第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター1

脳損傷理学療法2

Fri. Jun 5, 2015 11:20 AM - 12:20 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P1-A-0238] 脳卒中患者の退院時ADL・歩行能力に与える影響

―装具を使用した歩行練習開始日と装具作製日による検討―

都志翔太, 前田朋彦, 田中靖華, 土山裕之 (金沢脳神経外科病院)

Keywords:脳卒中, 下肢装具, 歩行能力

【はじめに,目的】
脳卒中治療ガイドライン2009において,発症後早期からの装具を使用した歩行練習がグレードAと推奨されている。しかし,実際に早期から装具を使用した歩行練習の効果についての報告はみられず,装具作製時期に関する報告も少ない。急性期での装具処方は回復期病棟に入るまでの期間が短縮したことにより装具処方が難しくなっている(横井ら,2010)。また,早期から麻痺や痙性などの身体機能面の変化を予測した装具を作製するのは難しいのが現状である。今回,当院における装具を使用した歩行練習開始日による退院時のADL・歩行能力の差を検討し,同様に装具作製日による効果の違いも検討したので報告する。
【方法】
対象は2011年4月から2014年3月までの期間で当院急性期病棟入院後,下肢装具を作製した98例とした。調査項目として,発症から装具を使用した歩行練習開始日までの日数,装具作製までの日数,退院時しているFIM,退院時FIM歩行項目をカルテより後方視的にデータを抽出した。98例のうち歩行練習が1週間以内に開始された33例(before1W群),2週間以内に開始された31例(before2W群),2週間以降に開始された34例(after2W群)の3群に分類した。装具作製期間による分類は,歩行練習開始日の分類と同程度の人数となるように,発症から50日までに作製した32例(A群),70日までに作製した30例(B群),70日以降に作製した36例(C群)の3群に分類した。統計学的検討として,Kruskal-Wallis検定を用いた後Steel-Dwass法による多重比較により3群間の退院時しているFIM,退院時FIM歩行項目を比較した。また発症から歩行練習開始日までの日数と装具作製までの日数で退院時FIM歩行項目との関連について分析するためSpearmanの順位相関係数を算出し,有意性の検定を行った。
【結果】
各項目の平均値±標準偏差について,以下に(before1W群・before2W群・after2W群),(A群・B群・C群)の順で統計結果と示す。退院時しているFIM(点)は(109.5±17.5・90.1±25.3・73.4±32.3),(91.3±28.7・85.1±34.5・95.2±25.9)で,before1W群とbefore2W群(p<0.01),before1W群とafter2W群(p<0.05)に有意差がみられた。退院時FIM歩行項目(点)は,(5.73±0.88・4.61±1.43・4.06±1.70),(4.66±1.78・4.63±1.44・5.06±1.45)で,before1W群とbefore2W群(p<0.01),before1W群とafter2W群(p<0.01)に有意差がみられた。退院時FIM歩行項目との関連については,歩行練習開始日ではr=-0.52(p<0.01)で負の相関関係があり,装具作製日では関連は認められなかった。
【考察】
今回の調査から,装具を使用した歩行練習開始日が早いほうが,退院時のADL・歩行能力が高いことが示され,退院時の歩行能力と負の相関関係も認められたことより早期からの装具療法の重要性を支持する結果となった。急性期からの装具療法においては,発症早期にオーダーメイドの装具を作製するのは予後予測・時間の制約などから困難なことが多く,病院備品の装具での歩行練習開始となる。狩野はオーダーメイド装具との適合の差よりも,装具使用開始時期による効果の違いを重要視すべきと指摘しており,脳卒中急性期では適切な装具療法を提供できる環境が整っている必要があると考える。一方装具作製日の違いにおいては,3群間に有意差がみられなかった。早期から適切な歩行練習が実施できている場合では,多少装具作製時期に差があっても,最終的な能力に差がみられにくいことが考えられる。本研究の限界として,今回対象者の身体機能面や使用・作製した装具においては考慮しておらず,今後は,対象者の条件を揃えた状態での検討が必要と考える。
【理学療法学研究としての意義】
脳卒中急性期では,早期より装具を使用した歩行練習が効果的であり,そのために適切な装具療法を提供できる環境が必要と考える。