[P1-A-0215] 寛骨臼形成不全の程度が変形性股関節症患者のJHEQの因子に与える影響
Keywords:変形性股関節症, 日本整形外科学会股関節疾患評価質問票(JHEQ), 寛骨臼形成不全
【はじめに,目的】
変形性股関節症(股関節症)は,関節軟骨の変性から骨の変形・破壊を生じ,関節機能の低下を招く。股関節機能に関して,寛骨臼形成不全例では大腿骨頭と寛骨臼の関係性を評価する事は重要であり,Central-edge angle(CE角)は疼痛の有無(斉藤2000),寛骨臼に対する接触応力の増大(Pompe2003),歩行時の寛骨臼への圧上昇(Chegini2009)などに関連する影響が報告されている。股関節症は可動域制限,疼痛など症状進行に伴い,日常生活活動(ADL)の障害を招き,生活の質(QOL)の低下が起こる。QOLに対し,近年では患者主体の自己記入式評価の重要性が述べられており,日本整形外科学会股関節疾患評価質問票(JHEQ)が作成され,患者の自覚的な訴えの評価が実施されている。JHEQに及ぼす要因は不明な点も多く,JHEQの因子と画像評価であるCE角からQOLの予測を行う事ができれば,股関節症患者の理学療法を行う上で有用ではないかと考えた。しかし,そのような報告は調査しうる範囲では存在しなかった。そこで今回,股関節症患者における寛骨臼形成不全の程度とJHEQの関連性を検討する事で,JHEQの因子に与える影響を明らかにする事を目的とした。
【方法】
対象は2012年~2014年にJHEQを実施した股関節症患者29例,29関節(男性1例,女性28例,平均年齢67.2±10.1歳)であった。JHEQは,痛み,動作,メンタルの因子から構成される質問評価票で,20の質問項目(質問点数:0~4点)があり,点数が高い程,QOLが良い事を示す。CE角の計測は股関節正面のX線画像より実施した。統計学的検討は,CE角とJHEQの各因子との関連性をSpearmanの順位相関係数を用いて検討した。また寛骨臼形成不全の診断基準をもとに,20°未満群(18例,平均年齢65±10.7歳)と20°以上群(11例,平均年齢70.8±8.5歳)の2群に分類し,Mann-WhitneyのU検定を用いJHEQの痛み,動作,メンタルの各因子を両群で比較し,その後有意差の認められた因子より質問項目ごとの比較を実施した。有意水準は危険率5%未満とし,統計処理はJSTATを使用し,データは正規性の検討を行った上で実施した。
【結果】
1)CE角とJHEQ各因子の関連性
痛みの因子(rs=0.434,P<0.05),動作の因子(rs=0.38,P<0.05)に正の相関を認め,メンタルの因子(rs=0.283,P>0.05)は関連性を認めなかった。
2)2群間におけるJHEQの各因子の比較:中央値(25%ile-75%ile)
痛みは20°未満群8.5(1-11.25)点,20°以上群9(3-14)点で,有意差を認めなかった。動作は20°未満群2.5(0-6.25)点,20°以上群8(6-12)点で20°未満群で低値を認めた(P<0.05)。メンタルは20°未満群7(2.5-8.25)点,20°以上群9(7-10)点で有意差は認めなかった。
3)2群間における動作因子の質問項目の比較:中央値(25%ile-75%ile)
有意差を認めた項目は,浴槽への出入りが困難である:20°未満群0(0-1)点,20°以上群1(1-3)点,靴下を履くことが困難である:20°未満群0(0-1)点,20°以上群1(0-3)点であり,共に20°未満群で低値を認めた(P<0.05)。
【考察】
股関節症患者の理学療法を実施する上で,大腿骨頭と寛骨臼の関係性を考慮し,寛骨臼形成不全の程度を知る事は重要である。CE角と痛みの関連性では前述した先行研究を支持する結果となり,今回実施した患者の自覚的評価においても関連を認める事となったと考える。動作においては,股関節症患者がADL障害を受けやすい質問項目を,JHEQは含む事が要因になったのではないかと考える。CE角を2群間に分類し比較した場合,動作の因子に対し20°未満群で低値を認め,さらに質問項目による2群間の比較では,浴槽への出入り,靴下着脱動作に有意差がみられ,20°未満群では前述の動作に行いにくさを感じている事がわかった。前述の動作は股関節の屈曲運動を中心としたADL動作で股関節の可動性を必要とする。寛骨臼形成不全では大腿骨頭の外上方への偏位を伴いやすく,また腸腰筋,梨状筋の筋委縮を認める(南角2014)と述べられており,屈曲運動における骨頭求心保持機能の低下が影響として考えられた。
【理学療法研究としての意義】
JHEQは患者主体の自己記入式評価であり患者の自覚的な訴えを評価できるが,その因子に関わる要因は不明な点もある。今回,寛骨臼形成不全の程度がJHEQの因子と関連を認め,また動作面においては屈曲運動を中心とし,可動性を要するADL動作と関連がある事が明らかとなった。寛骨臼形成不全症例に対してはこれらの動作の評価,動作指導,また骨頭求心保持を考慮するなどの理学療法を行う事で,股関節症患者に対する愁訴の軽減,QOLの向上が図れるのではないかと考える。
変形性股関節症(股関節症)は,関節軟骨の変性から骨の変形・破壊を生じ,関節機能の低下を招く。股関節機能に関して,寛骨臼形成不全例では大腿骨頭と寛骨臼の関係性を評価する事は重要であり,Central-edge angle(CE角)は疼痛の有無(斉藤2000),寛骨臼に対する接触応力の増大(Pompe2003),歩行時の寛骨臼への圧上昇(Chegini2009)などに関連する影響が報告されている。股関節症は可動域制限,疼痛など症状進行に伴い,日常生活活動(ADL)の障害を招き,生活の質(QOL)の低下が起こる。QOLに対し,近年では患者主体の自己記入式評価の重要性が述べられており,日本整形外科学会股関節疾患評価質問票(JHEQ)が作成され,患者の自覚的な訴えの評価が実施されている。JHEQに及ぼす要因は不明な点も多く,JHEQの因子と画像評価であるCE角からQOLの予測を行う事ができれば,股関節症患者の理学療法を行う上で有用ではないかと考えた。しかし,そのような報告は調査しうる範囲では存在しなかった。そこで今回,股関節症患者における寛骨臼形成不全の程度とJHEQの関連性を検討する事で,JHEQの因子に与える影響を明らかにする事を目的とした。
【方法】
対象は2012年~2014年にJHEQを実施した股関節症患者29例,29関節(男性1例,女性28例,平均年齢67.2±10.1歳)であった。JHEQは,痛み,動作,メンタルの因子から構成される質問評価票で,20の質問項目(質問点数:0~4点)があり,点数が高い程,QOLが良い事を示す。CE角の計測は股関節正面のX線画像より実施した。統計学的検討は,CE角とJHEQの各因子との関連性をSpearmanの順位相関係数を用いて検討した。また寛骨臼形成不全の診断基準をもとに,20°未満群(18例,平均年齢65±10.7歳)と20°以上群(11例,平均年齢70.8±8.5歳)の2群に分類し,Mann-WhitneyのU検定を用いJHEQの痛み,動作,メンタルの各因子を両群で比較し,その後有意差の認められた因子より質問項目ごとの比較を実施した。有意水準は危険率5%未満とし,統計処理はJSTATを使用し,データは正規性の検討を行った上で実施した。
【結果】
1)CE角とJHEQ各因子の関連性
痛みの因子(rs=0.434,P<0.05),動作の因子(rs=0.38,P<0.05)に正の相関を認め,メンタルの因子(rs=0.283,P>0.05)は関連性を認めなかった。
2)2群間におけるJHEQの各因子の比較:中央値(25%ile-75%ile)
痛みは20°未満群8.5(1-11.25)点,20°以上群9(3-14)点で,有意差を認めなかった。動作は20°未満群2.5(0-6.25)点,20°以上群8(6-12)点で20°未満群で低値を認めた(P<0.05)。メンタルは20°未満群7(2.5-8.25)点,20°以上群9(7-10)点で有意差は認めなかった。
3)2群間における動作因子の質問項目の比較:中央値(25%ile-75%ile)
有意差を認めた項目は,浴槽への出入りが困難である:20°未満群0(0-1)点,20°以上群1(1-3)点,靴下を履くことが困難である:20°未満群0(0-1)点,20°以上群1(0-3)点であり,共に20°未満群で低値を認めた(P<0.05)。
【考察】
股関節症患者の理学療法を実施する上で,大腿骨頭と寛骨臼の関係性を考慮し,寛骨臼形成不全の程度を知る事は重要である。CE角と痛みの関連性では前述した先行研究を支持する結果となり,今回実施した患者の自覚的評価においても関連を認める事となったと考える。動作においては,股関節症患者がADL障害を受けやすい質問項目を,JHEQは含む事が要因になったのではないかと考える。CE角を2群間に分類し比較した場合,動作の因子に対し20°未満群で低値を認め,さらに質問項目による2群間の比較では,浴槽への出入り,靴下着脱動作に有意差がみられ,20°未満群では前述の動作に行いにくさを感じている事がわかった。前述の動作は股関節の屈曲運動を中心としたADL動作で股関節の可動性を必要とする。寛骨臼形成不全では大腿骨頭の外上方への偏位を伴いやすく,また腸腰筋,梨状筋の筋委縮を認める(南角2014)と述べられており,屈曲運動における骨頭求心保持機能の低下が影響として考えられた。
【理学療法研究としての意義】
JHEQは患者主体の自己記入式評価であり患者の自覚的な訴えを評価できるが,その因子に関わる要因は不明な点もある。今回,寛骨臼形成不全の程度がJHEQの因子と関連を認め,また動作面においては屈曲運動を中心とし,可動性を要するADL動作と関連がある事が明らかとなった。寛骨臼形成不全症例に対してはこれらの動作の評価,動作指導,また骨頭求心保持を考慮するなどの理学療法を行う事で,股関節症患者に対する愁訴の軽減,QOLの向上が図れるのではないかと考える。