第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター1

疼痛

Fri. Jun 5, 2015 11:20 AM - 12:20 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P1-A-0191] 早期運動療法による疼痛の改善に着目した膝内側側副靭帯単独損傷gradeIIIの一症例

望月一磨1, 早川和秀1, 加藤純一郎2 (1.共立蒲原総合病院リハビリテーション科, 2.共立蒲原総合病院整形外科)

Keywords:内側側副靭帯損傷, 疼痛, 運動療法

【はじめに,目的】膝関節における内側側副靭帯(以下MCL)損傷は膝靭帯損傷において最も頻度の高い障害である。しかし膝MCL単独損傷gradeIIIにおける症例報告は極めて少ない。今回膝MCL単独損傷gradeIIIの一症例報告として疼痛の原因追及と早期運動療法の重要性を踏まえてここに報告する。

【方法】22歳男性。社会人サッカー選手。試合中に相手選手とボールを蹴り合い受傷。4病日当院受診。MRIにて関節軟骨や半月板の損傷がみられず,右膝MCL単独断裂の診断となった。Fetto分類にて膝MCL損傷gradeIII。右膝関節屈曲30°ギプス固定にて保存加療。14病日MCL用膝装具(ゲルテックス社)使用。15病日理学療法開始。関節可動域(以下ROM)運動開始。16病日階段昇降可能。18病日CKC運動,マスキュレーター開始(OG GIKEN社GT150)。20病日膝関節屈曲130°以上獲得,入浴時正坐可能。22病日安静時Visual Analog Scale(以下VAS)0.33病日他動運動時VAS0。反復横跳び動作,ジョギング開始。右足尖離地時に右膝内側部に疼痛あり。42病日ダッシュ動作時疼痛なし。43病日ボールキックにて右膝内側部に疼痛ありVAS5。56病日ランニング10km実施。65病日装具装着し接触プレーのない練習に復帰。91病日理学療法終了。97病日テーピング実施し全体練習復帰。上記経過を追った。

【結果】14病日ギプスカット直後の膝関節自動屈曲最大ROM60°であり,他動ROM時VAS10,安静時VAS2を示した。15病日理学療法開始から22病日までの期間で膝屈曲155°獲得し,他動ROM時VAS2,安静時VAS0まで改善した。大腿周径では膝蓋骨直上から15cmの間で健側と比べ最大3.5cmの筋萎縮がみられ,理学療法終了時までに健側に比べ肥大するに至らなかった。右膝関節屈曲伸展筋力測定値は,測定初日の18病日右膝関節伸展平均値19.6kg最大25kg。屈曲平均11.8kg最大15kgであった。安静時VAS0となった22病日右膝伸展平均値34.2kg最大35kg。屈曲平均値15.4kg最大19kg。33病日右膝伸展平均値39.6kg最大45kg。屈曲平均値15.2kg最大18kg。左膝伸展平均値41.8kg最大43kg,屈曲平均値31kg最大32kgと患側伸展筋力は同等であったが,屈曲筋力は健側を大きく下回った。61病日右膝伸展筋力は健側を上回ったが,膝屈曲筋力は右膝屈曲平均値28.6kg最大32kg。左膝屈曲平均値32kg最大39kgであった。

【考察】今回膝MCL単独損傷gradeIIIの症例に対し,早期運動療法によって疼痛緩和,早期復職,スポーツ復帰を果たすことが出来た。MCLは関節包靱帯であり榎本らによるとMCL単独損傷ではgradeIIIに対しても保存治療が適応されその臨床成績は良好であるとされている。MCL損傷は受傷直後からの激しい疼痛をきたし,他の靱帯損傷に比べ疼痛が持続しやすいことが特徴である。今屋らによるとMCLは自己修復能力が高くMCLへの適切な張力こそが治癒に対して有効であり,不十分な張力はMCLの治癒を阻害するといわれている。今回ギプス固定終了直後に残存した疼痛は,不動による骨格筋や関節包の拘縮によるものが中心であると考えられる。そのため疼痛を訴えても廃用性の疼痛に対しては積極的な運動療法を実施した。15病日から開始した運動療法によって,ギプス固定による筋や関節包の拘縮に起因する疼痛は減少したが,膝関節最終屈曲時や歩行,ジョギング時の屈曲初期に膝内側部に疼痛が残存した。KapandjiらによるとMCLの脛骨内側面への付着は脛骨内側にある3つの筋(縫工筋,薄筋,半腱様筋)の停止の上方であると述べており,これはMCLと内側ハムストリングスの癒着や接触によるものであると考えられる。また浅層MCLは内側支持機構で最も重要な安定機構である。田中らは修復MCLの最大破断強度は正常靱帯の40%に満たないと述べており,内側支持機構の筋力強化中心に運動療法を実施した。筋力増強につれて疼痛が減少していく様子が観察できた。以上よりMCL損傷特有の疼痛の消失後,ギプス固定の不動による二次的な疼痛を最小限に抑えることによって22病日安静時VAS0。33病日他動運動時VAS0に安定することが出来た。

【理学療法学研究としての意義】膝MCL単独損傷gradeIIIの理学療法において,疼痛の原因を追及した早期運動療法は,予後に関わり非常に重要である。靱帯損傷による疼痛なのか,関節拘縮による二次的疼痛なのか判断することは理学療法を行う上での必須事項である。そして疼痛を訴えるために運動療法を行わないのではなく,運動療法を行わなくてはならない疼痛に対し,積極的な早期運動療法による疼痛の軽減を目指した理学療法が重要であると思われる。