第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター1

疼痛

Fri. Jun 5, 2015 11:20 AM - 12:20 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P1-A-0194] 腱板断裂例の術後疼痛に関連する因子は?

高橋友明, 畑幸彦, 石垣範雄, 松葉友幸, 雫田研輔, 田島泰裕 (JA長野厚生連安曇総合病院肩関節治療センター)

Keywords:腱板断裂, 疼痛, 理学療法

【はじめに】腱板断裂の術後成績は近年,概ね良好な成績が多く報告されているが,術後に長期にわたり痛みが残存する症例を時々経験する。今回,われわれは,腱板断裂術後1年で痛みが残存する症例の特徴を明らかにする目的で,病歴および術後1年の臨床所見と画像所見について調査したので報告する。
【対象】対象は,腱板全層断裂のうち術後1年以上を経過した198例198肩である。内訳は,手術時年齢が平均62.9歳,男性113肩・女性85肩,右133肩・左65肩であった。なお,非術側は,術前後において臨床所見でも超音波検査でも腱板断裂を疑わせる所見は全く認めなかった。
【方法】対象を術後1年のUCLAスコアのpainの項目を用いて,painが10points未満の症例63例63肩(以下,疼痛あり群)とし,painが10pointsの症例135例135肩(以下,疼痛なし群)と定義し2群に分けた。“疼痛あり群”と“疼痛なし群”の2群間で,病歴(手術時年齢,性別,左右別),断裂サイズ,術後1年の臨床所見:肩関節可動域(7方向の各健側比),肩関節筋力(ピークトルク健側比),UCLAスコアおよび術後1年のMRIを用いた棘上筋腱付着部の評価についての6項目について有意差検定を行った。なお,肩関節可動域は同一検者が他動的に測定して健患比を求め,ピークトルク健側比はBIODEX社製トルクマシン(Multi joint system 2AP, Biodex medical systems inc, New York)を用いて,坐位で体幹と骨盤を固定した体勢にて,屈曲-伸展方向は屈曲180゜から伸展20゜の範囲で,90°外転位での内旋-外旋方向は内旋40゜から外旋90゜の範囲で,角速度60°/secで3回ずつ測定し,それぞれの運動方向のピークトルク健側比を求めた。MRIによる棘上筋腱付着部の評価は村上の分類を用いて行い,斜位矢状断像,斜位冠状断像および水平断像の全ての画像において,TypeIは腱内が全層性に低信号を示す症例,TypeIIは腱内が一部高信号を示す症例,TypeIIIは腱付着部が全層性に高信号を示す症例という定義である。なお,統計学的解析は,性別と左右別についてはχ2検定を用いて行い,断裂サイズとMRIを用いた棘上筋腱付着部の評価についてはマン・ホイットニ検定を用いて行い,手術時年齢,術後1年の肩関節可動域とピークトルク健側比およびUCLAスコアについてはウィルコクソン符号付き順位和検定を用いて行い,それぞれ危険率5%未満を有意差ありとした。
【結果】病歴の各項目については,2群間で有意差を認めなかったが,断裂サイズについては,疼痛あり群が疼痛なし群より有意に大きかった(P<0.05)。術後1年の肩関節可動域の健患比は,屈曲角度においてのみ,疼痛あり群が疼痛なし群より有意に小さかった(P<0.05)が,その他の方向における有意差は認めなかった。術後1年の肩関節筋力(ピークトルク健側比)は,屈曲と90°外転位外旋方向において,疼痛あり群が疼痛なし群より有意に低下していたが(P<0.05,P<0.05),その他の方向における有意差は認めなかった。術後1年のUCLAスコアは,pain,satisfaction of the patientおよびtotal scoreの項目において,疼痛あり群は有意に低かったが(P<0.05,P<0.05,P<0.05),他の項目においては有意差を認めなかった。術後1年の棘上筋腱付着部の腱内輝度変化は,疼痛あり群が疼痛なし群より有意に回復が悪かった。
【考察】今回の結果より,腱板断裂術後に残存する痛みの要因は,断裂サイズが有意に大きく,屈曲角度が有意に小さく,屈曲筋力と外転位外旋筋力が有意に小さく,UCLAスコアの患者満足度と総点が有意に低く,棘上筋腱付着部の回復は有意に遅かったことが分かった。疼痛と筋力低下に関して,「肩腱板断裂の筋力低下において,断裂サイズそのものよりも疼痛による抑制が関与していた」という報告があり,疼痛と患者満足度に関しては,「腱板断裂術後1年で疼痛が残存している症例は満足度が有意に低かった」という報告がある。また,疼痛と腱板付着部の回復に関して,「腱板断裂術後に残存する疼痛の要因として,MRI上での腱板付着部の修復が悪いことが挙げられる」という報告があり,これらの報告が今回の結果の裏付けになると思われた。
【理学療法学研究としての意義】腱板断裂術後1年で痛みが残存する症例に対して,理学療法においては屈曲角度および屈曲筋力と外転位外旋筋力の改善が必要になると考えられ,この改善が棘上筋腱付着部の回復を促し,二次的に疼痛の軽減がはかられ患者満足度の向上につながるものと思われた。