[P1-A-0233] 体重免荷トレッドミルトレーニングにおいて免荷量が歩幅と歩行率に与える影響
無免荷・低速度条件と免荷・高速度条件の比較
キーワード:部分免荷トレッドミル, 歩幅, 歩行率
【はじめに,目的】
体重免荷トレッドミルトレーニング(Body Weight Supported Treadmill Training;以下,BWSTT)は,脳卒中等の症例に対して歩行能力向上を目的に実施されている。BWSTT中は免荷によって「歩きやすく」なり,おそらく,「速く歩ける」状態になっていると考えられる。歩行速度向上の効果を示す先行研究もある。
しかし,「免荷によって歩行パラメータのどの部分に変化が起きて速く歩けるのか」という問題は,BWSTTによる歩行速度向上のメカニズムの理解にも重要であるのに,まだ良くわかっていない。そこで今回,歩行速度に関する基本的なパラメータである歩幅と歩行率に与える免荷の影響を調べることにした。
ただし,BWSTT中はトレッドミルで速度が規定されているので,対象者が自ら歩行速度を増加させた場合の変化を直接調べることができないという制約がある。そこで我々は,「BWSTTでの免荷時に歩行速度を増やした時に,歩幅が増える(増やせる)のか,歩行率が増える(増やせる)のか」を明らかにすることを目的として,異なる速度・免荷量における異なる歩幅(歩行率)条件での歩行計測を実施した。
【方法】
対象者は健常者10名(男性5名,女性5名,年齢26.8±3.0歳,身長166.6±6.4cm,体重56.2±8.9kg)。長下肢装具(Knee-Ankle-Foot Orthosis;以下,KAFO)を装着し,片脚の膝関節と足関節を固定して歩行することで,KAFO装着患者の歩行シミュレーションとした。装置は,トレッドミル(ミナト医科学,オートランナー,AR-200)と免荷装置(酒井医療,アンウェイシステム,BDX-UWSZ)を使用した。
免荷量2条件(0%,30%),トレッドミル速度2条件(2.5km/h,3.0km/h),歩行3条件(快適歩行,最大歩幅,最大歩行率)での歩行を,順序効果を相殺する順番で実施した。免荷量0%の場合でも,免荷用のハーネスは装着した。今回は,「無免荷・低速度」と「免荷・高速度」の結果の比較を行った。
高速度ビデオカメラ(CASIO,エクシリム,EX-FH25)で対象者の後方から120fpsで撮影。トレッドミルのベルトの両側に20cm間隔で貼付した参照点マーカと両靴の踵下部のマーカのピクセル座標から射影変換により踵の位置座標を求め,安定した歩行の10歩分の歩幅を算出した。トレッドミルの速度を平均歩幅で除算して平均歩行率を求めた。
【結果】
結果を,「各対象者の10歩分の平均値」に関する全対象者の平均±標準偏差として,[無免荷・低速度,免荷・高速度]の順に示す。歩幅(m)は,快適歩行条件:[0.43±0.07,0.50±0.06],最大歩幅条件:[0.57±0.08,0.63±0.08],最大歩行率条件:[0.33±0.03,0.37±0.04]。歩行率(step/s)は,快適歩行条件:[1.64±0.24,1.68±0.23],最大歩幅条件:[1.25±0.18,1.35±0.19],最大歩行率条件:[2.11±0.23,2.32±0.29]であった。「快適歩行条件での歩行率」以外では無免荷・低速度と免荷・高速度の差は有意であった(t検定,p<0.05)。
無免荷・低速度の場合と比較して,免荷・高速度において,歩幅増大・歩行率減少を示した者は4名,歩幅・歩行率共に増大した者は5名,歩幅減少・歩行率増大を示した者は1名だった。
【考察】
免荷・高速度条件においては,歩行率ではなく歩幅を増大させることで歩行速度の増加に対応している結果となった。特に,歩行速度増大に対して4名の対象者が快適歩行での歩行率を減少させたことは大変興味深い(最大歩行率は減少していない)。今回はKAFO装着とはいえ健常者の結果なのでそのまま臨床応用できるわけではないが,例えば「BWSTTの歩行介助時は歩行率よりも歩幅の増大を意識する方が効果的か」というような仮説も今後の検討に値するだろう。
今回は無免荷・低速度と免荷・高速度の結果を10歩の平均を基に解析した結果を示したが,今後,無免荷・高速度と免荷・低速度のデータ,および一歩ずつの歩幅・歩行率の解析を進めたい。
【理学療法学研究としての意義】
BWSTT時の免荷の影響として,歩行率よりも歩幅の増大への寄与が大きいことが示唆された。これは基礎研究面ではBWSTTの歩行機能改善のメカニズム解明の一助となり,臨床研究面ではより適切な指示・介助あるいは対象者選定などのヒントになる。
体重免荷トレッドミルトレーニング(Body Weight Supported Treadmill Training;以下,BWSTT)は,脳卒中等の症例に対して歩行能力向上を目的に実施されている。BWSTT中は免荷によって「歩きやすく」なり,おそらく,「速く歩ける」状態になっていると考えられる。歩行速度向上の効果を示す先行研究もある。
しかし,「免荷によって歩行パラメータのどの部分に変化が起きて速く歩けるのか」という問題は,BWSTTによる歩行速度向上のメカニズムの理解にも重要であるのに,まだ良くわかっていない。そこで今回,歩行速度に関する基本的なパラメータである歩幅と歩行率に与える免荷の影響を調べることにした。
ただし,BWSTT中はトレッドミルで速度が規定されているので,対象者が自ら歩行速度を増加させた場合の変化を直接調べることができないという制約がある。そこで我々は,「BWSTTでの免荷時に歩行速度を増やした時に,歩幅が増える(増やせる)のか,歩行率が増える(増やせる)のか」を明らかにすることを目的として,異なる速度・免荷量における異なる歩幅(歩行率)条件での歩行計測を実施した。
【方法】
対象者は健常者10名(男性5名,女性5名,年齢26.8±3.0歳,身長166.6±6.4cm,体重56.2±8.9kg)。長下肢装具(Knee-Ankle-Foot Orthosis;以下,KAFO)を装着し,片脚の膝関節と足関節を固定して歩行することで,KAFO装着患者の歩行シミュレーションとした。装置は,トレッドミル(ミナト医科学,オートランナー,AR-200)と免荷装置(酒井医療,アンウェイシステム,BDX-UWSZ)を使用した。
免荷量2条件(0%,30%),トレッドミル速度2条件(2.5km/h,3.0km/h),歩行3条件(快適歩行,最大歩幅,最大歩行率)での歩行を,順序効果を相殺する順番で実施した。免荷量0%の場合でも,免荷用のハーネスは装着した。今回は,「無免荷・低速度」と「免荷・高速度」の結果の比較を行った。
高速度ビデオカメラ(CASIO,エクシリム,EX-FH25)で対象者の後方から120fpsで撮影。トレッドミルのベルトの両側に20cm間隔で貼付した参照点マーカと両靴の踵下部のマーカのピクセル座標から射影変換により踵の位置座標を求め,安定した歩行の10歩分の歩幅を算出した。トレッドミルの速度を平均歩幅で除算して平均歩行率を求めた。
【結果】
結果を,「各対象者の10歩分の平均値」に関する全対象者の平均±標準偏差として,[無免荷・低速度,免荷・高速度]の順に示す。歩幅(m)は,快適歩行条件:[0.43±0.07,0.50±0.06],最大歩幅条件:[0.57±0.08,0.63±0.08],最大歩行率条件:[0.33±0.03,0.37±0.04]。歩行率(step/s)は,快適歩行条件:[1.64±0.24,1.68±0.23],最大歩幅条件:[1.25±0.18,1.35±0.19],最大歩行率条件:[2.11±0.23,2.32±0.29]であった。「快適歩行条件での歩行率」以外では無免荷・低速度と免荷・高速度の差は有意であった(t検定,p<0.05)。
無免荷・低速度の場合と比較して,免荷・高速度において,歩幅増大・歩行率減少を示した者は4名,歩幅・歩行率共に増大した者は5名,歩幅減少・歩行率増大を示した者は1名だった。
【考察】
免荷・高速度条件においては,歩行率ではなく歩幅を増大させることで歩行速度の増加に対応している結果となった。特に,歩行速度増大に対して4名の対象者が快適歩行での歩行率を減少させたことは大変興味深い(最大歩行率は減少していない)。今回はKAFO装着とはいえ健常者の結果なのでそのまま臨床応用できるわけではないが,例えば「BWSTTの歩行介助時は歩行率よりも歩幅の増大を意識する方が効果的か」というような仮説も今後の検討に値するだろう。
今回は無免荷・低速度と免荷・高速度の結果を10歩の平均を基に解析した結果を示したが,今後,無免荷・高速度と免荷・低速度のデータ,および一歩ずつの歩幅・歩行率の解析を進めたい。
【理学療法学研究としての意義】
BWSTT時の免荷の影響として,歩行率よりも歩幅の増大への寄与が大きいことが示唆された。これは基礎研究面ではBWSTTの歩行機能改善のメカニズム解明の一助となり,臨床研究面ではより適切な指示・介助あるいは対象者選定などのヒントになる。