第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター1

疼痛

2015年6月5日(金) 11:20 〜 12:20 ポスター会場 (展示ホール)

[P1-A-0197] 膝教室を実施した変形性膝関節症患者の日常生活における疼痛改善が運動機能およびQOL改善に与える影響

河江将司1, 小林巧2, 山中正紀3, 武田直樹4, 伊藤俊貴5, 小岩幹1 (1.社会医療法人北斗北斗病院医療技術部理学療法科, 2.北海道千歳リハビリテーション学院理学療法学科, 3.北海道大学大学院保健科学研究院機能回復学分野, 4.社会医療法人北斗十勝リハビリテーションセンター整形外科, 5.社会医療法人北斗十勝リハビリテーションセンター医療技術部理学療法科)

キーワード:膝の痛み, 膝教室, QOL

【はじめに・目的】
変形性膝関節症(以下膝OA)は,局所の疼痛症状と機能障害を主症状とする疾患である。近年,膝痛軽減プログラムとして膝教室に関する報告が散見される。膝教室は患者教育及び運動療法指導による自己管理を目的としたプログラムであり,疼痛や運動機能改善などその有効性について報告されている。当院では膝OAのため膝痛を有する患者に対して膝教室を実施し,患者教育とホームエクササイズを主体とした運動療法を指導している。しかし,膝教室による疼痛改善が運動機能及びQOLに与える影響は不明である。また,これまでvisual analog scaleを使用した局所の疼痛とパフォーマンスやQOLとの関連性について検討した報告は散見されるが,日常生活における総合的な疼痛評価と運動機能及びQOLとの関連性について検討した報告は見られない。そこで,本研究の目的は膝OA患者機能評価尺度(以下JKOM)の下位項目である「痛みやこわばり」(以下疼痛)を使用し,日常生活における痛みの改善が運動機能やQOL改善に与える影響を検討することとした。
【方法】
対象は当院の膝教室に参加した膝OA患者28名(男性2名女性26名,平均年齢67.1±8.8歳,平均身長152.5±7.4cm,平均体重58.0±9.5kg,Kellgren-Lawrence分類grade2:4名,3:12名,4:12名)とした。膝教室では膝OAについての講義と運動機能評価,運動療法の実技指導を行なった。運動療法は膝屈曲及び伸展ROM運動,大腿四頭筋運動(patella-setting,SLR)及び歩行修正(内側荷重歩行)について指導した。対象者には膝教室1か月後に再来院してもらい運動機能の再評価を実施した。評価項目は片脚立位時間,Timed up and go test(以下,TUG),最大歩行速度,JKOMの総点,各下位尺度である「疼痛」「日常生活の状態」「普段の活動など」「健康状態について」の点数とした。片脚立位時間は足底を床面より挙上させた片脚立位を保持した時間を測定した。TUGは椅子座位姿勢を開始肢位とし,検者の合図から3m先の目印を回り再び椅子に座るまでの時間を測定した。最大歩行速度は出来るだけ速く歩行してもらい,10m歩行時間を測定し,その値から歩行速度を算出した。JKOMは上記の4項目から構成され,全25問の設問からなる。設問では最も良い機能を0点,最も重症を4点として合計100点満点として採点した。全ての測定項目に対し,初回評価時と1か月後の点数から改善率を算出し検討に用いた。統計学的分析は,「疼痛」の改善率とそれぞれの評価項目の改善率との関連性の検討にSpearmannの順位相関係数を使用した。統計処理にはSPSS ver.20.0を使用し,有意水準は5%とした。
【結果】
「疼痛」改善率とJKOM総点(r=0.83),「日常生活の状態」(r=0.52)及び「普段の活動など」(r=0.38)の改善率との間に有意な正の相関を認めた(p<0.05)。「疼痛」改善率と片脚立位時間,TUG,最大歩行速度及びJKOM下位尺度「健康状態について」の改善率には有意な相関を認めなかった。
【考察】
結果より,膝教室実施後1か月において「疼痛」改善率は,JKOM総点,「日常生活の状態」及び「普段の活動など」と有意な関連を示した。膝教室では単に自宅での運動療法だけでなく患者教育を取り入れているため,膝OA患者の生活動作の適正化や生活様式の変更に繋がり,「日常生活の状態」や「普段の活動など」と関連した可能性が推察される。また,今回使用した疼痛評価は日常生活での疼痛についてであり,直接的にQOLと関連した可能性が推察されるため,QOL改善に影響する要因を検討する際,日常生活における疼痛評価を実施することが重要かもしれない。
「疼痛」改善率は片脚立位時間,TUG,最大歩行速度と有意な関連を示さなかった。これまで,歩行速度などの運動機能は下肢伸展筋力と有意に関連することが報告されており,日常生活における疼痛改善は運動機能改善に影響しない可能性が推察された。今後はより長期的な検討を行い,患者教育とホームエクササイズを主体とした膝教室による疼痛改善が運動機能及びQOLにどのように影響するか,より詳細な検討が必要である。
【理学療法学研究としての意義】
患者教育とホームエクササイズを主体とする膝教室による短期的な日常生活における痛みの改善はQOL改善に繋がる可能性が示唆され,膝OA患者のQOL向上のための理学療法を検討する上での一助となる可能性が示唆された。今後は,膝教室が疼痛改善に与える影響や局所的な痛みと日常生活における痛みの関連などについて調査し,膝OA患者の運動機能やQOL向上に影響する因子について更なる検討を進めたい。