第50回日本理学療法学術大会

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スポーツ2

2015年6月5日(金) 11:20 〜 12:20 ポスター会場 (展示ホール)

[P1-A-0180] 軽度運動障害を持つ児童のスポーツ教室を通して

スポーツを通しての児童への身体的効果,精神的効果,社会的効果への期待

中野綾子 (きりしま子ども発達支援センター)

キーワード:ダウン症候群, 脳性麻痺, スポーツ

【はじめに,目的】
軽度運動障害を持つ児童は一定の機能面の獲得ができると理学療法士(以下:PT)の個別療法は中止になり運動量が少なくなることが懸念される。また日常の中でも指導者や場所の確保,運動時のリスクがあるために自発的にスポーツに触れる環境が少ない。そこで2013年度より,当施設でスポーツトレーナーを招き,PTが補助として関わることで児童たちのリスク管理が可能なスポーツ教室を行っている。このスポーツ教室を行うことにより児童の身体機能面への影響と余暇活動へ与える影響について報告をする。
【方法】
PTによる1回50分の個別療法を週に1回以上実施していたダウン症候群・脳性麻痺児10名を対象に1回120分のプログラムで,月に2回,約3か月を1クールとして実施した。この間PTによる個別療法は一切中止とした。プログラム内容はウォーミングアップ,平衡系,操作系,ゲーム,クールダウンと続く。内容はその都度変化させ,サーキット,タグラグビー等を流れに沿って行う。主に進行はスポーツトレーナーに行ってもらい,児童同士のパスやチーム戦での勝負等を行った。PTは児童のフォローを中心に行った。スポーツ教室前後の身体機能面の測定(関節可動域(SLR・PoA)・大腿四頭筋筋力・10m歩行速度・PCI)を行い,全6回終了後に保護者へのアンケートを行った。

【結果】
身体機能面では,ウィルコクソン符号付順位和検定を行い,関節可動域(SLR,PoA)ではスポーツ教室前後で有意差が見られなかった。また筋力も有意差は見られなかった。しかし10m歩行速度ではスポーツ教室後で有意(危険率5%)に速い結果が見られた。また保護者に行ったアンケートでは日常でスポーツを行う機会があるかとの問いにはいいえと答えたのは9名,楽しかったか,今後も続けたいかの問いには10名全員がはいと回答した。

【考察】

今回,当施設を利用している児童たちは歩く,走る,ジャンプ等の一定の能力の獲得はされているが,協調運動の苦手さやバランス運動の苦手さ,身体を動かすことへの意識の低さもあり,日常の中で学校以外でのスポーツを行う機会が少ないのではないかと考えた。また実際に保護者へのアンケートでは10名中9名が運動の習慣がないとの回答であった。そこでスポーツトレーナーを招きPTが補助に入るスポーツ教室を行った。ルール理解や協調運動が苦手な児童にはPTがフォローを行う事で,リスク管理を行いながら,スポーツへの参加を行いやすくした。児童同士がパスを行ったり,ゲームを行い勝敗にこだわったりと楽しく運動出来ることができた。関節可動域(SLR・PoA),筋力では有意差が見られなかったが,10m歩行速度では有意差が見られた。この結果から3か月間,PTによる個別療法は中止にしてもスポーツを行う事で楽しみながら運動量をあげ,関節可動域の維持,筋力維持の身体機能面の効果が得られたと考える。保護者へのアンケート結果からも楽しかった,今後も続けたいかの問いに10名全員がはいとの回答であった。この結果からも運動習慣がなく体を動かすことが苦手な児童たちでもプログラムを工夫することで「できた」の経験が増え,自分に自信を持てるようになる精神的効果,他者と助け合ったり,競争する等の社会参加の手段,余暇の楽しみを知る社会的効果を期待できると考える。今回のスポーツ教室の結果より一定の能力面の獲得を得られればPTの個別療法を継続しなくても身体機能面の維持が保障されることが確認された。さらには小児期に必要な自信を得る経験や,社会参加への積極的な働きかけも期待できるのではないだろうかと考える。しかし今回の調査だけでは児童たちに精神的効果,社会的効果をどれだけ与えることができたか不明である。よって今後保護者や児童たちに更なるアンケートを実施し,スポーツ教室で成功体験をどれだけ感じることができたのか,またスポーツ教室参加後,スポーツ習慣や社会活動への参加に変化が生じたのか調査する。
【理学療法学研究としての意義】
日常の中で運動の習慣が少ない軽度運動障害を呈する児童達の運動量向上のために,スポーツ教室を立ち上げ,児童達の社会参加への促しを図る。