第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター1

人工股関節1

Fri. Jun 5, 2015 11:20 AM - 12:20 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P1-A-0212] 人工股関節全置換術を施行した患者の心理面の経時的変化

二宮一成1, 池田崇1,2, 鈴木浩次1, 平川和男1 (1.湘南鎌倉人工関節センター, 2.東京医科歯科大学院医歯学総合研究科リハビリテーション医学分野)

Keywords:人工股関節全置換術(THA), 日本整形外科学会股関節疾患評価質問票(JHEQ), 心理面

【はじめに,目的】
人工股関節全置換術(THA)は,股関節疾患患者の除痛を図り,日常生活活動(ADL)能力や生活の質を向上させる目的で施行されている。これまでにTHA後の痛みや股関節外転筋力(外転筋力),ADL能力に関する報告は,数多くされている。しかし,患者の心理面については,脱臼に対する不安や活動制限から不満感を抱く患者も少なからず存在するといった報告もあるが,十分に検討されていないのが現状である。
近年,本邦において股関節疾患患者の主観的な評価を可能とした日本整形外科学会股関節疾患評価質問票(JHEQ)が開発された。この中でも特に,メンタル尺度(JHEQメンタル)は,患者の不安感や不満感,健康状態を包括的に評価する。よって,THA後のJHEQメンタルの経時的変化を明らかにすることは,患者の心理面を理解する上で重要と考えられる。よって,本研究では,THA後のJHEQメンタル各項目の経時的変化について明らかにすることとした。
【方法】
対象は,平成25年1月から平成26年2月までにMIS-THAを施行した他の整形外科疾患のない片側変形性股関節症(股OA)女性患者112名。取り込み基準は,術後合併症がなく当院のプロトコールに沿って経過し,術前,術後2ヵ月目,術後6ヵ月目に身体機能項目(股関節屈曲・外転ROM,外転筋力,10m歩行時間,UCLAスコア)およびJHEQに不備なく評価・回答が可能であった109名とした(年齢61.7±7.6歳,BMI23.2±3.5kg/m2)。外転筋力の測定は,ハンドヘルドダイナモメーターを用いて,最大等尺性収縮筋力のトルク体重比(Nm/kg)を算出して解析を行った。JHEQは,痛み・動作・メンタル(各7項目,計21項目)について患者が自記式で記入し,採点を行った。
検討項目は,術前,術後2ヵ月,術後6ヵ月の身体機能項目,JHEQ下位3尺度およびJHEQメンタル各項目について経時的変化を比較した。統計学的解析は,正規分布している股関節屈曲・外転ROM,外転筋力,10m歩行時間には,分散分析後にTukey-Kramer法を用いて多重比較検定を行った。また,順序尺度であるUCLAスコア,JHEQ下位尺度およびJHEQメンタル各項目には,Kruskal-Wallis検定を行い,各時期の有意差を確認後Games-Howell法を用いて多重比較検定を行った(p<0.05)。
【結果】
股関節屈曲・外転ROMは,術前と術後2ヵ月の比較では有意に改善した(p<0.05)。しかし,術後2ヵ月と術後6ヵ月の比較では有意な改善を認めなかった。外転筋力,10m歩行時間は,術前と術後2ヵ月および術後2ヵ月と術後6ヵ月の比較で有意に改善した(p<0.05)。UCLAスコアは,術前と術後2ヵ月では有意な改善は認めなかった。しかし,術後2ヵ月と術後6ヵ月の比較では有意に改善した(p<0.05)。JHEQ痛み・動作・メンタルは,術前と術後2ヵ月および術後2ヵ月と術後6ヵ月の比較で有意に改善した(p<0.05)。
JHEQメンタル各項目における比較では,「健康状態に股関節は深く関与する」という項目は,術前と術後2ヵ月の比較では有意に改善した(p<0.05)。しかし,術後2ヵ月目と術後6ヵ月目の比較では有意な改善を認めなかった。その他の6項は,術前と術後2ヵ月,術後2ヵ月と6ヵ月の比較において有意に改善した(p<0.05)。
【考察】
本研究結果から,THA後のJHEQメンタル各項目は,身体機能面の改善とともに有意に改善することが明らかになった。しかし,「健康状態に股関節は深く関与する」という項目は,術後2ヵ月と術後6ヵ月の比較では有意な改善を認めなかった。「健康状態に股関節は深く関与する」という項目は,健康状態と股関節に対する主観を評価している。THA患者は,痛みや歩行能力が改善し,活動範囲が拡大したことに対して「健康状態に股関節がポジティブに関与している」と捉えている患者がいる一方で,脱臼や摩耗予防から活動制限を設けることに対して「健康状態に股関節がネガティブに関与している」と捉えている患者も存在すると考えられる。このことからJHEQメンタルの中でも「健康状態に股関節は深く関与する」という項目は,身体機能面の改善とは比例しないため他の6項目とは性質が異なると考えられる。よって,今後,患者がJHEQメンタル各項目に対してどのように解釈しているか詳細な調査が必要と思われる。
【理学療法学研究としての意義】
THA後患者の心理面は,身体機能面の改善とともに有意に改善する。しかし,JHEQメンタルの中でも「健康状態に股関節は深く関与する」という項目は,身体機能面の改善とは比例しないため詳細な調査が必要だと思われる。