[P1-A-0200] 上肢前方挙上時の上部体幹の動きが肩甲骨前後傾に及ぼす影響
キーワード:上肢前方挙上, 体幹, 肩甲骨
【はじめに,目的】肩関節は胸郭上を浮遊する関節のため体幹の機能の影響を受けやすく,体幹の動きは肩甲骨,肩甲上腕関節の動きに影響を及ぼすことが考えられる。先行研究において,体幹の動きを制限した条件での上肢前方挙上(以下,上肢挙上)90~120°における肩甲骨後傾は,体幹の動きを制限しなかった条件と比較し有意に大きくなった。したがって,上肢挙上時の肩甲骨前後傾の動きには体幹の動きが影響を及ぼしている可能性がある。肩甲骨の土台となる体幹の伸展方向への動きが生じることで肩甲骨後傾が増加し,上肢挙上時に肩甲骨関節窩を前上方へ向けやすくなるのではないかと予測される。しかし,この点に関する報告は散見されない。そこで本研究の目的は,上肢挙上時の体幹の動きが肩甲骨前後傾に及ぼす影響を検討することとし,上肢挙上0~150°での30°ごとの6点における両者の動きの関係を検討した。
【方法】対象は健常男性19名(年齢:25.5±3.4歳)であった。測定肢位は自然坐位での両上肢挙上0°,30°,60°,90°,120°,150°の6肢位とした。被験者に測定肢位まで両上肢を自動挙上させ,その肢位を保持させた状態で右肩甲帯角度(床からの垂線と肩甲骨の角度)を計測した。水準計(シンワ測定社製)を肩甲骨棘下窩の平らな部分に沿わせ,体表より計測した。次に,測定肢位を側方よりデジタルカメラで撮影し,その画像より画像解析ソフトScion Imageを用いて,上部体幹角度(第1胸椎棘突起と第9胸椎棘突起を結ぶ線と,垂線との角度)を計測した。その後,肩甲帯角度より上部体幹角度を減じ,肩甲骨前後傾角度(上部体幹に対する肩甲骨の角度)を算出した。数値が小さくなるほど肩甲骨後傾,上部体幹の伸展が大きくなることを示す。上肢挙上0~150°の6点について,上部体幹角度を説明変数,肩甲骨前後傾角度を従属変数として回帰分析を実施し,両者の動きの関係を検討した。さらに,上部体幹角度,肩甲骨前後傾角度の上肢挙上30°ごとの変化量を算出し,動きの割合(上部体幹:肩甲骨前後傾)を算出した。なお,統計にはSPSS ver. 12.0Jを用い,危険率5%未満を有意とした。
【結果】計測値の平均値±標準偏差(°)を上肢挙上角度(上部体幹角度,肩甲骨前後傾角度)の順に示す。上肢挙上0°(13.0±5.6,0.7±5.4),上肢挙上30°(12.0±4.9,-1.1±5.8),上肢挙上60°(11.4±4.9,-4.4±6.2),上肢挙上90°(11.0±4.4,-8.2±5.9),上肢挙上120°(10.4±4.1,-9.5±5.3),上肢挙上150°(7.1±3.7,-10.4±6.2)であった。上肢挙上0~150°の6点における上部体幹角度と肩甲骨前後傾角度は3次相関(y=-0.398x3+12.843x2-131.11x+422.27,R2=0.981,p<0.05)をなした。上部体幹と肩甲骨前後傾の上肢挙上30°ごとにおける動きの割合(上部体幹:肩甲骨前後傾)は,上肢挙上0~30°では1:2,30~60°では1:6,60~90°では1:10,90~120°では1:2,120~150°では4:1であった。すなわち,上肢挙上0~90°では上肢挙上角度が増大するに従い,上部体幹伸展に対する肩甲骨後傾の割合が大きくなり,90~120°では上部体幹伸展に対する肩甲骨後傾の動きの割合は小さくなり,さらに,120~150°では上部体幹伸展の動きの方が大きくなった。
【考察】上肢挙上0~150°において,上部体幹角度と肩甲骨前後傾角度の間に有意な3次相関がみられ,上部体幹の動きは肩甲骨前後傾の動きに影響を及ぼすことが示唆された。これにより,上肢挙上時の肩甲骨前後傾の動きには胸郭上での肩甲骨可動性のみならず,上部体幹の伸展の動きも関与することが考えられる。上肢挙上0~150°における上部体幹と肩甲骨の動きの割合は上肢挙上角度により異なることが示された。すなわち,肩甲骨関節窩を前上方へ向けるための動きは,肩甲骨後傾と上部体幹伸展が上肢挙上の最中に常に一定の割合で動くものではなく,上肢挙上角度によって変化することが示された。したがって,上肢挙上時における肩甲骨前後傾の動きの改善には,肩甲骨と上部体幹の上肢挙上角度による動きの割合の違いを考慮したアプローチが必要となる可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】上肢挙上時の肩甲骨の動きが制限されている症例の中には,胸郭上での肩甲骨の可動性低下のみならず,上部体幹の可動性の低下が影響を与えているケースが存在する可能性が考えられた。
【方法】対象は健常男性19名(年齢:25.5±3.4歳)であった。測定肢位は自然坐位での両上肢挙上0°,30°,60°,90°,120°,150°の6肢位とした。被験者に測定肢位まで両上肢を自動挙上させ,その肢位を保持させた状態で右肩甲帯角度(床からの垂線と肩甲骨の角度)を計測した。水準計(シンワ測定社製)を肩甲骨棘下窩の平らな部分に沿わせ,体表より計測した。次に,測定肢位を側方よりデジタルカメラで撮影し,その画像より画像解析ソフトScion Imageを用いて,上部体幹角度(第1胸椎棘突起と第9胸椎棘突起を結ぶ線と,垂線との角度)を計測した。その後,肩甲帯角度より上部体幹角度を減じ,肩甲骨前後傾角度(上部体幹に対する肩甲骨の角度)を算出した。数値が小さくなるほど肩甲骨後傾,上部体幹の伸展が大きくなることを示す。上肢挙上0~150°の6点について,上部体幹角度を説明変数,肩甲骨前後傾角度を従属変数として回帰分析を実施し,両者の動きの関係を検討した。さらに,上部体幹角度,肩甲骨前後傾角度の上肢挙上30°ごとの変化量を算出し,動きの割合(上部体幹:肩甲骨前後傾)を算出した。なお,統計にはSPSS ver. 12.0Jを用い,危険率5%未満を有意とした。
【結果】計測値の平均値±標準偏差(°)を上肢挙上角度(上部体幹角度,肩甲骨前後傾角度)の順に示す。上肢挙上0°(13.0±5.6,0.7±5.4),上肢挙上30°(12.0±4.9,-1.1±5.8),上肢挙上60°(11.4±4.9,-4.4±6.2),上肢挙上90°(11.0±4.4,-8.2±5.9),上肢挙上120°(10.4±4.1,-9.5±5.3),上肢挙上150°(7.1±3.7,-10.4±6.2)であった。上肢挙上0~150°の6点における上部体幹角度と肩甲骨前後傾角度は3次相関(y=-0.398x3+12.843x2-131.11x+422.27,R2=0.981,p<0.05)をなした。上部体幹と肩甲骨前後傾の上肢挙上30°ごとにおける動きの割合(上部体幹:肩甲骨前後傾)は,上肢挙上0~30°では1:2,30~60°では1:6,60~90°では1:10,90~120°では1:2,120~150°では4:1であった。すなわち,上肢挙上0~90°では上肢挙上角度が増大するに従い,上部体幹伸展に対する肩甲骨後傾の割合が大きくなり,90~120°では上部体幹伸展に対する肩甲骨後傾の動きの割合は小さくなり,さらに,120~150°では上部体幹伸展の動きの方が大きくなった。
【考察】上肢挙上0~150°において,上部体幹角度と肩甲骨前後傾角度の間に有意な3次相関がみられ,上部体幹の動きは肩甲骨前後傾の動きに影響を及ぼすことが示唆された。これにより,上肢挙上時の肩甲骨前後傾の動きには胸郭上での肩甲骨可動性のみならず,上部体幹の伸展の動きも関与することが考えられる。上肢挙上0~150°における上部体幹と肩甲骨の動きの割合は上肢挙上角度により異なることが示された。すなわち,肩甲骨関節窩を前上方へ向けるための動きは,肩甲骨後傾と上部体幹伸展が上肢挙上の最中に常に一定の割合で動くものではなく,上肢挙上角度によって変化することが示された。したがって,上肢挙上時における肩甲骨前後傾の動きの改善には,肩甲骨と上部体幹の上肢挙上角度による動きの割合の違いを考慮したアプローチが必要となる可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】上肢挙上時の肩甲骨の動きが制限されている症例の中には,胸郭上での肩甲骨の可動性低下のみならず,上部体幹の可動性の低下が影響を与えているケースが存在する可能性が考えられた。