echemendia, et al. 2001),受傷後の短期的な変化については多数報告されている。しかし,脳振盪受傷によって低下したバランス能力が,脳振盪の既往のない者と同じ水準であるかどうかは不明である。
本研究の目的は,大学アメリカンフットボール選手のオフシーズン期のバランス能力を測定し,脳振盪の既往がバランス能力に影響を及ぼすかどうかを確認することとした。仮説は,2週間以上前に発生した脳振盪の既往はバランス能力に影響を及ぼさないとした。
【方法】
対象は,筆者らがメディカルサポートを行っている某大学アメリカンフットボール部に所属する2年生から4年生までの選手27名(年齢20.3±1.1歳,身長174.4±6.1cm,体重81.7±14.2kg,BMI 26.8±4.1kg/m2)とした。測定日の2週間より前の脳振盪既往の有無について聴取し,既往があると回答した者を「あり群」,ないと回答した者を「なし群」として2群に分けた。
バランス能力の測定はBESSに準じて行った。測定条件は「両足立ち」として対象が両手を腸骨稜に当て,両足部を揃えた立位を保持するもの,「片脚立ち」として非利き脚をおおよそ股関節30°屈曲,膝関節45°屈曲位に挙上した姿勢を保持するもの,「タンデム立位」として両脚立ちから非利き脚を後ろにして,非利き脚の足尖と利き脚の踵をつけた状態を保持するものの3条件で行った。利き脚はボールを蹴る脚とした。いずれの条件も閉眼で測定姿勢を20秒間保持するように指示した。測定は各1回行った。各測定の得点は10点満点とし,エラーが1回生じるごとに1点を減じた。エラー項目は(1)手が腸骨稜から離れる,(2)目が開く,(3)よろめく,(4)股関節が30度以上外転する,(5)前足部と踵が床から離れる,の5項目とした。測定時のエラーの判断は同一の測定者が行った。
統計学的解析にはSPSS statistics version 21(IBM社)を用いた。得られた3条件の得点を,「あり群」と「なし群」の2群間で比較するためMann-WhitneyのU検定を行った。危険率5%未満を有意とした。
【結果】
対象を群分けした結果,「あり群」が8名(年齢19.9±1.2歳,身長172.0±5.7cm,体重79.6±9.4kg,BMI 27.1±4.1kg/m2),「なし群」が19名(年齢20.4±1.0歳,身長175.5±6.1cm,体重82.5±16.0kg,BMI 26.7±4.3kg/m2)であった。
各条件での「あり群」と「なし群」の平均点は,「両脚立ち」ではともに満点の10.0点,「片脚立ち」ではそれぞれ6.8点,7.9点であり,両群間に有意差は認められなかった。「タンデム立位」ではそれぞれ7.5点,9.6点で,「あり群」は「なし群」に比べて有意に低かった(p<0.05)。
【考察】
本研究の結果では,「両脚立ち」での得点は満点であったが,支持基底面が「両脚立ち」よりも狭い「片脚立ち」と「タンデム立位」では,両群ともエラーが生じていた。特に「タンデム立位」では,「あり群」で際立ってエラーの数が多く,「なし群」と比較して有意に点数が低かった。「あり群」でのエラーの内容をみると,よろめきが最も多く観察された。これは,「タンデム立位」が「片脚立ち」に比べて,より協調性が要求される課題であることが要因と考えられる。そのため脳振盪の既往のある者では,協調性の低下をきたしている可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】
「タンデム立位」のような協調性が必要な動作では,脳振盪の影響が長期に及ぶ可能性が示唆された。脳振盪の再受傷者にBESSを使用する際は前回の脳振盪の症状が影響している可能性があり,注意が必要であるという知見を得たことに本研究の意義がある。